内容紹介
貿易にかかる関税を原則撤廃する画期的な条約がついに誕生! 私たちのビジネスや暮らしはどう変わるのか? 日経記者が総力取材。おすすめポイント
歴史的合意で、暮らしは、ビジネスは、どう変わる?日経記者にしか書けない影響の深層、今後の展開、交渉の真実、日本国内の対策などをわかりやすく解説。これからのTPP(環太平洋経済連携協定)批准の議論に向けて必読の1冊です。
TPPは、日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、メキシコ、ペルー、チリの環太平洋地域の12カ国が域内の関税撤廃や経済活動にかかわるルール作りを目指して交渉を進めてきました。いわゆる自由貿易協定(FTA)の1つですが、12カ国の国内総生産(GDP)は世界全体の約4割、貿易量は4分の1程度を占めており、数あるFTAの中でもかつてない大型の通商協定です。
TPPの特徴の1つは、関税撤廃の対象となる品目の多さです。日本から域内に輸出するほとんどの工業品・農産品が、いずれ関税ゼロで輸出できるようになります。
扱うルールの多様さもTPPの大きな特色です。国境を越えるインターネット上の取引ルールを定める「電子商取引」分野、ある国が自国の国有企業を過度に優遇しないよう制限する「国有企業」分野、環境保護への配慮を求めた「環境」分野などは、過去のFTAにあまり盛り込まれたことはありませんでした。しかも、それぞれの分野に書き込まれたルールは各国に国内制度の見直しを求める内容になっています。
TPPは今後、各国議会の承認手続きを経て、正式に通商協定として発効します。発効すれば、農産品の輸入関税が下がり、消費者は海外産の牛肉やワインなどを安く手に入れられるようになります。日本企業の輸出コストも下がり、域内で原料を調達し、最終製品に加工する新たな生産の流れが生まれることにもなります。
一方、国内の農家は安い輸入品との競争にさらされるため、生産性を高める改革が必要になります。参加国がお互いに市場を開放して、日本だけが利益を享受することにはならないでしょう。TPPを生かしきれるかどうかは、個々の企業や農林水産業者の努力にかかっているとも言えます。
貿易・投資をめぐる世界の通商秩序も大きく塗り替わるでしょう。韓国やインドネシアなどはTPPに参加する意向を示しており、将来参加国が増えれば、TPPの戦略的な価値はさらに高まるとみられます。また、TPPの大筋合意をきっかけに数々の大型協定の交渉が加速する可能性もあります。
度重なる交渉の結果まとまった1500ページに及ぶ協定の内容は、一見すると私たち一人ひとりの生活にはあまり関係がないようにも見えます。
しかし、実際には、無味乾燥でつかみどころのない条文には、スーパーマーケットでの日々の買い物から海外旅行や出張まで、私たちの営みを変えてゆく内容も多く含まれています。本書の読者の皆様がそのことを少しでも実感し、将来に役立てていただければ幸いです。