昨今のビジネスシーンにおいて、「アート思考」「デザイン経営」といった考え方が注目されている。論理(ロジック)で語られることが多いビジネスの領域ではあるが、「新しい価値を生み出す」ことが求められる中、論理を超えたセンスが不可欠ではないか──。経営者であり、東京2020オリンピック・パラリンピックでは表彰式のクリエーティブを担当、新刊『 余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術 』(日経BP)の著者である山崎晴太郎氏と、日本テレビ報道局プロデューサーである高橋雅昭氏が、「余白」について語った。前編は「番組制作と部下育成における余白の必要性」について。

報道番組で街頭インタビューがキモになる理由

山崎晴太郎(以下、山崎):僕はデザイナーということもあって、「余白」という概念を大切にしています。「余白をきちんと使えるようになろう」なんてことを、社員にもよく言っているんですが、世の中には余白をネガティブに捉えている人も多いんですよね。

高橋雅昭氏(以下、高橋):僕も、テレビ局という番組をつくる組織の中で、年齢を重ねて上の立場になっていくにつれて、余白の大事さが分かるようになってきました。

 テレビ番組はもともと、まったく余白なんて考えずにつくり込んだものが多かったんです。研ぎ澄ました映像にナレーションを入れて、それ自体で完全なものとして届けていたんだけど、最近は、映像と字幕スーパーだけを見せて、出演者たちが自由にああでもない、こうでもないって話すものが多い。そういう余白を最大限に生かした演出が増えましたね。街ブラ番組もコンセプト自体が余白ありきですよね。

高橋雅昭(たかはし まさあき)/日本テレビ放送網 報道局「news every.」チーフプロデューサー。「真相報道 バンキシャ!」「ズームイン!!SUPER」「スッキリ」「スポーツうるぐす」など、報道・情報・スポーツ番組を担当。「news zero」では総合演出を務めた。
高橋雅昭(たかはし まさあき)/日本テレビ放送網 報道局「news every.」チーフプロデューサー。「真相報道 バンキシャ!」「ズームイン!!SUPER」「スッキリ」「スポーツうるぐす」など、報道・情報・スポーツ番組を担当。「news zero」では総合演出を務めた。
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高橋:セイタロウさんにコメンテーターとしてご出演いただいている「真相報道 バンキシャ!」もVTRを見た後にスタジオで受けて出演者が話すでしょう。あの部分も余白だと思いますよ。

山崎:そうか、僕は「余白担当」だったんですね(笑)。確かに、ニュースは事実を端的に伝えるものですし、概念のコアの部分だけを届けると余白がなくなるわけですね。それに対してスタジオのコメンテーターが余白部分を担当しているというのは面白いですね。

高橋:事実を端的に伝えることもそれはそれで大事なのでやりますが、ニュースにも、視聴者が自由に受け止められる要素があってもいいんじゃないかと思うんです。
 僕が今、担当している「news every.」という報道番組でも街頭インタビューのコーナーがそうだと思っています。

山崎:街頭インタビューが余白なんですか。

高橋:以前は、こういうのってオピニオンだけを聞いていたんです。例えば増税のニュースがあったとして、それに賛成か反対かと。

 だけど、今はそうじゃなくて、その人がどんなことを思っているか、どう感じているか、あるいはその人の個人的な話などを比較的長めに聞きます。それを見た視聴者が「私もそう思う」と共感したり、「いや、それは違う」と思ったり、あるいは「かわいそうだなあ」って心が動いたりすることを大事にしたいと思っています。

山崎:やってみて、何か反応はありましたか?

高橋:思っていた以上に、よく見てもらっています。

山崎:視聴率になって跳ね返ってきている、と。

高橋:世相が見えてくることもあるし、自分が何かを考えるときのヒントにもなる。シチュエーションはつくり手が設定して、その中で生まれる偶発性やアドリブを楽しむ。そこに視聴者はリアリティーを感じてくださるのかな、と。

山崎:番組に余白が生まれると、視聴者も入り込みやすくなるのかもしれませんね。

 一方、僕は仕事でCMをつくることもありますが、CMでは余白は許されません。

高橋:15秒しかありませんから。

山崎:そうなんです。そうしたもののあり方も、もしかしたら今後、変わっていくのかもしれませんね。

たった数秒で受ける印象が「優しく」なる伝え方

高橋:セイタロウさんの新刊『余白思考』に書かれていたことですが、「語尾を~(にょろ)で伸ばして、発言に余白をつくる」という感覚、僕もすごくよく分かります。

山崎:「そうですよね~」とか「了解しました~」とかの「にょろ」ですね。

高橋:僕は会話やチャットでよく使うんだけど、それがまさに余白を持たせたいという意図だったんだなって、自分のことながら、改めて気づきました。言い切ると、余白を潰してしまう気がしていたんだと思います。

山崎:立場が上の人間は特にそうですよね。言い切ると「ねばならない」というニュアンスになってしまう。

高橋:その「ねばならない」が、組織がしっかりしていればしているほど、上から下まで一瞬でバッと通っちゃうんですよね。もちろんそれが必要なときもあるけど、番組制作とかクリエーティブな場面では嫌だなって思うときもある。そのときに意識的に使っているかもしれないです。「俺はこっちがいいと思うけどね~」って。

山崎:そうですよね~(笑)。こっちの意図を完全に伝えるよりも、相手がいろいろ考えられる余裕を与えてあげるのって、大事ですよね。

「コミュニケーションでは相手が考える余裕を与えることが大事」と語る山崎氏
「コミュニケーションでは相手が考える余裕を与えることが大事」と語る山崎氏
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山崎:僕は、社内チャットでのスタンプの連続打ちを、同じニュアンスで使っています。反応や印象を伝えたいけど、〇か×かをはっきり伝えたいわけじゃないとき、ありますよね。
 そんなときは、「ポジティブ」「まあいいんじゃないの」「やめたほうがいいかな」という3つくらいの感情のどれかが“ふんわり”伝わればいいと思うんです。それで、1つのスタンプを1回だけ押すよりも、その感情に近いものをいっぱい押して、感情を立体的に立ち上げるようにしています。

高橋:セイタロウさんは社長でもあるから、「ねばならない」にしないためには伝え方にも注意が必要ですよね。

山崎:立場って、人の視野を狭めてしまうところがあります。立場が上になると、相手のことを一切見ないで生きることもできるんだけど、それはまさに「老害」ですよね。そうなってしまったらコミュニケーションなんて成立しない。

高橋:ほんと、そうです。僕が普段セイタロウさんと接していて、そして今回の新刊を読んでとても共感するのは、「相手の話を受け入れられるスペースをつくっておく」という姿勢です。それが「余白」ということですよね。社長とか部長とか、上司に当たる人にそれがないと、たぶん、組織はいずれ滅びる。

山崎:そうなんです。相手の話をまずはいったん受け取って、自分の中に入れる。

高橋:その上で、理由も含めて返す。すごく大事なことですね。

山崎:日本テレビのような大きい組織でも、そういうことは可能なものですか。

高橋:総合演出を任されている人間は、みんなどこか懐が深いというか、「余白」を持っていますね。若手の芸人とか新しい人が出てきたときに、いったん自分の中の余白に入れると、「すごく面白いじゃん」「かっこいいね」と素直に反応できる。これが、余白がないと…。

山崎:バーンとはじいちゃう。

高橋:そうなんです。その人の良さを発見するには、一度受け入れてみることが必要なんですよね。

多様さを受け止める空気は、どうすればつくることができるのか

山崎:先日、1年目の社員と2人でご飯を食べたときに、「セイタロウさんは相手の立場で態度が変わらない。全部楽しそうで、そこに他意がない感じが僕はいいと思う」って言われたんです。

高橋:1年目の社員が社長に! 風通しのいい会社ですね。そして、ちゃんと伝わってますね。

 セイタロウさんの会社に入ってくる人は、どういうことを目指しているんですか。

山崎:すごく多様になりました。昔は僕のコピーをつくるって感じで育てていたんですが、最近はそういう人ばかりでもないし、「デザイナーとして名をはせたい」という人もいれば、デザインを「社会を変える手段です」と言う人もいます。デザイナーのダイバーシティは広がっている実感があります。

高橋:いろんなタイプがいる組織が一番強いですからね。どんなことがあっても、耐えられる。

 それにしても、「全部楽しそう」って、いいですね。「楽しそう」というキーワード、組織づくりにとても大切だと僕も思います。ニュース番組では、難しい話やつらい話題もあるんですけど。

山崎:何もかもを受け止めて、何となくふわふわと楽しそうにしていられるのは「余白」のおかげで、これが僕の伝えたい「余白思考」です。
 これまでは、僕の大事にしている非言語領域の「ふわふわ」を文字にすることに抵抗があって本は書いてこなかったんですが、今回、余白がテーマの本を書いてみたいと思ったんです。

高橋:『余白思考』では、余白とは何かを定義しようとするんだけど、決して決め付けない。決めないことで、そこからまたあがいて答えを探していこうとするから、さらに余白が広がっていく。それがセイタロウさんらしいし、すごく面白かったです。

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(構成/白鳥美子、写真/尾関祐治)

(後編に続く)

「余白=埋めるもの・まだ何も書かれていないスペース」だと思っていませんか? その発想をやめ、「いかに“いい余白”をつくるか」に考え方を変えるだけで、物事の捉え方・見え方が変わり、思考の幅が広がります。「KPIやPDCAでガチガチなのに業績はいまいち」「いつも資料作成や会議でただただ忙しい」「予算や計画に縛られて自由がない」「数字・データ一辺倒で、人の心を軽視している」…そんなビジネスの行き詰まりを突破する、新しい思考法の提案です。

山崎晴太郎著/日経BP/1760円(税込み)