「昭和」が終わって三十数年。あなた自身が「昭和人間」の場合も、身近な「昭和人間」についても、取り扱い方にはちょっとしたコツが必要です。「昭和人間」ならではの持ち味や真価を存分に発揮したりさせたり、インストールされているOSの弱点をカバーしたりするために、有効で安全なトリセツを考えてみましょう。今回は「男はこうあるべき」問題について。

 前回 「『女はこうあるべき』をめぐる昭和人間の不具合」 は、昭和人間の中にしぶとく残る「女はこうあるべき」という無意識の決めつけについて書きました。よかれと思って決めつけを振り回しがちな習性に警鐘を鳴らしつつ、無批判に「アップデート」という同調圧力に従う危険性も訴えた次第です。

 昭和人間に対して、何でもかんでも「アップデートしろ!」と言えばやり込められると思っているとしたら、安直かつ浅はか。現時点でのはやりという虎の威を借るにもほどがあります。お互いに、もうちょっとちゃんと考えたいところ。

 といったことを踏まえつつ、今回は「男はこうあるべき」が引き起こす不具合にスポットを当ててみましょう。イキったことを言いましたが、昭和人間に染みついている「男はこうあるべき」の呪縛は、さまざまな悲喜劇を巻き起こしています。

「なよなよしてないで男らしくシャキッとしろ」
「男っていうのは繊細な生き物なんだよ」
「えっ、旦那さんの食事の用意してないの!? 大丈夫?」

 たとえば、あなたのまわりの昭和人間が、こうしたセリフを口にしている光景を目にしたことはないでしょうか。言った覚えがある方もいるかもしれません。

 「男らしくしろ」は、叱咤(しった)激励の場面で使われがち。昭和人間がイメージする「男らしい男」は、昔の学園マンガの番長に近いでしょうか。あるいはアクション映画の主人公も、ちょっと入っていそうです。いずれにせよ、べつに目指したくはありません。

 いっぽうで、「繊細な生き物」だとか「いくつになっても甘えん坊」だとか、弱さをアピールしたいときにも、「男」であることが理由にされます。「男」を「女」に入れ替えても、とくに不都合はありません。こういう言い方をする人は、自分の弱さを言い訳するために「男」を持ち出してきているわけです。やることがセコイですね。「男のくせに」。

 食事の用意うんぬんは、中年以上の女性が言いがち。よその夫に対して、妻が食事の準備をしてあげないと何もできないダメ男だと決めつけているわけで、かなり失礼です。ただし、本気で心配しているわけではありません。自分が「夫の食事を欠かさず用意するできた妻」であることのアピールだと思ったほうがいいでしょう。

迷惑な不具合を起こす「5つの原因」

 よっぽどマイペースなタイプはさておき、ほとんどの昭和人間は「男はこうあるべき」という決めつけはよくない、今どきそれをしたら若い人たちから後ろ指を指されるということは、十分にわかっています。「男のくせに女の腐ったようなヤツだな」というセリフは、たとえギャグやパロディーの文脈でも怖くて口にできません。

 気を付けているつもりでも、うっかり「ヒンシュクを買う発言」をしてしまうのはなぜなのか。自覚なく決めつけて、それを有益なアドバイスだと思ってしまうのはなぜなのか。みっともなくて迷惑な不具合を引き起こす「5つの原因」に着目してみましょう。

原因その1「自分の狭い経験や見聞がすべてだと勘違いしている」
「その弁当、自分で作ったの! 変わってるねー」
「男の人って、結局マザコンだからさー」

【解説】自分の中にある「男とはこういうもの」という決めつけは、まったく信用できません。そして「こういうもの」と「こうあるべき」は、限りなく近い関係にあります。世の中は広いし、男もいろいろという当たり前のことに気付きましょう。
原因その2「“わかっている自分”を示したつもりが裏目に出る」
「今の時代、男も料理のひとつぐらいできないとね」
「うかうかしてたら女性に負けちゃうかもしれないよ」

【解説】発言の背後には「本来、男は料理なんてしないもの」「普通にしていれば男性が女性に負けるはずがない」という前提が横たわっています。自分は世の中の変化についていけていると思っている人ほど、こういうピントがズレたことを言いがちです。
原因その3「マウンティングしたいという誘惑にあらがえない」
「ウチの夫は私の手の平の上で上手に転がってくれたから」
「クルマぐらい持ってないと女の子に相手にされないよ」

【解説】要するに「自分は夫を上手に転がした」「自分はクルマを武器にいい思いをした」と自慢してマウントを取りたいだけ。自分の中に「男はこうあるべき」という古式ゆかしい前提があるので、自慢ではなく有益なアドバイスだと思い込むことができます。
原因その4「後ろめたさや罪悪感を正当化したいと願ってしまう」
「男にはつき合いって言うもんがあるんだよ」
「はっきりプロポーズして来ないほうが悪いと思わない?」

【解説】「男には」と主語をでかくすることで、「だからしょうがない」という顔ができます。また、恋愛関係で悲しい破局があったとしても、相手が「男はこうあるべき」という務めを果たさなかったせいにすれば、自分の至らなさを直視する必要はありません。
原因その5「女性をおとしめることで男性である自分を持ち上げる」
「女はすぐに足の引っ張り合いをするからな」
「女同士の人間関係はドロドロしてるもんね」

【解説】この手の発言は、女性をおとしめることで「それに引き換え男はそうじゃないからエライ」と言おうとしています。足の引っ張り合いも人間関係のドロドロも、むしろ男のほうが得意かも。「こうあるべき」にちゃっかり乗っかっているズルい言い方です。
迷惑な決めつけの背景にあるものは「いじましい動機」かもしれない(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
迷惑な決めつけの背景にあるものは「いじましい動機」かもしれない(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
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 昭和人間としては、男性も女性も、不具合を起こす5つの原因をあらためて胸に刻みましょう。それぞれの怖さを十分に認識すれば、困ったひと言を口に出す前に安全装置が働いて、トラブルを防ぐことができるかもしれません。つい言ってしまった場合も、5つのうちどの原因が引き金になったかを検証することで、再発防止につながるでしょう。

 若者の皆さんにおかれましては、昭和人間が「男はこうあるべき」をベースにした不愉快な発言やトホホな発言をした場合は、お手数ですが、5つのうちどれが原因になったのかを考えてみてもらえると幸いです。言ってしまえば、5つとも「いじましい動機」ばかり。「ここまでして自分を大きく見せたいのか」とあきれることができたら、不快感や怒りも鎮まるかもしれません。悲哀を感じたり、同情を寄せたりする手もあります。

 どんな機械もどの世代の人間も、バグや不具合があるのはお互いさま。わかりやすい欠点をつついて「だから昭和人間は」と責めるのは、昭和人間が「男はこうあるべき」を根拠に若者に嫌なことを言うのと同じ構図です。わかり合えない部分はわかり合えないでいいとして、お互いにエールを送りながら、なるべく仲良くやっていきましょう。

昭和人間(自分を含む)との付き合い上の注意――今回のポイント
  • 「男はこうあるべき」という呪縛は思った以上に手ごわい
  • 5つの原因を押さえておけば不具合を減らせる……かも
  • あきれてしまうことで不愉快な発言への怒りを鎮められる

文/石原壮一郎 写真/Adobe Stock