生成AIを使って勝利を得るにはどうすべきか、多くの組織が悩んでいる。今後5年間、AIがもたらす様々な変化を展望した書籍が参考になる。著者は産官学で活動する第一人者であり、多くの示唆が得られる。

 『2030 次世代AI 日本の勝ち筋』(佐藤一郎著、日経BP)と題した書籍が2025年11月発行された。4~5年先に次のAI(人工知能)がどうなっており、それを使ってどう勝つか、多くの組織が知りたい2点を論じている。とはいえAIの変化は速く、2点を見通すのは不可能に近いのではないか。佐藤氏自身、AIにおける勝ち筋を「学者である筆者(佐藤氏)に尋ねるのは、適切とは言い難い」、AI時代に「真っ先に不要になる職業があるとしたら、筆者(佐藤氏)を含めた専門家だ」と書いている。

AIの影響を広範囲に展望

 ところが通読すると驚くことに同書には題名通りの内容が書かれていた。「筆者(佐藤氏)が想像、予測した将来の生成AIの活用を数多く紹介」する手法によって2点を展望する。「活用」の主語は消費者や一般企業だけではなくAIビジネスを手掛けるIT企業まで含む。AIエージェントによって個人と企業の間、企業同士の間で起こる変化から、生成AIサービスのマネタイズ、AIバブルの行き先についてまで言及されている。

 同書における「想像、予測」の数は50件を下らないだろう。「生成AI全体としての『キラーアプリケーション』は(中略)他のAI向け学習データの作成」、「商品サービスの選択・購入をAIエージェントが代行するようになると(中略)宣伝が効かなくなる」といった、考えさせる記述が至るところに出てくる。

 あくまでも佐藤氏の想像を書いているので文末は「ありえます」「考えるべき」「なるかもしれません」などとなっており、「2030年にこうなる確率は何%」といった記載はない。そうなると失礼だが佐藤氏がどのような人かで同書の信頼性や品質が決まる。

 佐藤氏は国立情報学研究所(NII)の教授であり、コンピューターサイエンスの学者だが、ICタグの社会実装を手がけたり、政府のパーソナルデータ活用のルール作りに関わったり、産官学を横断する活動をしている。企業からの相談に乗ることも少なくない。AIに関する「想像、予測」の担い手として第一人者の1人と言ってよい。

 同書は読みやすいと同時に読みにくい。「専門技術についてはできるだけ平易に解説し、幅広い読者層に読んでいただけるよう配慮」しており、ITに関わる人だけではなく、利用部門や経営者でも読めるはずだ。5章では画像や映像を生成するAIを使って未来予測や異常検知をする、「第4の科学としての生成AI」の可能性を論じており、最先端の話を簡潔にまとめている。

 ただし簡潔すぎるきらいもあり、意外な想像がさらっと書かれているため、もう少し知りたいと思っても、すぐ次の話題に移ってしまう。読みにくいと書いたゆえんである。「どの章からも読めるように配慮」した結果だろうか、1冊を通して大きな結論へ向かう書き方になっていない。「コラム」と題された断章が27編も入っており、それぞれ面白いのだが数があまりにも多く、本文を通読しにくい。

 佐藤氏の頭の中にある様々な想像をダウンロードし、各章の本文とコラムに割り振った感じである。佐藤氏が書いている通り、「拾い読み」し、関心を持った箇所について他の文献を探してみるのがよいのだろう。

勝ち筋をどうものにするか

 書名にある「日本の勝ち筋」を評者なりにまとめると次のようになる。特定のドメイン(業種や業務)に特化したAIの開発に力を入れると共に、「そのAIを生かした業務の仕方そのものを輸出」する。日本はドメインによっては世界で競争力がある業務をAIで確立できるという見立てだ。

 そこで次のように進める。「日本企業は、過去の改善活動で蓄積した細かな制約知識や業務ルールを散在的とはいえ社内に蓄えており、それを整理・集約することで、AIエージェントの精度を高められる」。

 AIを活用し、効果を出し、世界に通じるところにまで持っていくには、業務の仕方をより良く変える必要がある。「人間の仕事を柔軟に変更できること」が求められるから、AI時代はジョブ型より日本のメンバーシップ型が向いているという。

 勝ち筋通りに進める前提として既存の情報システムがしっかりしていなければならない。AIエージェントに適切な情報を提供するために「商品の仕様、性能、価格、送料、返品方法など最新情報に関するデータベースを事前に整備しておく」。そうなっていないなら「情報システムがAIを生かせるかを再考」する。

 この勝ち筋には賛成である。評者自身、AIではなかったにしろ、日本の優れた業務の仕方とそれを支える情報システムを世界で展開しようと書いたことがある。基幹システム、とりわけ、そこで扱うデータの品質が重要だという指摘もしてきた。

 だがそういう勝ち筋をものにした企業は少ない。多くは業務を変えることを嫌がる。基幹システムは最低限の保守しかしない。メンバーシップ型で雇用された社員は佐藤氏が期待する「新しい仕事を覚える、すなわち学び続ける」ことをしない。

 2025年最後の本欄で否定的なことを書きたくはなかった。佐藤氏が提示した勝ち筋にそって日本企業が動きだすために何が足りないのか。AIが刺激になり、ついに動き出すのか。そこまで佐藤氏に尋ねるのは「適切とは言い難い」。年末年始、同書を再読し、考えることにする。

(写真: Imaging L/stock.adobe.com)
(写真: Imaging L/stock.adobe.com)

[日経コンピュータ2025年12月25日号の記事『日本にまだある強みを生かし2030年にAIを使って勝つ』を改題して転載]

2030年を見据え、筆者が想像、予測した将来の生成AIの活用を数多く紹介します。現時点で実現できていない活用も含まれますが、読者の皆さんが、生成AIのポテンシャルを生かした活用の可能性を見いだすきっかけとなれば幸いです。執筆に当たってはAIの専門技術についてはできるだけ平易に解説し、幅広い読者層に読んでいただけるよう配慮しました。

佐藤一郎著/日経BP/2200円(税込み)