内容紹介

日本のものづくりは、大きな曲がり角に差し掛かっている。製造業は日本経済の足腰を担ってきた基盤だが、ものづくりのグローバル化が進行するとともに、コモディティ化対応やモジュラー化などの新しいトレンドの中で、ものづくりの在り方そのものを問い直さなければならない時代となった。ここで「ものづくり日本」を革新できれば、その強さは不動のものとなるが、現状のままであれば、世界のものづくりにおける日本の地位は低下していく、という危機感が広まっている。しかし、企業経営の視点でも、製造領域での現場的な視点でも、そして国家的国策の視点でも、その具体的な戦略について議論している書籍はほとんどない。

本書で提案するのは、今でもなお日本が世界に誇れる「現場力」を強化するために、ITを高度活用してバーチャル空間での生産準備を行うとともに、人材の育成を行うアプローチである。具体的には
 ・ものづくり高度化のための方法、考え方
 ・高度化を実現するメカニズムとしてのシステム
 ・上記と連携して、体系的に普及させていくための人材教育の在り方
の三つである。これらの視点は、革新的経営を進めようとしている製造系企業経営者、管理者、業務改革のリーダーが、ぜひとも共有すべきものである。グローバル展開を進めているメーカーだけでなく、国内、特に地域に根差しているサプライヤーにも重要な考え方を説明している。技術面での詳細は「グローバル生産の究極形」(日経BP社、2011年)などに譲るが、製造業の生産系技術者にとっての入り口となる具体的内容も有している。

製造業でのITの活用は、製品開発において進んでいるが、生産準備(工程設計)に関してはいまだに現場での検証が中心である。量産立ち上げのスピードも遅くなるばかりか、手戻りも増え、結果としてコストも掛かっている。また、現場がなければ検証や改善ができないため、空間的に離れている地域との協力が必要なグローバル展開に十分な対応ができない。今まで日本が培ってきた現場のノウハウ、ノウホワイをベースに、ITを用いた生産準備を確立した上で人材育成を成功させれば、日本のものづくり力の競争基盤を盤石なものにすることができる。

日本のものづくり力を、その持てる優位な力を再構築するという視点で考えたとき、生産準備から製造に至る「生産」に関する領域は、強力な原点の一つである。本書ではこの領域をまずは対象とし、他の領域との関わりの中で、さらなる考察を進めていく。この変革期は大きなチャンスであると積極的に捉え、世界ものづくり経済という大きな視点において、日本としての戦略的なアプローチを立て直す方法を解説する。