「昭和」が終わって30数年。あなた自身が「昭和人間」の場合も、身近な「昭和人間」についても、取り扱い方にはちょっとしたコツが必要です。「昭和人間」ならではの持ち味や真価を存分に発揮したりさせたり、インストールされているOSの弱点をカバーしたりするために、有効で安全なトリセツを考えてみましょう。今回は「昭和ワード」について。

「お会いできるなんて。感謝感激雨あられです!」
「いやいや、その手は桑名の焼きはまぐりですよ」
「あーあ、骨折り損のくたびれもうけだったなあ」

 昭和の時代は、日々の生活やビジネスの場面で、この手の言い回しが盛んに活用されていました。しかし令和の今は、昭和人間ですらほとんど使いません。

 じつにもったいない話です。上の3つのセリフを伝統的な表現抜きで言ったら、「お会いできてうれしいです」「その手には乗りませんよ」「利益が出なかったなあ」という感じでしょうか。一気に味気なくなるし、込めたいニュアンスも伝わりません。

 ことわざから慣用句、流行語まで、昭和人間の頭の中には、昭和の頃にはよく耳にしたり使ったりしていたけど、いつの間にか忘れている「昭和ワード」がしこたま詰まっています。

 昭和人間としては、ある程度年齢を重ねた今こそ、昭和ワードを積極的に繰り出しましょう。表現の幅や奥行きが広がると同時に、若者に対しては昭和人間としての貫禄や知性らしきものを示すことができます。年上の昭和人間からは「おっ、やるな」と一目置いてもらえるし、同年代の昭和人間同士の場合は連帯感や絆が強まるに違いありません。

声に出して使いたい昭和ワード10選

 多種多様な「昭和ワード」の中から、今日から使いたい選りすぐりの10の言葉を独断と偏見でピックアップしてみました(「選りすぐり」「独断と偏見」も、けっこう昭和ワードですね)。日常的にあまり聞かれなくなっているからこそ、ほどよい昭和感が醸し出されて、それぞれの持ち味もさらに発揮されます。

「うわー、驚き桃の木山椒の木だよ」
(予想外の結果を称賛したいときなど。心からの祝福の気持ちを念入りに表現できる)
「お先にドロンします」
(なるべく角を立てずに飲み会を先に抜けたいときなど。残念な気持ちと帰宅への固い決意を表現できる)
「理屈と膏薬(こうやく)はどこにでも付くからなあ」
(妙な屁理屈で説得してくる相手をあしらいたいときなど。底の浅い理屈へのウンザリ感を表現できる)
「よし、あとは野となれ山となれだ」
(手こずった資料や原稿を完成させて送信した瞬間など。こうつぶやくことで深い達成感を味わうことができる)
「君にとってはお茶の子さいさいだと思うけど」
(ちょっと面倒な仕事を頼みたいときなど。相手のプライドをくすぐって張り切らせることができる)
「許してちょんまげ」
(軽い謝罪の気持ちを示すときなど。お互い、深刻にならずに済むという効果がある。もちろん、本気の謝罪をする場面ではNG)
「焼けぼっくいに火がついちゃったわけだね」
(元カレや元カノと復活したという話を聞いたときなど。冷やかしつつも祝福の気持ちを伝えられる)
「恐れ入谷の鬼子母神(きしもじん)だね」
(仕事の出来や料理の味を賞賛するときなど。期待以上だった気持ちや心からの敬意を表現することができる)
「下手の考え休むに似たりだよ」
(あれこれ悩んでいる人に決断を促したいときなど。ただし、上司など目上の人には使えない)
「そんなバナナ」
(意外な話や返答を聞いて驚いたときなど。ちょっと不満だったり抗議したい気持ちがあったりするニュアンスを軽めに表現できる)

 ほんの一例ですが、昭和ワードに触れてそれぞれのニュアンスを思い出すことで、あらためて昭和ワードの雄弁さを認識していただけたかと存じます。

時には昭和サラリーマンの気分で「この数字の伸びは、驚き桃の木山椒の木ですね!」などと言ってみると人間関係がより円滑になる、かもしれない
時には昭和サラリーマンの気分で「この数字の伸びは、驚き桃の木山椒の木ですね!」などと言ってみると人間関係がより円滑になる、かもしれない
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 昭和ワードの底力は、こんなもんじゃありません。本音をオブラートに包んで表現したいときには、大昔の流行語がオススメです。

 自分にばっかり仕事を押しつけやがって、という不満を表明したいときは、先代の林家三平さんっぽく「たいへんなんすから、もう」と言ってみましょう。ホメられて「そのぐらい当然だよ」とドヤ顔したいときは「当たり前だのクラッカーだよ」、意外な決定を聞かされて驚きと不満を示したいときは「ガチョーン」と言えば、何となく気持ちは伝わります。それぞれの由来や適切なポーズなどは、興味があれば調べてみてください。

 また、一部の昭和ワードには、昭和人間が心に刻んでおきたい教訓が詰まっています。

 「蓼(たで)食う虫も好き好き」は、好みは人それぞれであることをお互いに許容し合おうという精神に基づいた言葉。どんな人にだって自分を好きになってくれる人は現われるはずだ、「自分らしさ」というものにもっと自信を持っていいんだという励ましの意味を読み取ることもできます。まさに、多様性を尊重する大切さを教えてくれていると言えるでしょう。

 「上を見ればきりがないよ」は、自分と人を比べてコンプレックスを覚える無意味さや、闇雲な上昇志向のくだらなさを教えてくれています。このフレーズがあまり聞かれなくなったから、心の中で妬み嫉(そね)みを暴走させる人が増えたのかもしれません。

 中年や初老と呼ばれる年代になって「もう自分も若くないなあ」としょんぼりした気持ちになったときは、「四十、五十は鼻垂れ小僧」という言葉を自分に言い聞かせましょう。人間として本当に一人前になるのは、まだまだ先だという意味です。

若者が昭和ワードを使うのもオツなもの

 若者の皆さまにおかれましては、昭和ワードをうれしそうに使っている昭和人間や、古臭いとしか感じられない昭和ワードをどう取り扱えばいいのか。

 昭和人間が、若者である自分が持っているカバンを見て「おっ、ハイカラだね」とホメてくれたとします。その「ハイカラ」は、言った当人は冗談というかシャレというか、あえて古臭い言葉を使った可能性が大。しかし、若者はごく自然に出てきた言葉だと思いがちです。

 ウケ狙いで昭和ワードを使っているのに、完全にスルーされて普通に「ありがとうございます」しか言ってもらえなかったら、昭和人間としては寂しい限り。「ハイカラってすごい表現ですね」「ハイカラって超久しぶりに聞きました」ぐらいのことを言ってあげると、「いやいや」などとテレながら心の中でガッツポーズをするはずです。

 ほかにも、昭和人間が上の「選りすぐりの10の言葉」のような古臭い言葉を使ったときは、もし気持ちに余裕があったら、少し笑ったり「それ、どういう意味ですか?」と尋ねたりしてあげてください。きっと喜ばれます。

 昭和人間に向かって、若者が「平気の平左(へいざ)ですよ」「今日はよんどころない事情で」といった昭和ワードを繰り出してみるのも、なかなかオツなもの。昭和人間が昭和ワードを使うと「年寄り臭く見える」というリスクがあります。しかし若者が使う分には、えも言われぬ面白みが醸し出るだけで、年寄り臭さを感じさせることはありません。

 手始めに、これまでに出てきた昭和ワードから、気に入ったものを身近な昭和人間に向けて使ってみましょう。間違いなく心を揺さぶることができるでしょう。ただし、あんまり詳しくなり過ぎると、相手は「しゃらくさい」と感じてヘソを曲げてしまうかも。扱いづらくて、どーもすいません。おあとがよろしいようで。チャンチャン。

昭和人間(自分を含む)との付き合い上の注意――今回のポイント
  • 「昭和ワード」を果敢に使うと大切なことがたくさんつかめる
  • 昭和人間は、多くの場合「あえて」古臭い言葉を使っている
  • 若者が「昭和ワード」を使うと昭和人間は喜ぶが、節度は大切

文/石原壮一郎 写真/PIXTA