『売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント』(竹内謙礼著)は、人も資金も足りない小さなお店が行うべき販促・集客法を紹介しています。本書のエッセンスをひと言でいえば「アナログとデジタルのいいとこどり」。この連載では本書のさわりや著者の寄稿記事などを掲載します。1回目は「『売っている人の顔』を出しなさい」です。

商品の差がなくなってきた

 今の時代、商品そのもので大きな差は生まれにくい。技術や素材の違いによって多少の差はあるにせよ、同じような価格帯で同じような売り方をしているのならば、お客が違いを認識できるほどの商品による差はなくなっている。

 そのような状況下で物価上昇が起きると、お客はより安価な商品へと向かうようになる。いつものスーパーではなく、多少品質が落ちても安く買えるスーパーへ向かう。最初のうちは不満を感じるかもしれないが、時間がたつにつれ「これでいいや」と思うようになり、商品の質を落とすことへの抵抗が減っていく。

 お客の「これでいいや」の気持ちを止めるためには、「売っている人の顔」を前面に打ち出すのがいい。商品を売っている人が、商品への思いやこだわりを語ることによって、お客の「これでいいや」の気持ちを、「これでなければダメだ」に切り替えてもらう。そうすればお客の安値志向を押しとどめることができる。

 たとえば、スーパーの惣菜売り場で、担当者の顔写真を店頭POPに掲載し、食材へのこだわりや、作り方の工夫などを簡単なキャッチフレーズで表現する。また、惣菜を作った本人が売り場に立って、「私の作ったお惣菜を試食してみてください」と声をかけ、お客とコミュニケーションを取ることも、「売り手の顔を見せて売る」施策のひとつである。

 このように売り手の顔が見えると、お客の「あの人から買いたい」という動機が生まれやすくなり、「安いほうがいいや」の気持ちを防ぐことができる。

 スタッフの顔を出したところで売り上げは伸びないよ、と思っている人もいるかもしれない。確かに単に顔写真1枚をPOPに載せたとしても、商品自体は変わらない。また、人手不足で、そもそもスタッフを売り場に立たせる余裕のないお店も増えているだろう。

 しかし、今日の消費者は明らかに「顔を見せる売り方」を支持している。インフルエンサー、インスタグラマー、ユーチューバー、ティックトッカー。彼ら彼女らが顔を出し、自信を持って商品を薦めると、お客は喜んでその商品を購入する。

 物価が上がる中では、お客はより安い商品を買いたいと思う半面、少しでも良いものが欲しいという思いも強くなっている。価格や性能の差がほとんどないのなら、顔が見える売り手が、「これなら間違いない」と背中を押してくれる商品のほうに手を伸ばすだろう。

 「売り手は顔を出して売ろう」と提案すると、「恥ずかしい」とか「個人情報がさらされて嫌だ」という反論が返ってくる。しかし、顔出しのやり方で成功しているお店を見ると、スタッフに強要しているところはまずない。スタッフ自身が「なんとしてもこの商品を売りたい」という強い思いを抱いていて、どうすればお客にその思いが伝わるだろうと考え抜いた結果、自然と顔を出す売り方に行き着いたところばかりである。

まずは「売りたい気持ち」が大切

 すなわち、「顔を出して売る」やり方は、売り手の覚悟の表れであり、顔や名前をさらしてでも売りたいという、商品への愛情表現なのである。

 もちろん、商品を売りたい思いは強いけれど、顔はさらけ出したくないという人もいるだろう。しかし、そういう人であっても、店頭でお客に声をかけたり、イベントや展示会の場で商品をアピールしたりすることはできる。

(イラスト:諒将)
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 「売り手の顔を出しなさい」というのは、単に顔写真をネットや店頭で露出しなさいということのみを意味しない。まず、商品を通じてお客に喜んでもらいたいという思いを持った売り手が、お客に商品を理解してもらうための方法なのである。

 現実を見れば、チラシやホームページに顔を出すことも、店頭で売り手が自分をさらけ出し商品を売り込むことも嫌がるお店は多い。しかし、こうしたお店ではスタッフの売りたい気持ちが足りないと言わざるを得ない。

 売り手が顔を出して商品を売っているお店は、経営方針にぶれがない。スタッフ全員が一致団結している。スタッフは取り扱っている商品に深い愛情を抱いており、その商品を売ることに強いプライドを持っている。だから、売り手が顔を出して売ることに抵抗感はないし、大好きな商品の価値をお客と共有できることに、強い喜びを持っている。

顔出しありきではなく、「売りたい思い」をお客に伝えることが大切(写真:maroke/stock.adobe.com)
顔出しありきではなく、「売りたい思い」をお客に伝えることが大切(写真:maroke/stock.adobe.com)
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 逆に、売り手が顔を出して売ることに抵抗感を持つお店は、結束力が弱くて、商品に対する愛情が乏しい場合が少なくない。経営者も商品への思いが弱いから、その中途半端な気持ちが、スタッフに伝播してしまう。このような状態では、売り手の気持ちが乗らないので、商品の魅力もお客に伝わりにくい。

 「売り手の顔を出すと売れる」というのは、「顔出し」が目的なのではない。スタッフの「なんとしてもこの商品を売りたい」という思いがまずあって、その延長線上に顔出しがあるのである。

アナログとデジタルの「いいとこどり」で行こう。「お店のQRコードは大きく」「コピーは生成AIで大量に作る」「お客が笑顔になる商品名をつける」。小さいお店だからこそできる売上アップ、集客手法を教えます。

竹内謙礼著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)