内容紹介
昭和のデザイン界の「天皇」とも呼ばれた亀倉雄策。その生涯を振り返り、「デザインと企業経営」のあり方を問い直す。
世間を騒がせた東京オリンピックのエンブレム選定。盗用の可能性を指摘された佐野
研二郎のデザイン案を使用するか否かで揺れるなか、そこかしこから聞こえてきたのが
「前のやつでいいじゃないか」「あれを超えるものは絶対に出てこない」との声だった。
1964年の東京オリンピック・エンブレムを再利用しようというわけだ。誰もが知ってい
るあのエンブレムをデザインしたのは、昭和史を彩る事件にことごとく関与し、デザイ
ナーという枠を超え日本を鼓舞し続けた稀代の表現者、亀倉雄策である。くしくも佐野
研二郎は、2014年の「亀倉雄策賞」の受賞者だった。
亀倉が手掛けたのは東京オリンピックばかりではない。戦前には写真家の土門拳など
と、プロパガンダを目的に発行された伝説的グラフ誌『Nippon』に携わり、戦中も歴史
の裏側で繰り広げられた「プロパガンダ戦」の最前線に立った。戦後には東京オリンピ
ックや大阪万博、札幌オリンピックなどの重要な国家事業関わる。さらには、NTTの民
営化、ニコンやリクルートなどの躍進を支えるなど、産業界でも大きな役割を果たす。
日本の歴史的イベントの影には、必ず亀倉の姿があったといってもいいだろう。その活
動は、デザイナーの域にとどまらない。亀倉の持論は「国家運営や企業経営とデザイン
は一体であるべき」というものだった。国家や企業には、根底に理念があり、それに立
脚した戦略がある。それを体現しようとする行為こそが国家運営であり、企業経営であ
る。デザインについても同じ。つまり、それらはすべて一体でなければならないのだ。
そう説く人ならば、ほかにもいた。だが彼は説き、実践した。マークやポスターだけ
でなく、国家や企業そのものをもデザインしようとしたのだ。例えばリクルートでは、
その社章をデザインするだけでなく、本社や支店のデザインにも携わり、さらに社外取
締役として経営にも参画、役員人事にまで影響力を及ぼした。創業者の江副とも深く交
わり、それがためにリクルート事件には未公開株の贈与を受けた当事者として巻き込ま
れもした。
こうした重大局面で、彼は何を考え、どう表現し、行動してきたか。本書では、亀倉
雄策の生涯と仕事を振り返り、それを通じて昭和の「裏側史」をあぶり出していく。
目次
第一章 朱と黄金の希望
第二章 オレは強盗になる
第三章 土門拳との誓い
第四章 日本工房
第五章 国際報道工芸
第六章 それぞれの太平洋戦争
第七章 日本宣伝美術会
第八章 ニコン
第九章 日本デザインセンター
第十章 東京オリンピック
第十一章 大阪万国博覧会
第十二章 NTT誕生
第十三章 盟友、江副浩正
第十四章 いま、再びのデザイン