価値の創造には“Do the right things”の姿勢が必要である。だが情報システム部門は“Do things right”を強く求められる。活動のゴールや原則について事業部門と合意をとることで両立できる。

 物事に取り組む姿勢について“Do the right things”(正しいことを行う)、“Do things right”(正しくことを行う)という言い方がある。マネジメントに関する論考で知られるピーター・ドラッカーは価値を生む貢献には前者が必須であり、後者は効率を高めることだと述べた。成果が出ても効率が悪かった場合、長続きしないから両方の姿勢が求められるものの、両立はなかなか難しい。

 組織のデータやITを預かる情報システム部門の場合、データを間違いなく処理し、システムを止めないことが要求されるから、どうしても“Do things right”が主になりがちだ。それでも組織に成果をもたらすために“Do the right things”の姿勢を忘れてはならない。

 両立させるための示唆を先ごろ発行された『 データマネジメント知識体系ガイド第二版 改定新版 』(DAMA International編著、DAMA日本支部、Metafindコンサルティング監訳、日経BP)から得てみよう。データマネジメントプロフェッショナルの国際団体であるDAMAがまとめた同書はDAMA-DMBOKと呼ばれる700ページ近い大著である。

全体の活動を正しくする

 データマネジメントといった場合、データの価値を高める諸活動をすべて含む。同書は全体像を「DAMAホイール図」としてまとめている。図に書かれた11点がデータマネジメントの領域になり、それぞれを詳しく説明する章が並ぶ。

図 データマネジメントの全体像
図 データマネジメントの全体像
原則、役割と責任がカギ(出所:『データマネジメント知識体系ガイド第二版改定新版』(DAMA International編著、DAMA日本支部、Metafindコンサルティング監訳、日経BP))
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 ホイール図中央の「データガバナンス」が周りにある10領域の取り組みをガバン(監督)する。同書は「第3章 データガバナンス」において、データガバナンスを“Do the right things”とし、主に情報システム部門が担うデータマネジメントの実務を“Do things right”としている。

 前回の本欄で紹介した、事業部門側にいるデータスチュワードシップは主にデータガバナンスを担う。データを集めたり分析したり記録したり、といったデータマネジメント実務は情報システムが担当するよう役割を分担する。

 データガバナンス自体がデータマネジメントの全体像に入っているから、データガバナンスを効かせることで、データマネジメントの諸活動全体が“Do the right things”になり、価値を生めるようになる。

 データガバナンスを含め、11もの領域があるが、それらを説明するにあたり、DAMA-DMBOKは「環境要因ヘキサゴン図」と呼ぶ図に示された、人・プロセス・技術の枠組みを用意している。

 各章ではそこで取り上げる領域について「ゴールと原則」を述べ、具体的にすること(アクティビティー)を説明し、実行に役立つ「ツール」「技法」に触れ、「役割と責任」「組織と文化」といった人に関わるガイドラインを提示して締めくくっている。

「正しいこと」とは何か

 「成果物」とは様々なアクティビティーでつくられるデータモデルやポリシー、アーキテクチャーなどで、これらを使って次の活動がなされるため、環境要因ヘキサゴン図では技術として位置付けられている。

 ここで考えなければいけないのは“Do the right things”における、「正しいこと」とは何かである。ガバナンスという言葉から、法規制やルールの順守、倫理への配慮などが頭に浮かぶ。DAMA-DMBOK自体、倫理を重視し、巻頭と言ってよい第2章の主題を「データ取扱倫理」としている。

 これらはすべて重要であり、データをきちんと集め、記録し、うまく使えたとしても、法規制に違反したり倫理上問題があると批判されたりしたら、正しかったとは言えない。だが、まだ先がある。法規制を守り、批判されなかったとしても、データを使ってさほどの価値を生めなければ「正しいこと」にはならない。

 DAMA-DMBOKに発言が引用されているデータガバナンスのコンサルタント、ジョン・ラドリー氏は自著の中でデータの価値を高め、リスクを減らすための「ガバン」を“Define and oversee the right things”と定義している。つまり、こうすればデータの、そして事業の価値が高まる、といったところまで本来、定義しなければならない。

 そのためには事業部門とそこにいるデータスチュワード、場合によっては情報システム部門の担当者が「こういうデータがあれば事業の価値をもっと高められる」「こうやればそのデータを得られる」といった議論をする必要がある。

 こうするハードルは高いが難しいと言うだけでは情報システム部門の諸活動の価値を高くみてもらえない。前回の本欄と同じ結論になるが、情報システム部門の側から「本来のデータガバナンスを議論しよう」と働きかけることが望まれる。議論の土台は「ゴールと原則」、「役割と責任」、「組織と文化」について事業部門と情報システム部門が共通の理解をすることである。700ページを通読しなくてもそれはできる。

[日経コンピュータ2024年8月8日号の記事『価値を生む「正しいこと」を行う 情報システム部門になるために』を改題して転載]

(写真:ilhamkamal/stock.adobe.com)
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データは現実の世界を映し出します。外界が生きているのと同じようにデータも生きています。実在する商品、製品、サービス、人材、不動産に品質があるようにデータにも品質があります。本書『データマネジメント知識体系ガイド第二版 改定新版』はデータから価値を生み出す方法を様々な角度から解説したものです。

DAMA International 著、編集/DAMA 日本支部 Metafind コンサルティング株式会社 監修、訳)/日経BP/9900円(税込み)