内容紹介

著者のスディール・ヴェンカテッシュは、『ヤバい経済学』の著者で、優れた経済学者であるスティーブン・レビットと犯罪の共同研究をしている異色の社会学者だ。すでに翻訳されている『ヤバい社会学』は、本格的な社会学的フィールドワークである本書が書かれた舞台裏をノンフィクションとして描いたものだ。

さて、本書だが、シカゴの黒人貧民街に焦点を当て、1990年代半ばから2003年まで調査研究したレポート。公的資金や行政支援の届かない地域(インナー・シティ)では、ほとんどの住民が地下経済に関係している。ギャング、売春婦、非合法の会計士、占い師、強盗、車泥棒、画家、ミュージシャン、銃の売人などが織り成す「ネットワーク」経済。その姿をインタビューを駆使して明らかにしていく。

この社会では、聖職者も警察官も売春婦も「仲間」であり、お互いがお互いを必要とし、ときに裏切り、ときに協力し合う。ヴェンカテッシュは彼らの中に自然とおさまり、各種の相談事を受ける。それは、犯罪者、売春婦とも共感できる感性をもった研究者だから。豊かではあるが、人間のつながりを欠いた冷たい社会とは好対照な、アメリカの活気に満ちた熱い社会。やわな「格差論」を吹き飛ばす迫力をもったルポだ。