内容紹介
SOLIZE株式会社(旧インクス)はかつて、自社金型工場で従来比1/24という圧倒的なリードタイム短縮を実現したことなどで名を馳せた。その手法は、エキスパートが持つノウハウを形式知化し、それが有効に機能するように開発工程を標準化した上、ITで半自動的に処理させるというもの。しかし2007年ごろから、同社の顧客は結果としての効率化だけではなく、その改革の過程で得られる「気づき」や「人材の成長」の効果、さらには形式知化したノウハウの「知識資産としての価値」を評価するようになった。言い換えると、短期的な効率化の追求から、持続的な人や組織の成長へと目的がシフトしていった。その持続的なあるべき姿の中心にあるのが「人の知恵」であり、人が新たな価値を創る能力だ。本書は、この「人の知恵」を中心に据えた業務変革の方法を述べたものである。ナレッジ・マネジメントの方法論は多く提唱されているが、製造業の現場での経験から「知恵」に注目するに至った本書の内容は、現時点では最先端の知見といえる。
SOLIZEは、この「人の知恵」を分析的なアプローチで捉え、より良い形に変えていくための方法論を「ウィズダム・エンジニアリング(Wisdom Engineering)」と呼び、実践している。ウィズダム・エンジニアリングでは「人の知恵」の源泉となる要素を「知識」「経験」「意志」の3つであると捉える。まず、エキスパートとの対話を通して「知識」を形式知化し、体系的にまとめていく。この手法も重要だが、その対話の場自体が人にとっての成長の場になる。
さらに、仕事を通して人に「経験」を与え、成長を促す。ノウハウを形式知にまとめていくことは、知識を固定化し、進化を止め、考えない仕事を増やすかのようにも見える。そのような弊害を避けつつ、知識を活用しながら人材を成長させる方法論を展開していく。最終的に、知恵を発揮していくための動機付けとなる要素が「意志」である。現状に満足せずにどんなあるべき姿を目指すのか、その意志があって人の能力たる知恵が十分に発揮される。この人の「意志」を引き出す方法についても述べている。
監修は、ナレッジ・マネジメントの基礎理論で知られる一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏。SOLIZEは野中氏から、ウィズダム・エンジニアリングの確立と実践について、多くの助言を受けたという。
多くの企業は、自らが本来目指すべき方向を大まかには認識しているが、本当に変革をやり切る企業は多くはない。変革を実行するためには、強い実行力に加え、優れた方法論が必要である。本書には、単なる効率化にとどまらず人材の成長を促すための、製造業の設計開発の現実に即した方法論が書かれているため、技術部門のリーダー、中小企業のリーダーが今後の活動を模索する上で、具体的な指針を得られる。さらに、人間の知識活動の本質はどのようなものかを知りたい読者にとっても、製造業での事例が理解を深めると思われる。
※本書籍は、2012年4月9日発行『ちえづくり 新しいインクスの革新手法』と同様の内容です。