800年にわたって、ケンブリッジ大学はノーベル賞受賞者などの天才や世界的リーダー、ビリオネアなどを輩出してきました。その背景には、この大学が持つ「学びのしくみ」があるのです。ケンブリッジ大学教授の飯田史也さんは、学びとは「生き方そのものを形づくるもの」だと言います。ケンブリッジの学びの神髄とは何か? 飯田さんの新刊『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』から抜粋して紹介します。
驚異的に成長できる「最高峰の学び」が確かに存在する
「ケンブリッジ大学」という名前を聞いたことがない人は、ほとんどいないでしょう。
世界最古の名門大学のひとつであり、物理学の父アイザック・ニュートンや、進化論を提唱したチャールズ・ダーウィンといった、科学史に名を残す偉人たちが学んだ場所です。
それだけではありません。清教徒革命の指導者オリバー・クロムウェル、ハーバード大学の創設者ジョン・ハーバード、シンガポール建国の父リー・クアンユー、さらには英国王チャールズ三世まで、多くの歴史的リーダーたちもケンブリッジで学びました。さらにこの大学は現在に至るまで、数多くのビリオネアを輩出し続け、世界の大学ランキングでも常に上位に名を連ねています。
この輝かしい実績にひかれ、世界中から将来を嘱望される高校生たちがケンブリッジを目指します。そこに入学できれば、成功への切符を手に入れたも同然だと言われるほどです。
では、ケンブリッジ大学は一体どのようにして、数多くの成功者を育てているのでしょうか?
もともと地頭の良い人たちが、その才能をつぶされることなく自然に伸びていくだけの環境なのでしょうか? それとも、運よく成功した人の陰で、多くの失敗者が見過ごされているのでしょうか?
実際はそうではありません。ケンブリッジ大学に入ることは簡単ではありませんが、一度入学すると、学問分野にかかわらず、ほとんどの学生が失敗することなく驚異的に成長し、自らの道を切り開いていきます。
なぜ、どんな人にも、どんな分野にも通用する「成功のための学び」が、そこでは可能なのでしょうか?
学びを通じて、自分の生き方をつくろう
ケンブリッジ大学に入学した学生たちは、他に類を見ないほど手厚いサポートを受けて学んでいきます。学生一人一人が「家族の一員」として扱われ、あらゆる工夫としくみによって、学びだけでなく生活全体が充実するような環境が整えられています。
こうした環境は、建学から800年もの歳月をかけて築き上げられてきました。ここで行われている学びは、単に知識を詰め込むためのものではありません。むしろ、文化や生活習慣、対話や思考のスタイルなどと深く結びついた「生き方そのものを形づくる学び」です。
大学生活という人生の大切な時期を通して、学生たちは「学ぶとはどういうことか」を根本から体得していきます。このような学びの考え方は、ケンブリッジだけでなく、オックスフォードやハーバードなど、世界中の名門校にも共通する「教育を形づくる柱」となっています。
世界トップの大学に共通する「学びの構造と思考法」には、確かな普遍性があるのです。しかし、このような「本質的な学び」は、一部のトップ大学でしか得られない特別なものではありません。
もちろん、世界のトップ大学で実践されている学びを誰もが簡単に再現できるわけではありません。独特の思考法、生活のリズム、そして一定の基礎的な力が求められます。
しかし、これらは決して生まれつき備わっていなければならないものではなく、どのような環境にいても、どのような人生の段階においても、後から十分に身につけることが可能なスキルや習慣です。ケンブリッジなどの一流大学にいなければできないようなモノでもありません。本質を知れば、自分で再現できるはずです。
ただし、ひとつ大切なことがあります。学ぶということは姿勢そのものです。思考のあり方や生活スタイルといった自分の学びの姿勢を変え、新しくつくりあげていくことは時間がかかるものです。この記事ではさわりだけになりますが、 本書 では、そのプロセスを誰にでも実践できるよう、一歩ずつ丁寧に紹介しています。学びを通じて「自分の生き方をつくる」、そのような体験の入り口として考えてみてください。
「自分オリジナルの文脈」がもたらす驚くべき成果
ここまで「本質的な学び」について述べました。では、そこまでして本質的に学ぶ意味は本当にあるのでしょうか? もっと気楽に、表面的に学びを楽しむだけでもよいのではないでしょうか?
そもそも「本質的な学び」が、人生を変えるような成果につながるのでしょうか?
もちろん、あなたがこれからどんな成果をどれほど上げるのかを、私が予測することはできません。できるのは、ただひとつ、この学びの方法を実践してきた人たちが、実際にどのような成果を上げてきたかをお伝えすることだけです。
幸い、ケンブリッジ大学には800年という長い歴史の中で積み重ねられた実績があります。その歴史そのものが、この学び方の心理的な土台になっています。
たとえばニュートンやダーウィンといった偉大な科学者たちも、この方法を通して自らの知を深めていったと伝えられています。もっとも、何百年も前の話では、現代を生きる私たちには少し実感が湧きにくいかもしれません。
そこで、ここで私自身がこの10年間で見てきた、もう少し身近な例をあげましょう。私が関わってきた学生の中には、若くして世界の名門大学で教授になった研究者や、数年のうちに数百億円規模の企業を築いた起業家もいます。また、企業のプロジェクトでユニークな発想から大きな成果を生み出したエンジニア、あるいは小中学校で独創的な学習プログラムをつくり、未来の才能を育てようと情熱を注ぐ教師もいます。
振り返ってみると、彼らは入学した当初、特別に際立った存在だったわけではありません。ケンブリッジという名門に入学できた幸運を除けば、他の学生たちと同じように講義を受け、同じように課題に取り組み、試験の成績にも良しあしがありました。
しかし、ある時期から少しずつ差が現れはじめます。それぞれの頭の中で、学んだ知識がひとつの「文脈」を持ちはじめた瞬間です。断片的な学びが、自分なりの意味を帯びてつながり出すとき、その人の中に「自分オリジナルの文脈」が立ち上がっていきます。
実は、そのプロセスの中心には、常に「コミュニケーション」が存在します。多くの優れた人たちと語り合い、学び合い、助けを得て、ときには自信を与えられる。そうした豊かな交流の中でのみ、学びが文脈を得て、深く根づいていくのです。
私たちは学校で多くのことを学びます。しかし、その一つひとつが直接、何かの役に立つことはほとんどありません。大切なのは、膨大な知識の中から、自分だけの文脈を見いだし、その文脈に基づいて日々の生活や人生を形づくっていくことです。このようなプロセスこそが、「最高峰の学び」といえます。
「学び」という問題を、800年間に渡り考え抜いた組織、それがケンブリッジ大学です。この本でいう学びとは、一過性の学びではありません。人生を通じて自分の支えになり、できるだけ遠くに連れて行ってくれる学びのことです。その学びのキーワードは「コミュニケーション」です。ひとりで机に向かってする勉強は、学びのサイクルの一部分にしかすぎません。人間の本質的な学びとは何かを知り、自分の学びに生かせる本です。
飯田史也著、日経BP、1980円(税込み)
掲載当初、記事末の囲み内のタイトルに誤りがありました。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。 [2026/1/13 21:30]


