内容紹介
若手研究者の育成なしに日本の将来は危うい―京都大学の改革でiPS細胞でのノーベル賞受賞の土台を築き、揺れる理化学研究所のトップについた科学者が自らの経験から日本の科学の将来を祈り綴った異色の自伝。おすすめポイント
「STAP細胞」問題で揺れる理化学研究所の理事長に就任、火中の栗を拾った人として昨年春に話題を集めた科学者の自伝。京都大学総長時代に乗り出した京大改革の柱は、教養課程の見直しと部局横断的、学際融合研究の推進。独創的な研究の萌芽を見つけるや、スピード勝負で研究環境を整備し、高レベルの研究者を集め、知財保護にも先手を打つ。早くて2年かかると言われていた山中伸弥氏のips研究センターの準備期間2カ月での発足は、時を経ずしてノーベル生理学・医学賞受賞という最大級の成果を生み出した。世界の研究機関と伍していくためには、少々の反対があろうとやりぬくタフなマネジメントが不可欠という著者の信念は揺るがず、今度は理化学研究所を建て直すことができるかに各界からの注目が集まっている。その渦中の大学人の辿ってきた道筋はやはりユニーク。確実に就職できると思い京大の電子工学科に入り、「工学は真理を追究し証明する物理学や数学と違い、厳密なアプローチでは不可能でも工夫して可能にするとか、組み合わせて新しいものを創造していく学問」だと気づく。就職するつもりが慰留され京大助手に。そこから宇宙を視野にした研究に邁進。宇宙プラズマ研究から、宇宙太陽光発電の実現に向けての研究へと進む。こうしたスケールの大きな研究が教授時代から部局横断的・学際的な色彩を帯び、理想的な研究環境を求めて、資金面も含めパートナーを産業界へ、海外へと求めていくようになる。
経済が停滞した中での独法化で、大学にも経営感覚が一層求められるようになってきた時に、異端の研究者だからこそ、総長の椅子が回ってきた。"子分"の多い研究科・学部長ではない総長就任は京大史上初だった。
本書は松本氏がなぜ京大改革に取り組まねばならないと考えたかを、自身の道筋から振り返り、その先に何を目指した改革であったかを残しておきたいという思いから綴られた書でもある。