本書では、今注目の起業家が「天才でなくてもできること」を尽くして、逆境と困難を突破してきた「成功パターン」を、マインドセットと行動原則に分けてノウハウ化。アイデアを「ここぞ」の場面で繰り出す必殺技ではなく、日常的に役立てる「道具」として活用する術(すべ)が身につき、何が起きても「なんとかなる」と思えるようになります。今回は、逆境と困難を突破するマインドの実例を、本書から一部抜粋し、お届けします。
時給2000万円の会長から10分で「イエス」を引き出したプレゼン
前回の記事で紹介した「CQ」は、実務でも大きな力を発揮します。
世界初の照明一体型プロジェクター「popIn Aladdin」の企画決裁プレゼンでは、このCQを活用した“ある工夫”が、のちに売上100億円規模へ成長するプロジェクトの第一歩となりました。
このプロジェクトは親会社のBaidu(※)にとっても、私たちとっても初めてのハードウェア製造への挑戦。社内には反対や疑いの声がありました。
最終的に企画にゴーサインが出るかどうかは、Baiduの李彦宏会長へのプレゼンテーションで決まります。
中国で「1時間に100万元(約2000万円)稼ぐ人」と言われる李会長の時間を無駄にしないため、彼へのプレゼンには、「10分以内、資料は10ページ以内」などの厳しいルールがありました。
私は、どうやったら「popIn Aladdin」にイエスをもらえるか考えました。
そして、10ページのプレゼン資料は入念に作り込みましたが、プレゼンでは使用しませんでした。
その代わり、1本の映像を流し、このプロジェクトに込めた信念、「家族の思い出を作る」「子どもの世界観を広げる」を話したのです。
映像には、私と妻、子どもたち、家族全員が出演。
1つの部屋に集まり、「popIn Aladdin」をイメージしたプロジェクターで投影したコンテンツを楽しむシーンを収めました。
商品の機能説明は最小限にし、私たちがこのプロジェクトで何を実現したいのか。親も子どもも1人ひとりがスマホで別のコンテンツを見るのではなく、家族全員で何かを楽しむ時間を持ちたい。
そんな親の悩みと理想を表現しました。
信念を動画にして見せることで、本気度や情熱を伝えることにしよう。
何より「親としての悩み」という共通点から入ることで、4人の子どもの父親である李会長も共感してくれるのではないか。トップというより親としての反応が得られるはずだ、という戦略でのぞんだプレゼンでした。
結果、その動画を見終わった後、李会長はすぐに「イエス」をくれました。
ここから「popIn Aladdin」は、優秀な人材や資金といったBaiduのリソースを最大限に活かし、日本と中国の6つの都市で7つのチームが一丸となり、10億円もの資金をかけ、完成していったのです。
「なんとかなるマインド」は、人を「解決モード」に変える
そして、いよいよ「popIn Aladdin」のプロジェクトがスタートしました。
しかしその途中で、プロジェクトの行方を揺るがす大きなピンチに直面し、私はAQをフル稼働させることになります。
それは世界初の照明一体型プロジェクター「popIn Aladdin」の企画・開発中のこと。
先述の通り、このプロジェクトは親会社のBaiduにとっても、私たちにとっても初めてのハードウェア製造で困難続きでした。
それでも中国の四川省成都の工場で4000万円をかけた試作品が完成するところまでたどり着いたときのこと。
新製品に特化したクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で資金を集め、発送時期も決定していました。
ところが、現地で試作品と対面したとき、私は言葉を失うことに。
事前に工場から送られてきた写真ではいい仕上がりに見えていたのに、実際の製品は大きすぎて、男性3人がかりでようやく天井への取り付けが可能という重さだったのです。
「こんなの1ミリもほしくない」、直感的にそう思ってしまったのが表情に出ていたのでしょう。同行していた協力メーカー3社の担当者も言葉を失っていました。
しかし、幸いだったのはその時点の私には、起業家としていくつかのやっかいな困難を乗り越えてきた経験があったこと。それなりのAQが培われていました。
すぐにマインドを切り替え、新たな方針を立てたのです。
「すぐに試作品を作り直しましょう」「そのために、今からみんなでディスカッションしましょう」私はその場にいる協力メーカーの人たちに呼びかけました。
ラッキーだったのは、成都の工場に、popInAladdinのプロジェクター部分の設計・製造工程を担う現地のメーカー、シーリングライト部分を担当する上海近郊のメーカー、全体の設計に協力する東京のメーカーが一堂に会していたこと。
試作品製作の過程では地理的要因もあり、オンラインのミーティングとメールでのやり取りが中心。密にコミュニケーションを重ねてきたつもりでしたが、少しずつ齟齬があったのでしょう。
それぞれのメーカーは仕様書にある仕様を実現してくれたものの、一体化させてみると、レンズを動かすモーターを省いたため映像の投影角度の調整が難しい、中国には日本式のシーリングがないために取り付けの仕組みが難解、何よりデザインが大きくてダサい、といった問題が可視化されたのです。
その状況でも初めての全員集合。助けを求め、手を動かすにはうってつけのシチュエーションでした。
AQは挑戦を止めない限り、困難が糧となり、成長する。
ここから状況は一気に打開。
作り直すという進む方向がはっきりしたことで、各メーカーの担当者が問題点を改善する方法を出し合い、仕様を一新。
24時間後に問題を改善した新たな仕様書が仕上がったのです。
私たちは、試作品を作り直すコストを負担し、発送が2ヶ月遅れることへの謝罪と対応に追われることになりました。
しかし、その代わりに累計25万台以上のヒット作となる世界初の照明一体型プロジェクターの第一弾を完成させることができたのです。
この「popIn Aladdin」での経験は私のAQをさらに高めてくれただけでなく、関わった関係者全員のAQも鍛え、育ててくれたはずです。
そして、人は「なんとかなる」というマインドが持てるようになると、「なんとかする」ためにどこから手をつけ、動いていったらいいかを考えることができるようになります。
逆境と聞くと、その対応は「耐える」というイメージがありますが、「進む」に変えていく。
進み続けていれば、問題は乗り越えられると学んだ経験です。
程涛(著)/日経BP/1760円(税込み)



