スタートアップ側から聞いていた説明に「嘘」があったとき、投資家はどう対応すればいいのか。投資家や起業家、法務・ファイナンス担当者の必携ベストセラーとなった初版を増補改訂した『スタートアップ投資ガイドブック 第2版』(小川周哉、竹内信紀編著、林雄亮、田中真人、松永耕明、彈塚寛之、松村英弥、金澤久太、藤森裕介、八尾理菜、永峰太郎著)から一部を抜粋・再構成する。第3回は、第12章からスタートアップ投資における「表明保証」について解説する。
投資契約に盛り込む「約束」
投資家は、スタートアップから説明を受けた会社の事業計画、財務状況や業績などの情報・事実関係に基づいて投資判断を行うことになるため、スタートアップから提供された情報・事実関係に嘘や間違いがあれば、投資判断の前提が崩れてしまう。
そこで投資家としては、投資契約の中で、投資の前提となる一定の情報や事実関係について、特定の時点を決めた上で(一般的には投資契約締結時点と投資実行時点1)、それが真実かつ正確であることをスタートアップから約束してもらうことが一般的である。このような約束を表明保証と呼んでいる。
投資契約の内容のうち、主要なものの一つが、この表明保証に関する規定である。
なお、スタートアップ側としても、投資家による投資の受け入れ(すなわち株式の発行)を行う前提として、投資家から説明を受けた情報・事実関係に嘘や間違いがあれば、投資を受け入れる前提が崩れてしまうこともあり得る。そのため、投資契約上、投資家においても一定の事項について表明保証を求められる場合がある。ただし、性質上、その対象事項はスタートアップ側より少なくなるのが通常である。
以下では、スタートアップによる表明保証を中心に概要を検討していこう。
違反時の効果をどう規定するか?
投資契約において表明保証に関する規定を置いたとしても、その規定自体は、単に一定の事項(事実関係)について、それが真実かつ正確であることを約束してもらっているにすぎない。
例えば、投資契約締結時点と投資実行時点において「当社の発行済株式数は100株です」ということが真実かつ正確だ、という規定があったとして、それ自体は「なるほど、そうですか」という以上のことはない。
したがって、その違反時──表明保証をした対象事項が真実でなくまたは不正確であった場合(例えば、実はその会社の発行済株式数は110株だったような場合)──に、投資契約上どのような効果を生じさせるか、が重要になる。
この効果として、投資契約で次のような規定を設けることが一般的である。
①表明保証違反の不存在を投資実行の前提条件とし、投資実行までに表明保証に違反する事実が発生・判明した場合に、投資実行を中止することができるようにする規定
②投資実行の前後を問わず、表明保証違反に伴って損害を被った場合には、損害賠償を請求できる規定
これらに加えて日本では、③投資実行以後に表明保証違反が判明した場合には、投資家がスタートアップ(または創業者等)に対して、投資家が投資実行により保有するに至ったスタートアップの株式を買い取るよう請求できるようにする規定(プット・オプションと呼ばれる)を設けることも多い。
このように、表明保証の最も直接的な機能は、(上記①~③の規定とあいまって)投資判断の前提とされた情報・事実関係に誤り(表明保証違反)があった場合において、投資家に対して投資実行の中止の機会を確保し、その情報・事実関係を信頼したことへの救済策を与えること、と捉えられている。もっとも、実際には、投資契約の締結から払込み(投資実行)までの間はそれほど時間を空けないことが多いので、その中心は後者―─救済策の提供―─にあるだろう。
情報の開示・提供の促進という機能
表明保証に期待される機能としては、表明保証の主体(スタートアップ)による情報開示・情報提供の促進、という点も挙げられる。
すなわち、表明保証する前提として、スタートアップは、表明保証違反が生じないよう、その対象範囲を精査する必要がある。また、表明保証の内容が実態とそぐわない場合──表明保証に違反する事実関係がすでに存在している場合──には、実態に即した内容に変更すべく、投資家に対して必要な情報を開示・提供する必要が生じる。
その結果、投資家としても、スタートアップの問題点や、より正確な情報を把握でき、投資判断に反映させることができると考えられている。
この点は、日本より米国の方が圧倒的に強調され、徹底されている。米国では、スタートアップへの投資契約における表明保証は、その効果(例えば損害賠償など)よりも、端的に情報開示のためのツールとして位置付けられている。
米国では、投資契約にプット・オプションが規定される例は少ない。他方、表明保証事項は幅広かつ画一的に規定され、事実と対象事項が異なる場合にはそれをすべて別紙に記載し、詳細に開示する、というアプローチが採られている。
コラム:表明保証をさせれば問題ない?
投資家の立場からすれば、投資実行前にスタートアップを精査できなくても、投資契約においてスタートアップに関するあらゆる事項を表明保証の対象とすれば一安心、と思うかもしれません。そうすれば、万が一表明保証違反があったとしても、投資実行を中止したり、損害賠償等の救済を受けることができるからです。
しかし、表明保証の対象事項や対象範囲を中心に、投資契約に規定される事項は、難解でわかりにくい内容も多くなっています。また、実務に慣れていないスタートアップ(特にアーリーステージでリソースも不足している場合など)においては、専門家によるアドバイス等を十分に受けることができていないケースも見受けられます。
その結果、スタートアップ側として必ずしも適切な対応ができず、表明保証による情報提供機能が投資段階では十分に機能せずに投資実行がなされ、事後的に表明保証違反が判明するケースもあります。
このような場合、投資家による損害賠償等の救済策が規定されていたとしても、実際上、スタートアップの財務状況等からして実効性がなかったりして、十分な救済は受けられないことも多くあります。また、投資家のレピュテーションの観点から、権利行使が難しい場合もあるでしょう。
このような状態は、表明保証違反の事実を認識せずに投資実行した投資家にとっても、投資家から責任追及され得るスタートアップ・創業者等にとっても、きわめて不幸なことです。
そのため、十分な表明保証があるとしても、そしてそれにスタートアップ側が特段修正を申し入れなかったとしても、その状況について相互の認識に齟齬がないように徹底的に摺り合わせをすべきだと感じます。
言い換えれば、スタートアップは表明保証を軽く考えないこと、投資家としても表明保証を「させればよい」というものではないこと、に改めて留意すべきと言えます。
スタートアップへの投資では、通常のM&A取引と異なり取引前のデュー・ディリジェンスが行われない場合も多いと言えますが、気になるポイントや明らかに論点になるポイントに絞った形でもよいので、デュー・ディリジェンスを行うことは重要です。特に、これだけ大きなお金が投資されるようになった昨今では、投資する側の善管注意義務を果たす観点からも、デュー・ディリジェンスを行うべき場合は増えていると考えられます。
小川周哉、竹内信紀(編著)、林雄亮、田中真人、松永耕明、彈塚寛之、松村英弥、金澤久太、藤森裕介、八尾理菜、永峰太郎(著)、日経BP、4620円(税込み)


