『この保険、解約してもいいですか?』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、「65歳から給付金が半額になる保険」の是非を考察する。

 「アフラックから『今の保障を最新のものにしませんか?』という提案を受けて、今の契約を確認したら、65歳から100万円が50万円になるんです。ほとんど“騙(だま)し”ですよね?」

 最近お会いした、60代の方の発言だ。アフラック(*)の「がん保険」の契約内容に不満があるという。筆者は、保険営業の仕事をしていた頃(1995年から2011年ごろ)にも、たびたび、このような声を聞いていた。

 アフラックから1990年に発売された「スーパーがん保険」と97年に発売された「スーパーがん保険Ⅱ型」では、65歳以降、「死亡保険金」「診断給付金」「通院給付金」の給付額が半額になるからだ。

 そのため「がんと診断されたら100万円もらえる。それが心強いと思って、保険に入った。ところが、65歳からは50万円になる。がんに罹(かか)りやすい年齢になったら半額とは。こんな保険を売るのはダメでしょう」といったことを言う人が少なくないのだ。

 筆者も、保険会社に転職して間もない頃、「スーパーがん保険」の契約内容を知ったときは「誰だって『がん保険に入る意味がない』と怒るだろう。なぜこんな商品が売られているのか、不思議だ」と感じていた。

 ただ、しばらくして「アフラックは悪くない」と思うようになった。

* 正式な社名は、アフラック生命保険株式会社

 少し立ち止まって考えるうちに、納得したのだ。

 「ある年齢になったら、保障が半分になる保険の場合、保険料はどうなるのか?」
 「万一のときに保険会社が加入者に支払うお金が減る」
 「とすれば、加入者が月々、保険会社に支払う保険料も少なくて済むはずだ」

 そう考えると、「65歳から半額」「がんに罹りやすくなる年齢になったら半額」というのは、悪くない話だ。

「65歳から半額」が「悪い話ではない」理由

 なぜなら、保険は本来、「発生頻度の低いリスク」に備えるのに向く商品だからだ。「発生頻度の高いリスク」に備える保険が割高になるというのは、常識で考えればわかる。

 アフラックの「スーパーがん保険」は、割高な「65歳からの保障」が小さく、逆に言えば「65歳までの保障」は大きい。「社会人として現役の間の保障」は大きいということだ。現役のときがんに罹患(りかん)したら、就業できない間の所得や子どもの教育費など、手当てが必要になるお金は、引退後より一般に多いだろう。

 つまり、アフラックの保険は、「手厚い保障を現役の間に限定することで、重大な事態に安く備えられる。悪い話ではない」と納得したのだ。

「65歳からの保障」が小さい? 「65歳までの保障」が大きい?(写真:Kumahara/stock.adobe.com)
「65歳からの保障」が小さい? 「65歳までの保障」が大きい?(写真:Kumahara/stock.adobe.com)

 そうはいっても、65歳以降、がんに罹ったらどうかと思う人もいるだろう。

50万円くらい貯められる

 確かに、診断給付金は100万円から50万円に減る。しかし、「普通に働いていたら、65歳までに差額の50万円くらい貯められるだろう。手元に50万円以上のお金がある場合、50万円の給付金にこだわる必要もなくなるのではないか」とも考えた。

 まだ、営業の仕事に就いて2年もたっていない頃のことだ。常識でわかるのがポイントだろう。

 とはいえ、アフラックのがん保険については、その後も「騙された」と言う人たちと会った。例えば「妻が、上皮内がん(*)と診断された。すると、(診断給付金が)100万円ではなくて10万円しかもらえなかった。他の保険会社の場合、100万円出すところもあるようだ。君たちは人を騙す仕事をしている」と言う人もいた。

 「君たち」と、筆者が責められたのは、当時、乗り合い代理店で営業をしていてアフラックの商品も扱っていたからだ。この発言は聞き流すことができず、その場で反論した。

* 厳密には、アフラックのがん保険が、支払いの対象とする疾病は「上皮内新生物」である。上皮内新生物について、アフラックは自社サイトで「がんと同じメカニズムで形成される腫瘍」であるものの「一般的に、がんのような『浸潤』『転移』の可能性がないもの」を指すもので、具体的には、「上皮内がん」のほか、「子宮頸部(けいぶ)の高度異形成」「大腸の粘膜内がん」「皮膚のボーエン病」などが含まれると説明している。

 「少なくとも私は、誰も騙していない。それに、アフラックも、あなたの奥さまを騙していることにはならないと思う」と。

がん保険は「収支プラス」になるかもしれない

 理由については「上皮内がんは、転移や再発のリスクがほとんどないと認識している。また、治療や入院等で大金がかかった例も知らない。したがって、上皮内がんの保障が少額だとしても、そのぶん、保険料が安いと理解したい」と伝えた。

 「仮に、100万円支払われていたら、お金が残ったかもしれませんね。実際、アフラック以外の『がん保険』に加入している方から、『上皮内がんでも100万円もらえた。入院費など十数万円だったから、火災保険で言う焼け太りだ』とお聞きしたこともあります。でも、保険で儲かるって、変ではないですか?」と問い詰めてもみたかったが、やめておいた。

 今、振り返っても、苦い思いがよみがえる。とはいえ、あらためて、学べることもあると思う。保険はお金をもらうためにあるのではない、ということだ。

 では、何のために保険があるのかというと、リスクに賢く備えるためだろう。「賢く」と書いておくのは、保険での備えが適切なリスクを、あらかじめ見分ける必要があるからだ。

 例えば、仮に、がん保険に加入するとして、「一生涯の保障」を約束する商品と「65歳まで期間限定の保障」を提供する商品がある場合、現役世代なら後者を選ぶのが正解だろう。罹患率が低い時期に限定すると、安い保険料で大きな保障を持てるからだ。

 また、上皮内がんの保障であれば、一大事になりづらいので、給付金が100万円ではなく10万円の保険でよいと判断する。これが賢明な利用法に違いない。

アフラックのテレビCMは好きでないが

 率直に言って、筆者は、アフラックの販売手法が好きではない。テレビCMで、がんを経験した著名人に体験談を語らせるのはいかがなものかと思う。実際には「手数料等がわからない不透明な金融商品」なのに、著名人が語ることで「入っておくと安心」と感じてしまう人もいると思うのだ。しかし、アフラックが上皮内がんの保障を高額にしていなかったのは正しい、と思っていることも付記しておく。

 過去形で書いたのは、この3月に発売されるがん保険では、上皮内がんの場合、診断給付金の給付割合を100%とする選択肢も追加されているからだ。

 実は、同社のがん保険は、最近、ビジネス誌の保険ランキングの「がん保険」部門で、ワーストに選ばれている。その理由の一つに、上皮内がんの給付金が減額される点が挙げられていることに配慮したのだろうか。筆者は残念な変節だと感じている。

 がん保険に限らず、高齢期の保障、他人事とは思えない事態に備える保険加入の判断には、願望や感情が混じりやすく、留意したい。読者の皆さまも、判断に迷ったときは「給付金の受給は目的ではないはずだ」と立ち止まってみてほしい。

日経ビジネス電子版 2025年3月21日付の記事を転載]

【経済評論家・山崎元氏&両@リベ大学長】W推薦

「保険貧乏 卒業したい人へ/その保険 いる? いらない? 見極めるための最強マニュアル」大反響、重版続々。保険に入りすぎている「五十嵐夫婦」の素朴な疑問に、保険商品の仕組みから業界の裏事情まで知る著者が、とことんやさしく答えていきます。

後田 亨(著)、日経BP、1760円(税込み)