宝塚歌劇団 雪組の元トップスターで、現在は舞台を中心に活躍の場を広げる望海風斗さん。9月に初の書籍となる『 望海風斗 第二幕 』を刊行。本書は『日経エンタテインメント!』(日経BP)で2022年3月号からの連載「望海風斗 Canta, Vivi!(歌って、生きて!)」と、退団後1年半たった現在に至るまでの思いをインタビューと写真で構成された一冊となっている。今、この本を手に取って感じることについて話を聞いた。
初の書籍 『第二幕』 は、宝塚を卒業してからの1年半の軌跡
望海さんは、宝塚のトップスター時代は歴代最高とも評された圧倒的な歌唱力と骨太な男役像で宝塚の一時代を築かれました。初めての書籍『第二幕』では、18年間在籍していた宝塚時代を「第一幕」とし、退団してから1年半の新たな望海風斗を「第二幕」としてまとめた1冊ですね。
望海 この本は『日経エンタテインメント!』で毎月連載してきた対談を中心に1冊にまとめていただきました。宝塚を卒業し、外の世界に出てから大きな変化が数多くあって、その変遷がこの本には詰まっています。
退団後はブロードウェイミュージカルである『ガイズ&ドールズ』ではヒロインの1人でアデレイド役、『ドリームガールズ』では主役のディーナ・ジョーンズ、日本初演となる『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』では主演のサティーンを演じ、大活躍でしたね。
望海 有り難いことに次々と舞台に立たせていただきました。それと、本来の私の姿を見ていただき、歌を存分に披露できるコンサートも私にとっては大切な活動の一環ですが、ソロコンサートも退団後に2回開催しました。そんな濃い1年半をまとめた1冊になっています。改めて読み返すと、「ああ、最初の頃はこんなことで悩んでいたなぁ」と既に懐かしくて。私にとっては日記を読むような感覚の本になっています。
振り返ってみると、どういったところに変化を感じますか?
望海 10代の頃から宝塚の男役を目指してひたむきに走ってきた分、退団後は「女性」として舞台に立つうえで不安や迷いや悩みだらけでした。退団した頃、自分がこの先どう変化するのか、自分でも全く予想できていなかったんです。宝塚は辞めた後が大変だ、とも聞いていました。そもそも、あれだけ骨太な男役を目指していた私が女性の役をどう演じるのか、自分の中でも未知でした。この本を見ても、最初の頃の写真や話しぶりは、今になって見返すと笑っちゃうくらい堅くて。
毎月の連載だったので、本になるとその時々で話していることや考えていることを振り返って見えるのが面白いですね。今は乗り越えている壁も、当時はこんなふうに立ちふさがっていたんだな、と。この1年半、改めて濃い日々を過ごしていたんだなと感じています。
「対談相手はすごい人ばかり。会うのも怖かったし、緊張の連続でした」
退団すると、一人で誰もいない海に飛び込んでいくような感覚でしょうか。
望海 そのとおりです。宝塚には18年いましたが、外ではまだ1年目という感覚でした。だから連載で対談のお話をいただいたときも、多方面で活躍されている方たちにお会いすることは失礼じゃないかと、正直、最初は怖かったんです。対談なんて畏れ多いと。
対談相手の方を調べたり、作品を見たりすればするほどすごい方ばかりで。でも、お会いしてみると、皆さん、一人の人間として自分の仕事に真摯に向き合われている。そして、共通していえるのが、人と関わることで何かを作り出すことが好きな方ばかりだということ。同じ志を持って、同じ方向を向いているんだ、と気付かせてもらったことは大きな収穫でした。何もない私も、これから色々なことを吸収していけばいい、今の自分のままでいいんだ、と思えるようになりました。
宝塚時代はトップスターとして圧倒的な人気を誇った望海さんも、宝塚を卒業して新しい世界で生きていくうえで多くの方との対談はいい刺激になったのですね。
望海 宝塚を退団して、これからどう活動するか、どう生きていくか。私にとって新たなスタートの時期だったからこそ、第一線で活躍する方に会って話ができたことで刺激を受けたこと、吸収できたことがたくさんありました。特に、対談したときはコロナが広がっている時期だったので、お会いした方々みなさんがコロナで逆境にあったエンタメ界で戦っているのだと実感し、心強かったです。
卒業して1年半たった今、「私は今のままでいいんだ」と思えるように
この本では演出家の野田秀樹さん、俳優の井上芳雄さん、いきものがかりの水野良樹さんなど、様々なジャンルで活躍する11人と対談されていますが、特に印象に残っている方はいますか?
望海 すごい方ばかりで絞り込めないのですが…。特に緊張したのは野田秀樹さんですね。『Q』という舞台の話を中心に伺ったのですが、以前から「どういった考えで演出されているのだろう」と思っていたので、お会いできて光栄でした。宝塚を卒業して外の世界に出てみると、元宝塚ということがクローズアップされがちで、私も必要以上に意識してしまっていたんです。でも、野田さんをはじめ、色々な方と話すと、舞台には様々な出自の方がいて、どこの出身の人間であろうと関係なく、同じ一人の舞台人として接してくださる。野田さんと対談させていただきながら、ああ、宝塚出身であることや男役だったことを意識しすぎる必要はないな、と。これは私自身が変わるうえでも大切なことだったように思います。
「宝塚の元トップスター」という肩書は大きいですよね。
望海 芸名も「望海風斗」で、いかにも男役ですしね(笑)。でも、『ガイズ&ドールズ』のときのアデレイドや、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のサティーンなど、女性らしい役でも意外と皆さんがすんなり受け入れてくださいました。
宝塚時代を知らない方もたくさん見に来られて、その反応も「あ、この人は宝塚の男役だったのね」くらいで、自分が思うほど違和感ないんだな、と。この1年半、こうした皆さんの反応に安心した部分も多かったです。私自身、当初は宝塚時代の男役の部分が女性を演じながらも出たらどうしよう…と思っていましたが、出会う役ごとに成長させてもらって、今では自分が想像もできなかった場所にいるように感じています。
ほかにも、劇団四季の俳優で『バケモノの子』で主役の熊徹を演じた伊藤潤一郎さんとの対談は、舞台俳優同士の本音が見え隠れして印象的でした。
望海 私は宝塚歌劇団にいて、伊藤さんは今も劇団四季のご所属です。「劇団」に所属している方ということもあり、すごく楽しみにしていた対談でした。私にとって宝塚はもちろん大好きな場所ですが、宝塚では「生徒」であるという一面もあるので、劇団四季のプロ中のプロの目からはどう思われるのだろう、と緊張したことを覚えています。
でも、お話をうかがってみると、形が違うだけで、舞台でやっていることも目指したいものも同じ。それと、伊藤さんも芝居の際に作りこんでしまうことを話されていて。私自身、宝塚時代からですが、つい芝居をやり過ぎてしまうんです。それをどうそぎ落すか。それは今も私の課題なのですが、伊藤さんも同じように感じながらお芝居に取り組んでいるんだ、と心強く感じました。
宝塚時代から「兄」と慕っている井上芳雄さんも対談のゲストに登場されていますね。
望海 もともと、井上芳雄さんの妹さん(初輝よしやさん)が宝塚89期生の同期生。宝塚時代から芳雄さんは私たち同期のお兄ちゃん的な存在なんです(笑)。『ガイズ&ドールズ』でも『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』でも共演することになり、コンサートではゲストにも来ていただきました。トークも上手な方ですから、いつも色々な話を引き出してくださり、対談の時は助けられました(笑)。
この1年半、数多くの舞台に出演され、第30回読売演劇大賞優秀女優賞と第48回菊田一夫演劇賞を受賞しました。新しい「第二幕」の日々にも慣れてきましたか?
望海 宝塚時代と違い、近くに仲間がいて自分の評価がダイレクトに入ってくるという環境ではなかったので、賞を受賞できたことはすごくうれしかったです。しかも、憧れの天海祐希さんと同時受賞だったのは本当に光栄なことでした。私自身は退団した頃に比べて、もっと大きく柔らかく、物事を考えられるようになった気がします。この先も新しい出会いや作品を通して出会うカンパニーを通じて、これからも色々と吸収し、色々な壁を乗り越え、次の段階へと成長していきたいですね。
取材・文/若尾礼子 写真/鈴木愛子



