内容紹介
未曾有の危機に立ち向かうニッポン。明治維新、第二次大戦敗戦からの復興に続く三度目の奇跡を果たすにはどうするか。日経本紙1面企画「三度目の奇跡」をまとめて緊急出版。おすすめポイント
未曾有の危機に立ち向かうニッポン。明治維新、第二次大戦敗戦からの復興に続く三度目の奇跡を果たすにはどうするか。日経本紙1面企画「三度目の奇跡」をまとめて緊急出版。成長を知らない君たちへ
今年20歳になる君たちが生まれた1991年は、日本の成長が止まった年です。「バブル経済の崩壊」と呼ばれている年に当たります。
豊かさに慣れた私たち大人は問題の先送りを続け、その結果として日本は今も低成長にあえいでいます。
自分の国が力強く成長する姿を一度も見たことがない君たちの目に、戦後最大の危機を迎えたこの国は、どう映っているのでしょうか。
日本が先進国の一つとして生き残るには、明治維新、戦後復興に続く「三度目の奇跡」を起こすしかありません。主役は君たちです。
しかし、君たちが背負う荷物はとてつもなく重い。2011年3月11日の東日本大震災によって、その荷物は絶望的なほどに重くなりました。それを背負いつつ日本の再生をなし遂げるのは、まさに「奇跡」です。
自分たちを待ち受ける厳しい未来に、君たちの仲間はすでに気づいているのかもしれない。働かず、学校にも行かない「ニート」と呼ばれる若者が増え、消費に興味を示さない人もいる。
「望んでも手に入らないのなら、いっそ最初から望まない」と豊かさに背を向けているように見えます。
しかし、それでは「奇跡」は起きません。
人口減、高齢化、財政難。そこに大震災と原子力事故が加わった日本。海外には「日本はこの危機を乗り切れない」と予測する国もあります。息をつめて、日本の行く末をじっと見ているのです。
危機を乗り越えられないと、どうなるか。例えば、重税が課されて暮らしが苦しくなる。一握りのお金持ちしか十分な医療サービスや教育を受けられない。君たちの子どもが大人になるころ、日本はそんな国になっているかもしれません。
いま日本はGDP(国内総生産)の2倍近い借金を抱えています。家計に例えると月収40万円の世帯が、毎月58万円を支出し、ローンの残高が4600万円になっている状態です。震災でその借金はさらに増えることになるでしょう。
また、チェルノブイリ原発事故と並び「史上最悪の原発事故」になった東京電力福島第1原子力発電所の事故は、日本の技術力に対する海外からの信用を失墜させました。その処理に手間取れば、日本そのものが世界の信認を失いかねません。海外の国々は日本の農産物も工業製品も買わなくなる。国際社会の中で日本は孤立してしまうかもしれないのです。
震災の影響は君たちの身近にも及びます。
バブル崩壊の数年後に「就職氷河期」という言葉が生まれました。企業が何年間も新卒採用を大幅に絞り込んだため、君たちの先輩は行き場をなくしました。このとき正社員になれなかった人たちは、景気が回復した後も、安定した職業に就けない「ロストジェネレーション(失われた世代)」と呼ばれています。
日本の会社は業績が悪くなると、ベテランの正社員を守るために、若者への門戸を閉ざしました。既得権を守るためです。震災後も企業は再び、既得権を守るかもしれない。
財政、年金、医療……。このまま突き進めば遠からず制度が破綻すると分かっているのに、誰も本気で変えようとしないのは、私たち大人が「今の豊かさ」という既得権を手放せないからです。
思えば、君たちが生まれたあの日に、日本は三度目の奇跡に向かって踏み出すべきだった。なのに、我々は君たちが生きてきた日々を「失われた20年」にしてしまった。そんな日本に大震災が襲いかかり、奇跡を起こすのはますます難しくなりました。
しかし、まだ不可能ではない、と思うのです。
君たちの中には、未来に向かってまっすぐに進もうとしている人もいる。どの被災地にも、お年寄りや子供たちに手を差し伸べる、やさしく、たくましい若者の姿がある。その光景は被災者だけでなく、すべての日本人に希望をくれました。
君たちにバトンを渡す前に、私たちは何をなすべきか。君たちはどんな日本をつくりたいのか。
被災地はなお「奇跡」などという言葉を軽々しく口にできないほどの苦しい状況にあります。だからこそ今「三度目の奇跡」を起こすための対話を君たちと始めたい。私たちはそう考えます。
「三度目の奇跡」取材班より