世界各国からあまたの秀才が受験するケンブリッジ大学。その入学試験はユニークで、コミュニケーション力を重視しています。理由は、入学後に学びを加速させるのはコミュニケーションのスキルだと考えているからです。飯田史也さんの新刊『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』(日経BP)より、ケンブリッジ大学の入試面接について見てみましょう。
ケンブリッジ大学の伝統的な入学試験
ケンブリッジ大学の教育システムは、コミュニケーションを中心に組まれています。でも、それは高度で、高校を卒業したばかりの学生のすべてがこのような教育方法を最大限に活用できるとは限りません。
もし、コミュニケーションに不向きな学生を入学させてしまうと、その学生だけではなく、そこで手厚いサポートを行う教員たちにとっても、とても大変な思いをすることになります。
そのような理由で、ケンブリッジ大学では、このような「特別なコミュニケーション」ができる資質があるかどうかを試す、伝統的な入学試験を行います。
ここでは、ケンブリッジ大学の伝統的な入学試験のエピソードを紹介します。ケンブリッジ大学の入学試験の最大の特徴は、筆記試験を合格したすべての受験生に対して30分間の個人面接を実施することです。
筆記試験でいくら高得点を取っても、この面接に合格しなければ入学はかないません。毎年数千人もの受験生と直接面接を行うという手間のかかる選抜方法ですが、この方法は大学にとって非常に重要な位置を占めています。
ケンブリッジの学生は他では類を見ないほど手厚いサポートを受けており、不適切な学生を入学させてしまうと、その後の4年間、大学や教官に多大な負担がかかります。ケンブリッジでは、学生はもはや「家族の一員」のような立場にあるため、筆記試験だけで「家族」を選ぶことは到底考えられないのです。
30分間の面接では、ふたりの試験官がそれぞれ12分程度ずつ質問を行います。限られた時間内で非常に複雑な問題を出すことはありませんが、それでも受験生の能力を深く掘り下げることができます。
たとえば、私が以前に使用した質問のひとつは「歩くスピード」に関するものでした。まず、受験生が自分の歩くスピードを知っているかを尋ねます。知っていればその答えを聞き、知らない場合はどうやって考えれば答えにたどり着けるかを問います。
ある学生は「時速4キロほど」と即答する一方で、別の学生は「1キロ歩くのに15分かかるから」と計算を始めることもあります。中には「歩幅が1メートルで、一歩に1秒かかるから、時速3~4キロ」と推論する人もいます。

では、こうした質問で何を見ているのでしょうか。それは、正確な答えではなく、答えがわからないときにどのように考えを進めるかという「思考の習慣」です。
もちろん、答えにたどり着けない受験生もいます。その場合は少し手助けをしながら、ヒントを与え、それをどう活用して考えを深めていくかを観察します。
ここで重要なのは、正確な答えそのものではありません。答えがわからないときに、どのように考えを進めるか。そして、どこで自分の知識が足りないと気づき、どのように助けを求めるか。つまり、知っていることをもとに、コミュニケーションを通じて知らないことを理解するプロセスを見ています。
ここで重視しているのは、単なる知識量ではなく、学びに向かう姿勢と対話を通じて成長できる力です。それは、大学生活の中で、仲間や教官とともに「学びのチーム」を築いていくための、最も重要な資質なのです。
共に発見することを楽しめるのが、ポテンシャルが垣間見える瞬間
場合によっては、この質問だけで12分すべてを使ってしまうこともありますが、それでも議論を思いがけない方向に進められる受験生がいることも事実です。
これまでに考えたこともなかったような問題でも、少しのヒントから、重力や遠心力などの物理法則を使って、なぜ歩行速度が時速4キロほどなのかということを説明してしまう人もいます。
「だとすれば、月面での歩くスピードは遅くなるに違いない」などと、嬉々として話をする人もいます。このような会話が、学生たちのとてつもないポテンシャルを垣間見る瞬間です。対話による人間関係の構築技術をこの面接では評価し、それをもとにこれから4年間徹底的に面倒を見る学生たちを選んでいきます。
これまで本文でお伝えしてきた、コミュニケーションから自分の知識を深めたり、新しく発見するとはこのようなことです。これらの面接では、問題の解答をすらすら答えることは期待していません。
むしろ、どのような態度で試験官と接し、コミュニケーションを通じて思考を深めることができるか、どのように議論を発展させることができるかを見極めます。このようなコミュニケーションを利用する学び方ができるかどうかが、その人のこれからの「伸び代」を決めてくれるからです。
「学び」という問題を、800年にわたり考え抜いた組織、それがケンブリッジ大学です。この本でいう学びとは、一過性の学びではありません。人生を通じて自分の支えになり、できるだけ遠くに連れて行ってくれる学びのことです。その学びのキーワードは「コミュニケーション」です。ひとりで机に向かってする勉強は、学びのサイクルの一部分にしかすぎません。人間の本質的な学びとは何かを知り、自分の学びに生かすことができる本です。
飯田史也著、日経BP、1980円(税込み)

