経営者が社内外で言及する重要データの定義と品質が確かとは限らない。データ整備に責任を持つ「スチュワード」を事業部門に置く必要がある。その必要に気付いていないなら情報システム部門から働きかけよう。

 「社内の高い地位にある人が用語を頻繁に使用する場合、彼らにはその用語が何を意味し、どのように測定されるか明確な考えがあると思うだろう。しかし、そのようなことはほとんどない」。この痛烈な指摘はデータマネジメントのコンサルタント、デイビット・プロトキン(David Plotkin )氏の著書『 データスチュワードシップ データマネジメント&ガバナンスの実践ガイド 』(Metafindコンサルティング=髙橋章、市堀誠治、江口裕介=監訳、日経BP)に出てくる。

データに責任を持つ人を任命

 同書には次の例が出ている。「見込客」が「リード」や「商談」そして「顧客」になる流れを説明するプレゼンテーション資料を経営幹部がつくったものの「顧客以外の用語は定義されておらず、いつ状態が変化したかを判断する方法もなかった」。

 「見込客」「リード」「商談」「顧客」を「ビジネスデータエレメント」と呼ぶ。本来なら重要なビジネスデータエレメントを定義し、状態を正しく示せるデータを集める仕組みを整えなければならない。書名にあるデータスチュワードシップとは「データを理解し、信頼し、高品質にし、最終的に企業の目的に適し、利用できるようにするために、人々が適切な組織を作り、正しい行動をするように保証すること」である。

 そのために「ビジネスデータスチュワード」と呼ぶデータに責任を持つ人を事業ごとに任命する。ビジネスデータスチュワードは事業にとって重要なビジネスデータエレメントを見定め、ビジネスルールも含めて定義し、情報システム部門と協力するなどしてデータを集める。事業部門も情報システム部門もデータに関して何らかの要望があるとき、必ずビジネスデータスチュワードに相談する。その上でデータスチュワードが意思決定する。

 こういうことができる人は既にいると著者は指摘する。「ほとんどのビジネス領域には(中略)『疑問に答えてもらうにはあの人のところに行けばいい』とみんなが知っている人物がいる。彼らはデータの意味、ビジネスルール、どのデータをどのような目的で使うか、といった質問に答えることに慣れている。(中略)多くの場合、ビジネスデータスチュワードシップはこの役割と責任を単に正式にしたものである」。

必須だが実践のハードルは高い

 スチュワードは資産などを保有者の代わりに管理する、という意味で執事と訳されることもある。日本ではほとんどなじみのない言葉だがその点を我慢して本書を読み進めると、経営判断や決算発表、ビッグデータやAI(人工知能)の利用、いたるところでビジネスデータスチュワードが不可欠であることが分かる。

 副題に「実践ガイド」とあるようにプロトキン氏はデータスチュワードの役割と責任、必要だと社内で説明する方法、トレーニングの仕方から、重要なビジネスデータエレメントを選び、体制をつくり、データ品質を維持する活動のやり方まで、順を追って詳しく説明している。

 プロトキン氏は主に金融業数社で40年近くデータスチュワードシップを実践しており、経験に基づく助言や具体例を随所で書いている。原著は第二版であり、国の違いを考慮したビジネスデータエレメントの命名法などグローバル企業における実践、国内外のプライバシー規制への対処、非構造データの取り扱い、などが追記されている。縦割りの組織ごとではなく経営や事業に不可欠なデータに着目した取り組みも提言している(データドメインと呼ぶ)。

 だが、日本の企業や団体にとって実践のハードルは高い。まず、事業で使う用語とそれに関するデータについて、これだけの活動が必要だという認識がほとんどない。ビジネスデータスチュワードの候補者は日本でも現場にいるはずだが、正式に置くことへの同意を事業部門から得るのは難しい。スチュワードという言葉を伏せて説明したとしても「データのことなのだから情報システム部門の仕事だろう」と言われてしまいかねない。役割と責任を明確にして人を任命する、といったこと自体、日本の組織は苦手である。

情報システム部門から提案する

 「情報システム部門の仕事」と言われたら逆手にとり、システム部門の側から、データスチュワードが必要だと訴える手がある。例えば次の3点の機会が考えられる。

 コーポレートガバナンスやコンプライアンスに関連付ける。そこでは用語の意味の定義が重要であり、決めたルール通りにことが行われているかどうかを把握しなければならない。経理部門、総務部門の担当役員の問題意識に沿う説明をすれば理解が得られる可能性がある。実際、金融業界などではデータの取り扱い自体に規制がかけられている。

 業務改革の活動に絡める。全社で在庫削減の取り組みがあるとしたら、在庫やそれに影響するビジネスデータエレメントを正確につかむ必要がある。グローバル企業で国や地域ごとに情報システムが異なる場合、在庫にかかわるマスターデータを調整し、同じ定義の在庫データを出せれば業務改革に貢献できる。

 AIやビジネスインテリジェンスなどのプロジェクトに含める。どちらも高品質のデータが求められる。

 いずれの場合も、相手のやりたいこと、困っていることに合わせ、相手が分かる言葉で説明する。データスチュワードを言い換える言葉を用意したほうがよいかもしれない。

[日経コンピュータ2024年7月25日号の記事『重要データを整える責任者 データスチュワードを置こう』を改題して転載]

(写真:beeboys/stock.adobe.com)
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データスチュワードシップは、データを信頼できる、高品質なものにし続ける取り組みです。著者のDavid Plotkin氏はこのテーマの第一人者であり、著書“Data Stewardship”はロングセラーになっています。本書は“Data Stewardship”の第二版の邦訳であり、日本で初のデータスチュワードシップ書籍になります。

David Plotkin 著/ Metafind コンサルティング株式会社訳/日経BP/9900円(税込み)