データマネジメントは全社で取り組む活動だがなかなか理解を得にくい。IT部門がデータ活用を支援するには経営者と現場の納得が前提になる。経営者や現場に分かりやすい書籍が出版されたので利用してはどうか。
データマネジメントが日本でなかなか広まらない理由の1つとしてそもそも名称が分かりにくいことがある。プロジェクトマネジメントならまだしもデータをマネジメントするとはどういうことか。情報システムの中にデータは入っているわけだから既に管理されているのではないか、などと言われてしまう。
経営者や現場担当者も読める
分かりにくさの問題の解決に資する書籍がこのほど出版された。『データマネジメント 仕組みづくりの教科書』(小川康二、仲程隆顕著、日経BP)である。データマネジメントを仕組みづくりと定義し、その説明をする本であり、技術書ではない。
最大の特徴はとにかく分かりやすいことである。既に世界で使われている取り組みや担当者の名称だけは片仮名表記だが、それ以外の専門用語の使用を抑えており、経営者や現場の業務担当者であっても読める。
冒頭でデータマネジメントが現場の業務担当者や経営者にどういう価値を提供するのかを明記している。経営者に向けては「データ資産の覚醒による成長戦略」「見過ごされたデータリスクの解除」「良質なデータというAI(人工知能)への燃料の用意」「組織の戦闘能力の底上げ」「データで語る組織文化への変革」といった5点の価値を示す。データマネジメント担当組織の設置あるいはデータマネジメント活動のための予算措置を経営陣に上申する際、5点のうち、自社の経営者が関心を持つものを選び、自社の実態に合わせて説明できる。
データマネジメントの具体策として7点、「活用プロセス」「データアーキテクチャー」「マスターデータ」「データセキュリティー」「データ品質」「メタデータ」それぞれのマネジメント、そして諸活動を監督する「データガバナンス」を順に説明していく。片仮名がずらずら並び、とっつきにくいことこの上ないが、それぞれについて例え話を出しつつ、簡潔だが分かりやすく記述する。例え話を読み、自社の経営陣や現場の業務担当者に伝わりやすい例えを考えられる。
7点の具体策に対し、概要、原則、推進体制(役割分担)、実施プロセス、ガイドライン文書の目次案、活動のヒントを著者は述べる。ガイドライン文書の目次案は実践的な情報であり、データマネジメントのプロにとっても有用である。
これだけ理解しやすく書けるのは各活動の本質を捉えているからだ。著者2人はデータマネジメントのコンサルティング会社として創業40年を迎えた、データ総研に所属しているプロフェッショナルである。
できるところからやる
同書のもう1つの特徴はAIの時代に人はどうすべきか、明確な方向を示していることだ。AIにできることはAIに任せ、人は人にしかできないことをする。AIを指導し、監督し、最終的な意思決定を下すのは人の役割である。しばしば言われる「AIに人の仕事を奪われるという悲観論は、AIの能力の一側面しか見ていない幻想に過ぎません」という痛快な一文もある。
データマネジメントの本でAIへの言及がある理由は人間とAIが協調するためには、AIに適切なデータを読ませなければならず、したがってデータマネジメントが必須になるからである。“AI Ready”なデータを用意する、という言い方で普及が進まないデータマネジメントを後押ししようというわけだ。しかも本書はデータからビジネスのナレッジをAIによって自動抽出し、さらにAIを賢くできるという未来像を提示する。
もちろんそのためにやらなければならないことは多い。具体策の7点について著者はできるところからやればよいと助言する。実際、7点を同時に、一気に実施することは不可能である。
できるところから、の例として、現場の表計算ソフトの利用をはじめ特定部門の個別最適のためのデータ活用を著者は肯定する。現場が必要だと考えるデータ活用をIT部門あるいはデータマネジメント推進部門がまず支援し、何らかの成功体験を得てもらい、そこからデータマネジメントを全社へ広げていこうという考えである。従来、現場の表計算ソフト利用など個別最適につながるデータ活用はデータマネジメントの立場からは批判されがちだった。
現場の担い手をどう探すか
データマネジメントをできるところから進めていくにしても誰が担い手になるのか。前述した通り、具体策を実行するために必要な担当者とその役割についてまとめた表が7点のそれぞれに付けられている。ところが担当者の名称は「データガバナンス責任者」「全社/業務データスチュワード」「データエンジニア」「データオーナー」など、日本企業にとってなじみがない片仮名表記になってしまう。
名称はともかく、それぞれの役割を果たせる人をどう探すか。これについても「できるところから」になる。データマネジメント組織をいきなり設置できなくても、IT部門から現場の適任者に働きかけていく。
その際「業務データスチュワード役をお願いします」と現場の適任者に言ってはいけない。「なぜそれが必要なのか、それによって自分たちの仕事がどう変わるのかを、現場の業務担当者が日常的に使っている言葉を使い、業務に関連付けて根気強く説明する姿勢が不可欠」である。
[日経コンピュータ2025年10月30日号の記事『データマネジメントは全社活動 経営者や現場に分かりやすく』を改題して転載]
小川康二、仲程隆顕著、日経BP、2970円(税込み)

