内容紹介

色彩が豊かな所には人が集まり、生きる喜びが交錯する。イタリアで開花した「人間讃歌」としての芸術を貫いた画家の72 年の半生記。

おすすめポイント

2015年11月に日本経済新聞朝刊に連載され好評を集めた洋画家・絹谷幸二氏の「私の履歴書」の単行本化で、画壇の重鎮としては初の本格的な自伝となる。

絹谷作品の力強くギンギラギンの派手な色彩世界は、絵画に無関心な人でも一目見たことがあれば「ああ、あの絵」と思い出す人は多いだろう。一般の日本人にもっとも有名なのは長野五輪のポスター。その国内では異彩を放つ作品世界はイタリアで身につけた古典的技法「アフレスコ」で生まれたもの。雅な京都と異なり、遣隋使・遣唐使以来の中国との密接な関係から生まれた奈良の色彩豊かな文化に育まれたからこそ、そこに行き着くのは必然であったのかもしれない。飛鳥の高松塚古墳の保存修復にも一役買うなど、「色彩」という一点で洋の東西を軽々と乗り越える72年の半生は、読む人を明るく元気にさせる。現在は私財を供出して洋画界の"芥川賞"であった安井賞の後継となる絹谷幸二賞を毎日新聞社と主催し、文化庁から全国の小中学校の教育プログラムに派遣されるなど、後進の育成にも力を注いでいる。

そして、その作品世界は政財界の人たちにとりわけ好まれ、コレクターも多い。日経夕刊の「こころの玉手箱」で日本電産の永守重信社長が40点もの絹谷作品を所蔵していることを明かしている。本書では連載では触れなかった人たちとの交友についても詳述する。華麗な交友関係から、文化外交の"特使"として社会的活動のトップに担ぎ上げられることも多く、2015年に大きく新聞で報道された観光庁と経産省、経団連が中心となって派遣した3000人規模の「日中観光文化交流団」の団長のほか国交省、農水省関係の民間団体のトップもいくつか務めていることでも異色の画家であり、美術ファン以外の注目も集めそうだ。