『LONGEVITY GUIDEBOOK 科学的根拠による体調メンテナンス大全』が12月に発売された。ロンジェビティは、単に長寿ということを示すのではなく、「健康で活力ある人生を長く送ること」を意味する言葉で、今米国を中心に世界で大きく注目されている。同書の著者である起業家、医学博士のピーター・H・ディアマンディス氏と親交があり、彼が運営するプライベート・コミュニティ「アバンダンス360」の会員となっているのがジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏。後藤氏は「ロンジェビティ」に取り組むことにより、健康で長く働き続ける「キャリア・ロンジェビティ」が実現できる、と話す。わが国が直面する課題と、長く働き続けるために知っておきたいポイントについて聞いた。
今、米国を中心に「ロンジェビティ(Longevity)」というキーワードが注目されている。その最新の知見を集約した本が『LONGEVITY GUIDEBOOK 科学的根拠による体調メンテナンス大全』だ。同書の著者である起業家、医学博士のピーター・H・ディアマンディス氏は、著書の中で「私の長寿実践法のなかで最も大事な要素のひとつは、長寿マインドセット(*1)を築き、維持することだ」と説いている。
「長寿マインドセット」とは、健康寿命を科学の力で10~20年延ばせると信じること、また、「人生は短い――だが、選択と努力次第で延ばせる」と気づくことだ、とディアマンディス氏は書いている。
ディアマンディス氏は、長寿のための重要なマインドセットとして、「未来に心を躍らせ、生きる理由や生きがいを持つこと」だと記している。そして、自分自身や周りの人に「さらに30年の健康寿命を得たら、その時間をどう使うか?」と問いかけているという。それが自分にとって本当に大事なことだと感情レベルで腹落ちさせると、行動が変わり、成果に決定的な違いが生まれると説く。
ビジネスパーソンに必要な「ロンジェビティ・スキル」
ディアマンディス氏と親交がある、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏は、リスキリングの第一人者として国内外で活動する中で、欧米でブームとなっているロンジェビティに注目した。また、自身の健康改善のために、ディアマンディス氏が勧める食事、睡眠、運動などの習慣を実践することによって異常値だった肝機能を戻し、108kgあった体重を15kg落とすことに成功し、今もその生活習慣を持続させている(詳しくは前編を参照)。
後藤氏は、ロンジェビティに総合的に取り組むことで、自身のマインドセットを大きく高めることができたと話す。そこで得たスキルを「ロンジェビティ・スキル」と名付け、ビジネスパーソンはこのスキルを獲得することで、年を重ねても長く活躍し続ける「キャリア・ロンジェビティ」をかなえることができると提案する。

前回は、欧米でブームになり日本にもその波が訪れようとしているロンジェビティについて、また、後藤さんがディアマンディス氏の著書をもとに生活改善を実践したときに「ロンジェビティ・スキルを磨くことの重要性に気づいた」というお話を伺いました。ロンジェビティ・スキルは、なぜビジネスパーソンにとって重要なのでしょうか。
後藤:その話をする前提として、私が主たる活動のテーマとしている「リスキリング」と出会ったきっかけからお話しさせてください。
私がリスキリングに最初に興味を持ったのは2013年のことで、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏の『雇用の未来』という論文を読んだことがきっかけでした。そこには「今後10~20年で47%の仕事がAIとロボットによって代替される」との予測があり、衝撃を受けたのです。
日本のメディアでも話題になりましたね。その後も、「AIによってなくなる仕事は何か」と議論され、テクノロジーの進化とともに現実化してきています。
後藤:私は『雇用の未来』の論文をきっかけに、「今後、AIなどのテクノロジーの導入により失業する人が増える。この“技術的失業”こそ、人類が向き合うべき最大の社会課題だ」と思い、2018年からリスキリング普及活動を開始しました。ところが当初、日本では危機感が乏しく、行政や企業に提案しても反応は薄かったのです。
しかし、コロナ禍を経て、デジタルスキルの必要性が一気に顕在化しました。「もはやデジタルに対応できないと社会の変化に対応できない」ということで、リスキリングの必要性が社会的に認知されました。2022年にはChatGPTが登場し、「技術的失業」が再び注目され、その年の流行語大賞にも「リスキリング」がノミネートされました。
一方で、「リスキリングとは学び直しのこと」という表面的な理解ばかりが広がってしまっているのが現状です。リスキリングは、転職や資格を取得するといった自助努力によるもの、と思われがちなのですが、本来は企業責任によって行う“事業戦略”なのです。
心身の状態がよくないと挑戦などできない
確かに、リスキリングは個人の自助努力による学び直しのこと、という認識のほうが主流ではないでしょうか。そうではなく、リスキリングは企業を含む社会全体で取り組まなければいけない課題である、ということですね。その社会背景を教えてください。
後藤:まず、AIやロボットによる自動化が進み、テクノロジーの導入によって失業する技術的失業は今後確実に増えていきます。少子高齢化が進み、地方インフラの維持も含め、健康で働く人をいかに増やすことができるかも、喫緊の社会課題となっています。
労働者の絶対数、もしくは求められる絶対数すら少なくなっていき、外国人労働者の増加も予想されます。これまでは当たり前だった「定年延長・役職定年」の廃止が起こり、高齢者の大量失業が起きる事態が到来する可能性もあります。
ただ、このような社会課題にわが国が直面しているにもかかわらず、なかなか伝わらないことが悩みの種でした。講演などで2時間話しても、経営者や自治体の方から「何が重要なのかが分からなかった」と言われることも…。リスキリングが自分ごととして伝わらない理由を考え続けてきましたが、「そもそも何かに挑戦するような心身の状態ではないからだ」ということに気づきました。
それはどういうことですか。
後藤:私はかつて銀行員でしたが、先輩方には「健康を犠牲にして働いてなんぼ」という昭和を象徴するような価値観がありました。令和の今でも、忙しく働くビジネスパーソンの多くにその価値観が残っていて、睡眠時間を削って働いている人が多くいます。健康を犠牲にするような働き方だと、日々を乗り切るので精いっぱいです。新たに何かに挑戦しようという気はなかなか起きません。これが、リスキリングがうまく進まない背景にあるのだと思ったのです。
私自身、人からはいつも元気いっぱいのように見られますが、肝機能が低下し、がんと誤診されたこともあり、そのときには何か新しいことをしようというメンタリティとはほど遠かった。しかし、前回お話ししたように、ピーターのガイドブックに従って、血糖値を測り、睡眠スコアを測り、それを改善していく楽しさを実感したときに、長寿マインドセットが大きく高まったのです。体調に関しても、自分の持つスキルに関しても自信が持てるようになりました。
「ロンジェビティはスキル。新たな知識を仕入れて実践することでスキルを磨く。それによりリスキリングが可能になる」と感じました。ちなみに「ロンジェビティ・スキル」というのは私の作った造語で、食事や睡眠、運動などのロンジェビティに重要な要素を、それぞれをバラバラにではなく、総合的に管理していくことが重要である、という考えに基づいています(図1)。「まず健康になる。そこからリスキリングが始まる」というのが、自らの経験から得た結論でした。

世界でも長寿化に向けた企業の取り組みが課題に
各個人が心身ともに健康になる。それによりリスキリングの実現可能性が高まるということですね。では、先ほどおっしゃっていた、企業における課題とは?
後藤:健康で長く働く人をいかに増やすことができるかが企業や自治体の社会課題となっています。病気を予防し健康寿命を延伸させることで、社会全体の医療費も減らせます。企業にとっては、長く健康に働ける環境を提供することが、今後の採用力と生産性の源泉になっていきます。健診など法的に義務付けられていること以上のことをしない会社より、例えば、血糖値を測る装置を従業員に無償で配る会社のほうが近い将来、確実に選ばれる企業となると私は考えています。
世界経済フォーラムも、2025年3月に『未来に備えるロンジェビティエコノミー(Future-Proofing the Longevity Economy)』レポートを発刊し、長寿化が進む社会における課題について論じています。そこでは、従業員の高齢化に向けて「定年後貯蓄、リスキリング、介護支援、健康支援を統合した包括的福利厚生プログラムを推進する」という項目を、企業が行うべきこととして位置づけています(図2)。

自分の強みを再定義し、デジタルスキルを高めていく
企業側にロンジェビティのための新たな取り組みが求められる一方で、個人がやるべきことは何でしょう。
後藤:健康と学びを両輪に据えた「キャリア・ロンジェビティ」を私は提案しています(図3)。キャリア・ロンジェビティとは、健康で長く働き続ける力を身につけるということ。現在中高年の人は、この先の働き方を見据えて、これまでの経験に加えて新たなスキルを身につけ、AIやロボットと一緒に働く時代に適応していく準備が必要となります。

企業や雇用主の施策に頼っているだけではダメなのですね。
後藤:企業は業務時間内に、企業の戦略に基づいて必要となるスキル習得の支援を行うべきですが、実際のリスキリングを行うのは働く個人となります。
組織に雇用され続ける雇用寿命を延ばすことに加え、雇用に頼らず個人事業主やフリーランスとして自らの働く価値を提供するという視点を加えることによって、労働寿命を延ばしていくことができます。
そのために、自分の強みとしてさらに強化すべきスキルに磨きをかけることが必要です。あらためて自分の強みが何で、今後、労働市場において不要とされるスキルは何なのかを把握するために、キャリアコンサルトに分析してもらったり、実際にやらなくてもいいので転職活動をお試しで実践してみたりすることで、「自分の何が評価されるか」を客観的に把握できると思います。
また、50代以降でデジタルリテラシーがあることは残りの仕事人生で大きな強みになります。デジタル分野のスキルを磨く挑戦にも着手してみてください。
「スキルの寿命は5年程度」という説があり、働き続けるためには定期的なスキルの更新が不可欠です。テクノロジーの進化や業務の自動化により、現状のスキルが役に立たなくなるスピードが加速化する一方、新たなスキルを獲得することで、「スキル寿命」を延ばせば、労働寿命も延ばしていけます。働く選択肢が増え、働き方を主体的に設計できるようになります。
「AIの分野のリスキリングを」と言われてもなかなかやる気が出ないかもしれません。しかし、自分の健康データを知るために新たなツールを使ったり、データ管理をするという「ロンジェビティを実現するための健康データ管理」がドライバーとなり、リスキリングのやる気スイッチが高まる可能性は高いと私は自分の経験から感じています。
「これまでの習慣を手放す」ことも必要
最後に、高齢になってもなるべく働き続けたい、という人に向けてメッセージをお願いします。
後藤:キャリア・ロンジェビティを高める基盤となるのが、心身ともに健康で制限なく活動できる期間である「健康寿命」の延伸です。その実現のためには、「これまでの習慣を手放す」ことが必要になってきます。
そこにはある程度、「トレードオフ」も必要となります。何かを得たいのであれば捨てなければいけないものもある。私の場合は、外食や会食をやめることで、そのコストを健康のための投資にしました。

ロンジェビティ、リスキリング、いずれにも共通することですが、私はよく「人間はtoo good かtoo badがないと環境を変えられない」と話しています。例えば若い頃、彼氏や彼女ができた瞬間に行動ががらっと変わる人っていますよね(笑)。良すぎることが起きると変えようかなと思うことができる。年収を今の倍、出してくれる会社があるなら変わる勇気も持てますよね。私の場合は、肝機能が悪くなり、体重が108kgまで行くというtoo badが起きたので、生活を変えることができました。
人間には必ず、行動するべきタイミングがやってくるものです。みなさんが「後藤が言っていたのはこのことだったのか」と受け取ってくださるときまで、私は伝え続けようと思っています。
恐るべきスピードで変貌する社会に直面する一方で、老後に関して漠然とした不安がありましたが、ペースを落としながらも元気に働き続けるために何が必要なのかが見えてきました。どうもありがとうございました。
(図版制作:増田真一)
[日経Gooday(グッデイ) 2025年12月24日付の記事を転載/情報は掲載時点のものです]
ピーター・H・ディアマンディス(著)、尼丁千津子(訳)/日経BP/2200円(税込み)

