「生成AI(人工知能)を導入したけれど、どんな仕事を任せればよいのか分からない」「費用対効果を算出するにはどうしたらいい?」……そんな悩みに答えるのが2024年12月刊『AIに任せる技術 業務別「共生」戦略』(日本経済新聞出版)です。本書は営業やR&D、人事など8部署50業務を徹底分析し、活用方法から最新事例、想定されるリスク、費用対効果の測定方法まで幅広く解説しています。そんな本書から一部を抜粋します。2回目は、「AI導入時の費用対効果を測定する方法」について。
効果算出の前に2つのことを把握する
AIに限らず、システム導入を進める際に避けて通れないのが費用対効果の検討です。費用対効果を適切な方法で示すことができないと、経営層の承認が得られずAI導入プロジェクトは早々に頓挫してしまうでしょう。
一般的に費用対効果とは効果額をコストで除して算出されますので、コストを抑えつついかに効果を最大化するかという観点がとても重要になります。しかし、これは理屈としては非常に簡単な話ですが、実際に費用対効果を算出しようとすると様々な壁にぶつかってしまうケースが少なくありません。ここでは、費用対効果の検討において直面しがちな問題と、それを乗り越えるためにヒントとなる考え方をご紹介します。
費用対効果の検討において、効果をコストで除した値が何%かという議論はもちろん重要ですが、その前段階の話として、AI導入によって、どのような効果とコストが発生するかをしっかりと把握しておくことがより重要です。
コストについては、比較的簡単に考えることができるでしょう。企業における支出には、大きく分けてCAPEX(資本的支出)とOPEX(事業運営費)があります。AIの導入に際して何かしらの開発やカスタマイズを行う場合、それに要する初期費用がCAPEXです。また、OPEXとしては継続的に発生する保守・運用費用や、AIサービスのライセンス料などが挙げられます。
基本的にはそれだけの話です。しかし、特に保守・運用に関して、例えばIT部門の社員が一定の工数を割いてユーザーサポートや管理業務を実施する必要があるといった場合には、そうした負担も「コスト」として考慮すべきかもしれません。このように、外部へのキャッシュアウトのみがコストとは限らないということを、認識しておく必要があります。
効果については、より難しい議論になります。まず、そもそも何をAIの効果として定義するかというところから考え始めなければいけません。
AI活用による効果として分かりやすいのは、作業時間の削減でしょう。これまで3時間かかっていた作業がAI活用により2時間で終わるようになれば、1時間の削減効果が得られたと考えられます。様々な業務で積み上げた削減時間数の合計に、社員の時給単価をかけることで、AIによる削減効果を算出することができます。
なぜAIを過小評価してしまうのか
しかし、これだけが本当に「効果」なのでしょうか。例えば、定量的な指標では表せずとも、AIを活用することで作業品質が向上するなどの定性的な効果も考えられるはずです。あるいは、直接的な品質向上以外にも、AIを使って単純作業が減るなどの理由で、社員の満足度向上といった効果が得られるかもしれません。
また、仮にAI活用により作業時間が削減されたとして、社員はその生み出された時間で何を行うのでしょうか。空いた時間で休憩する、もしくはゆっくり作業をするといった社員もいるかもしれません。一方で、創出された時間を使って新たな提案を考えるなど、プラスαの業務に取り組む社員もいるはずです。
別の観点もあります。先ほど「3時間かかっていた作業がAI活用により2時間で終わるようになれば……」と書きましたが、AI活用による効果は全員一律に表れるものではありません。仮にPoC(Proof of Concept:技術的な概念実証)を実施したとしても、同じ業務で2時間削減できたという人もいれば15分程度しか削減できなかったという人もいて、平均すれば30分程度の削減にしかならないかもしれません。
社員一人ひとりのAIスキルや使いこなし度によって得られる効果は大きく変動するため、仮にPoCで平均30分程度の削減効果という結果が出たとして、その数字をそのままAI導入の効果として見積もってしまうと、AIの価値を過小評価してしまう可能性があります。
AIの効果は4種類に分けると分かりやすい
このように、AI導入による効果を考える際に、どこまでの範囲を効果としてみなすかについては、様々な考え方があります。これらの論点を構造的に整理したのが、下の図表です。
AIの効果について、横軸で「直接的・副次的」×「定量・定性」の4種類を定義しています。それら4種類の効果が、個々の利用スキルや徹底度合いがバラバラ(ありのまま)の状態で利用した場合の効果が①~④で表現されています。さらに、社員の利用スキルが一定水準まで底上げされ、AI活用に対する文化醸成なども進んだ状況での効果が⑤~⑧です。
また、AIの機能や精度は日々進化していくものです。AIを導入してみたものの、現場から「この精度では業務で使えない」という声を聞くことはよくあります。しかし、現在の精度を前提に考えるのではなく、近い将来にある程度の水準までAIの精度が向上した場合、どれくらいの効果が得られそうかということを考えてみることにも、一定の意味があるはずです。それらを表現しているのが、図表における⑨~⑫です。
これらのうち、どこまでをAI導入の効果として織り込むべきかは難しい議論です。例えば、最小限の①(ありのままに活用した場合の作業時間の削減)だけを対象とすると、極めて限定的な効果となってしまい、AI導入の可能性を過小評価してしまうリスクがあります。よって、ありのままの活用だけを前提にするのではなく、少なくとも社員のスキル向上やAI活用に対する文化醸成がある程度進んだ状態でどれほどの効果が得られそうかという⑤の効果を想定して、費用対効果として示していく必要があると考えます。①と⑤の定量効果で、AI導入に要するコストをペイできると示した上で、プラスαとして定性的な効果(②や⑥)があるというところまで言及ができると、AI導入に向けた話を進めやすいのではないでしょうか(図表の破線枠内)。
なお、副次的な効果については、効果の見積もりが非常に難しく、また実現可能性も不透明なものです。例えば「作業時間が削減されたことで追加の営業活動を行うことができるようになり、そこから新たに○○万円の売り上げがもたらされるはずだ」といった皮算用はできますが、保守的に考えるならばこうした波及効果はあえて考慮しないか、あくまでも補足情報として軽く言及してみるくらいがよいでしょう。
また、AIの精度が向上した未来に得られるであろう追加の効果については、特に言及しない、言及するとしても補足情報にとどめておくくらいが現実的です。
アバナード株式会社編/日本経済新聞出版/2420円(税込み)


