「50代問題」「50代からの生き方」、一時期はこんなワードがWebメディアや書店の棚をにぎわせましたが、それはいつしか「昭和おじさん・おばさん」嘲笑ブームに変わり、平成生まれ以降の下の世代とは無縁の問題に……? 河合薫さんの新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち』(日本経済新聞出版)より抜粋します。
50代問題から昭和おじさんフィーバーへ
長年、ビジネスパーソン向けのコラムや書籍を書き続けていると、それに関連した取材が増える。特に50代に関する取材は圧倒的に多く「50代問題」「捨てられる50歳問題」「窓際50代問題」「50代の隠れ介護族問題」など、いっときは「どれだけ世の中は50が好きなんだ?」と笑えるほど世間の関心は「50」に集中していた。
やがて、その関心は50代に加えて40代と60代に広がり、「昭和おじさん」とひとくくりにされ、昭和おじさんフィーバーなるものが到来した。おそらく希望退職の対象年齢を40代に引き下げる企業が相次いだことや、定年後再雇用で会社に残る60代が増えたことが影響しているのだろう。
困ったのは取材内容の多くが、心の声を抑えるのに苦心するほどあまりに稚拙、いや、失礼、ステレオタイプにもとづくものばかりという事実だった(以下、→心の声)。
■ なぜ、昭和おじさんはやる気をなくしているのか?
→若い人だってやる気なくしてる人多くないですか?
■ なぜ、昭和おじさんはたたかれることを許してしまうのか?
→許すも何もないというか、許さないって言ったらおじさんたたきやめます?
■ なぜ、昭和おじさんはこんなに女性を目の敵にするのか?
→ 目の敵にしてるわけではないと思うけど、とりあえず昭和おばさん代表として、ごめんなさい!
■ なぜ、昭和おばさんは昭和おじさんの下劣な振る舞いを許すのか?
→下劣? ま、そういうものと言うしかないですよね。
といった具合だ。
「中高年嘲笑ブーム」が一部で到来
なかには、「河合さんが定義した、一括採用、正社員、終身雇用の昭和おじさんだけじゃなく、氷河期世代も昭和おじさんになってますよね。なんでなんですか?」という昭和に氷河をかぶせた質問まであった。これは意味不明すぎて、さすがに心の声がだだ漏れしそうになったので、慌てて心を整え、棘(とげ)をとり、質問返しした。
河合「えっと……昭和おじさんとは、どういう人のことを想定していらっしゃるのですか?」
記者「パワハラとかセクハラとか普通で、残業代のために残業する、それでいて若手にすり寄る、みたいな人のことです。メンヘラも多くないですか?」
なるほど。あまりの辛辣さに絶句した。昭和おじさん・おばさんというフレーズは、このところ目立つ、いわゆる「中高年嘲笑ブーム」のカテゴリーの一つで、一部の人たちから見ると、どうやら「私」たちはかなり不適切な存在らしい。
いっそのこと「老害」を自称するのではなく、「自分、不適切ですから」を口癖にした方がいいのかもしれない。
そういえば、経営者の人たちが集まる会合に呼ばれた際、自身も昭和生まれバリバリの60代の某企業の社長さんが「会社も本気なんで、昭和おじさんはいずれ淘汰される」と話すのを聞きクラクラしたこともあった。階層組織の最上階まで上りつめると「昭和おじさん化」は免除される、あるいは、自分は若者と同じ目線で話ができる「名誉若者」とでもお考えなのだろうか。
とにもかくにも「50代問題」のときには、取材に来る記者さんも30代後半や40代が圧倒的に多く、「やがて自分も……」という危機感がひしひしと伝わってきた。
だが、いつからか「昭和おじさん=不適切な人」と十把一絡(じっぱひとから)げにされたことで、平成生まれ以降の下の世代の危機感はすっかり消えてしまった。
その結果、「会社存続のため」という大義名分で築かれた、40代、50代、60代の「壁」はまるで延々と続く万里の長城のように、乗り越えられない難攻不落の障壁となってしまったのだ。
河合薫著/日本経済新聞出版/1760円(税込)

