私たちは日々、「選ぶ」と「選ばれる」を繰り返しています。しかし現代は、選ばれる意味や基準が複雑化し、表面的なテクニックがもはや通用しません。重要なのは、「信頼できる人間力」であり、成長しながら「選ばれる力」を高めることです。本書『選ばれる人の100の習慣』(井上裕之著/日経BP)では、その具体的な方法を紹介します。今回は「信頼関係を築く」をテーマに、本書から一部を抜粋し、お届けします。
「敬意」は関係性を円満に導く潤滑油

人間関係がうまくいっているとき、そこには必ず「尊敬」の気持ちがあります。
互いに尊敬し合う関係性を育めると、仕事でもプライベートでも、とても気持ちよく過ごせます。
尊敬は、年齢や立場に関わらず、相手の中にある素敵なところや魅力に目を向けようとする姿勢から始まります。
私たちには、それぞれ異なる経験や価値があり、その中に魅力的で素晴らしいものが宿っています。
その魅力に感謝や敬意を持って接することで、人間関係はより温かいものになります。
たとえば、チームの成功のために、資料作成やプレゼンの段取りを丁寧に整えてくれるメンバーがいる、あるいは、会議中に真剣に耳を傾けてくれる同僚がいる。
そうした「当たり前のようで多くの人ができていないこと」には、自然と敬意が湧きます。
感謝の気持ちとともに、「この人のこういうところ、すごい」と思えたとき、それは尊敬の表れです。
尊敬の感覚を持って人と接することができれば、行動も変わります。
たとえばパートナーや家族と衝突したときでも、「この人には自分にない視点がある」と思えれば、反論する前に一度耳を傾けようという気持ちになれます。
このように尊敬があると、相手を理解したいという姿勢が生まれ、無用な争いや摩擦が減っていきます。
尊敬の気持ちは仕事の質にも反映されます。
相手の力を信じ、敬意を持って向き合うと、自然と「この人のために力になりたい」という思いが生まれます。
そこには、損得ではなく、一種の強い気持ちが生じる。互いに認め合える空気の中では、成果も自然と生まれてくるものです。
大切なのは、尊敬を「特別なもの」として限定しないこと。
社会的実績や成功も大切ですが、人としての在り方、たとえば誠実さや思いやり、真摯な姿勢にも十分、尊敬の価値があります。その気持ちは、相手にも必ず伝わります。
「この人は自分を認めてくれている」「尊重してくれている」と感じられたとき、人はもっと良い自分であろうとします。
尊敬とは、関係性を育てるための潤滑油です。
能力だけではなく、人格や姿勢にも目を向ける。
もっと気軽に、もっと日常で、もっと多く、人を尊敬することを心がけてみてください。
その姿勢は、あなたをより選ばれる人に近づけてくれるはずです。
相手の「背景」を知ろうと心がける

「いま、この人はどう感じているだろう?」。
このように、人とのやりとりのあらゆる場面で相手の立場に立とうとするだけで、関係性はぐっとよくなります。
自分にとって当たり前のことでも、相手にとっては「嫌なこと」かもしれません。
話しすぎてしまう、正論を押しつけてしまう、親切のつもりが余計なお世話になってしまう……。
こうしたすれ違いの多くは、「相手の立場を想像していないこと」によって生まれます。
大切なのは、相手の価値観や背景を知ろうとすることです。
会話の最中に一方的に話したり、どんどん話を進めたりするのではなく、「どう思う?」と質問をして、相手の考えを知り、自分との違いを認識するようにします。
私が歯科医師として患者さんと接するときは、相手の理解度を丁寧に確認しながら、あらゆる選択肢を伝えます。
説明の過程で、「いま説明したことに対してどう思われますか?」「わかりにくいところはありましたか?」「もう少し違う説明をしましょうか?」と、ところどころで自分の説明が専門的すぎなかったか、患者さんと状況を共有できているかを確認します。
医療人として、相手のこと、相手の価値観を十分理解した上で、相手に寄り添った治療を進めることを大切にしています。
もちろん、医療に限らず、ビジネスにおいても、常に相手の価値観を確認することが大切です。
相手の価値観がまったく自分とマッチしていないと感じる場合もあるでしょう。
対話を重ねてもすれ違ったり、否定されていると感じたり……そんな場合は、相手の自尊心を尊重することを意識して関わってみてください。
人間の本能として「認められたい」「共感されたい」という思いは誰にでもあります。
だから、「素晴らしいですね」「そんな見方があるんですね」など、相手の存在を尊重する言葉を重ねる。
案外それだけで相手は心を開いてくれて、会話が前向きな方向に進みます。
人の心理に寄り添うことは、すべての人間関係において大切な力になるのです。
約束を守れないときに敬意を伝える3原則

つい何気なく、あるいは社交辞令として「今度ごはんに行きましょう」と言うことがあります。
その場では本心だったとしても、実際にその食事が実現することは10回に3、4回くらいではないでしょうか。
選ばれる人は、実現できない約束を避け、守れる約束に全力を尽くします。
もし約束の時間に遅れそうなら、遅れるとわかった時点ですぐに連絡を入れます。
それがたとえ1分の遅れでも相手に伝えます。
到着時間が間に合うか間に合わないか微妙なときは、「遅れる可能性がある」と伝えておきます。
万一、突然のリスケが必要になったときには、理由を丁寧に説明し、自分から具体的な候補日を提案します。
「約束を守る」とは、相手への誠意を持ち続け、相手と相手の時間を大切に思うことです。
「車で駅まで迎えに行きますよ」と言われていたのに、直前になって「やはり別件があって行けなくなった。タクシーで来てください」とだけ伝えられたら、「大切にされていない」と感じてしまいます。
約束とは、「あなたのためにこの時間を空けておきます」という、あなたへの敬意と信頼の表現です。それを反故(ほご)にすると、相手は心のどこかに「雑に扱われた」という傷が残ってしまうのです。
もし、約束を守れないときは次のように対応します。
②事情を丁寧に説明する
③代替案を提示する
約束を守れないときの対応によって、むしろ信頼が深まることがあります。
一番やってはいけないことは、「放置」です。放置は信頼を遠ざけます。
また、約束を破る人に共通するのは、理由をいつも「他人のせい」にする傾向です。「上司に呼ばれて……」「仕事が急に入ってきて……」といった言い訳が続けば、いずれ信頼は静かに、確実に失われていきます。
約束を守る、を肝に銘じましょう。
敬意ある関係からは、ビジネスを超えた絆も生まれる

仕事で知り合った相手でも、付き合いが長くなると、関係は自然と仕事の枠を超えていきます。相談事を打ち明けられるようになったり、家族の話題が出たりと、「人生の領域」にまで関わりが広がっていきます。
こうした関係が育まれると、単なるビジネスパートナーではなく、「この人とならずっと一緒に仕事をしていたい」「この人の成長を見届けたい」と思える存在になります。
そこには、お互いの変化を受け入れ合う心、成果の積み重ね、そして「志」の共有が必ずあります。
仕事の関係が長く続くことで、本音で語れるようになり、仕事の質が上がり、信頼のネットワークも広がっていきます。
紹介やチャンスも生まれやすくなるでしょう。
では、「長く付き合いたい」と思われる人とは、どんな人なのでしょうか。
① 「この人と一緒にいたい」と思わせる人であること
能力よりも、「気持ちで通じ合える」関係性を築くことが大切。
② 信頼と誠実さを大切にする
小さな約束を守る、言行一致を心がける、嘘をつかない。信頼は日々の誠実さから。
③ 一緒にいて「心地いい人」であること
安心して相談できる、雑談も楽しい。そんな温かさや安心感が心地よさを深める。
④ 「人生の話」ができる関係を育てる
仕事の話だけでなく、人生の節目や悩みにも寄り添える関係性を意識する。
⑤ 変化を受け入れ合える柔軟さを持つ
相手の変化に気づき、成長を尊重し、自分自身も変わり続ける姿勢を忘れない。
⑥ 基本的な礼儀をきちんと守る
当たり前のこと、挨拶や時間を守る、丁寧な言葉づかいを徹底して心がける。
⑦ 長期的な関係を築こうという意志を持ち続ける
目先の利益や都合で関係を終わらせず、「この人とはこれからも」と思い続ける気持ちが、長く続く信頼を育む。
どれもすぐに行動に移せることですが、それを徹底できる人はほんのわずかです。
難しく考えすぎず、「大切な人を大切にしたい」という気持ちを具体的な行動として表現するイメージで、ぜひ実践してみてください。

井上裕之著/日経BP/1760円(税込み)
