「昭和」が終わって三十数年。あなた自身が「昭和人間」の場合も、身近な「昭和人間」についても、取り扱い方にはちょっとしたコツが必要です。「昭和人間」ならではの持ち味や真価を存分に発揮したりさせたり、インストールされているOSの弱点をカバーしたりするために、有効で安全なトリセツを考えてみましょう。今回は「お酒」について。
「お酒との付き合い方」は、昭和人間と若者の皆さんとでは大きな違いがあります。もちろん、どの世代にせよ「人それぞれ」「自分はそうじゃない」と言い出したらキリがありません。そこはさておきとして、ノンキな心でお読みいただけたら幸いです。
そんな前置きをしつつ断言すると、昭和人間とお酒との関係は一種の「腐れ縁」と言っていいでしょう。深く付き合わないほうがいいとわかっているのに、なかなか距離を置くことはできない。いっしょに過ごしているときはそれなりに楽しいし、時にひどい目に遭わされても「あれでも、なかなかいいところもあるから」と擁護したくなる……。
昭和人間がお酒に深い親近感を抱いているのは、青春時代にお酒がらみの楽しい思い出がたくさんあるからかもしれません。「お酒をめぐる文化」や「お酒をたしなむカッコイイ大人」への憧れも、子どもの頃からテレビCMなどでさんざん刷り込まれてきました。いくつになっても、お酒に対して夢やロマンを抱いていたりもします。
昭和30年代後半生まれぐらいの昭和人間(私含む)の学生時代は、「村さ来」、「つぼ八」、「大都会」といったチェーン居酒屋が一気に勢力を広げた時期でした。そこで行われたサークルやクラスのコンパで、当時は目新しくて割安だったチューハイやサワーを飲みまくり、初めて見たホッケの干物をつつきながら大いに盛り上がったものです。
今思うと恥ずかしい限りですが、酔っ払うことでいかに我を忘れてバカ騒ぎするか、己の体力と経済力の限界を超えた無茶な飲み方をするかといったことを競っていた節が無きにしもあらず。もうひと世代上は、酔っ払うと暑苦しい議論を始めるのがお約束でしたが、1980年代に入るとそういうのは「ダサい」と見られるようになりました。まあ、何の生産性もないという点では、どっちもどっちですね。
当たり前ですが、若かりし頃の昭和人間の中にもお酒と仲良くない人はたくさんいました。ただ、仲良くすればするほど“エライ”みたいな空気があったところが、令和との大きな違いでしょうか。今思えば、ずいぶん乱暴な時代です。
若者の「お酒」観とは深い溝が
「今の若者はお酒を飲まない」と言われますが、それはデータからも裏付けられています。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、20代で「飲酒習慣(週3日以上、1日1合以上飲酒する)」がある人は、2019年の調査では7.8%(男性12.7%、女性3.1%)でした。30代でも17.2%(男性24.4%、女性11.1%)です。
2017年の調査結果を20年前の1997年と比べると、20代男性は約2分の1、20代女性は約3分の1、30代男性は約5分の2と、いずれも大幅に減少しました(30代女性は微減)。ただ、50代60代の男性も、2~3割減少しています。逆に50代60代の女性は増加しました。
これらの調査時期といえば、まだコロナ禍前です。飲食店関係や観光関係の友人によると、コロナ禍を経て若者の酒離れはまた一段と進んだ実感があるとか。コロナが落ち着いて客足が戻っても、「若者にお酒がまったく売れない」と口をそろえます。
「酔っ払って自分が変わった姿を見られるのは恥ずかしい」
「お酒を飲んでまでコミュニケーションを取る必要性を感じない」
「飲み会やお酒にお金をつかうのはコスパが悪い」
そんな声もしばしば聞こえてきます。昭和人間としてはつい反論したくなりますが、落ち着いて考えると「そうだよなあ」と思えなくもありません。お酒との付き合い方だけでなく、お酒にまつわる“常識”や“価値観”においても、昭和人間と若者とのあいだには深い溝があるようです。
ただ、昭和人間としては、今の時代に合わせて心を入れ替えるというのは、けっこう無理な相談かも。自分たちの“常識”や“価値観”を若者に押しつけるのは極めて迷惑だし恥ずかしい行為ですが、ひと様に迷惑をかけたり体に無理をかけたりしない範囲で、お酒との「腐れ縁」を楽しみましょう。
若者の皆さんにおかれましては、昭和人間が外で食事するときに迷わずお酒を注文したり、行楽地などでスキあらば缶ビールを開けたりする場面に居合わせても、「娯楽の少ない時代を過ごした人たちだからな」ぐらいに思って、生温かい目で見ていただけたら幸いです。酔っ払って調子に乗ってきたときには、どうぞ冷たく接してください。
昭和人間の一部が隠し持つ本音
上の若者のセリフに対する反応もその一例ですが、昭和世代とお酒との関係で、もっとも深刻かつ難しいのは「本音と建前の使い分け」ではないでしょうか。
とはいっても、かつて自分たちがさんざん言われた「俺の酒が飲めないのか」というセリフは、さすがに心の底から「くだらない」と憎んでいます。一部、いまだに口にしているトホホな輩(やから)もいるようですが、すべての昭和人間が言いたがっているとは思わないでください。もし言われたときは、鼻で笑いながら「うわー、懐かしいセリフですね!」と返してやりましょう。「いつから○○さんのお酒になったんですか?」でもけっこうです。
飲み会の最初は「全員とりあえずビールでいいだろ」という認識も、ずいぶん前に改めました。そのへんは何とかなりますが、昭和人間の多くは「いっしょにお酒を飲んだほうが距離が縮まる」と信じているし、会社の飲み会にはそれなりに意味があると考えています。ただ、それを声高に主張することは今は許されないこともわかっています。
「大学生になっても20歳になるまではお酒は飲まない」らしいことにも、本音では激しい違和感を覚えざるを得ません。杓子(しゃくし)定規に誰かを責めることばっかり考えていて大丈夫なんでしょうか。お酒の話とは関係ありませんが、こういうことを書くときには「あくまで個人の感想です」みたいな一文を付けがちな風潮も、何を恐れているのかよくわからないまま自己保身に走るみたいで、バリバリの昭和人間としては嘆かわしいと思っています。
とはいえ、部下や後輩と無理やり飲もうとしたり、まして未成年に「まあ、いいから飲め」とお酒を強要したりはしません。そこはご安心ください。ただ、昭和人間とお酒とのあいだには、自分たちと違う関係性があることを心の隅に留めておいて、迷惑じゃない範囲の、ちょっとした違和感はスルーしてもらえたらうれしいです。
たとえば自分にとっては永遠のアイドルでも、その魅力を若者に理解してもらうことはできません。お酒に対する思いも、似たようなもの。昭和人間は昭和人間なりの深い付き合い方があり、若者には若者のドライな距離感があると自分に言い聞かせましょう。
若者の皆さまの中で、昭和人間っぽいお酒との付き合い方が性に合っているという方がいらしたら、ぜひ一杯付き合ってください。説教や昔の自慢話をするつもりはないし、昭和の常識に従って年長者がごちそうしますので(高くない店に限る)。
- お酒とは「腐れ縁」なんだと自覚し、適度な距離を探ろう
- 自分たちと若者との常識や価値観の溝を埋める必要はない
- 本音と建前を使い分けたほうが結果的にうまい酒が飲める
文/石原壮一郎 写真/Adobe Stock
なぜ10年前の出来事を最近のことのように語ってしまうのか? LINEが無意味に長文になる理由は? ――仕事観やジェンダー観など多様な切り口から「昭和生まれの人間」の不可解な生態に肉薄し、その恥部をも詳らかにする日本初の書籍。「【注】知っておかなくても構わない昭和・平成用語集」も収録。
石原壮一郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)/11月23日発売

