内容紹介

第10回日経小説大賞受賞!仮想通貨に狂い、恋に狂う。「ここまで率直に剥き出しの欲望を描く作家を私は知らない」(髙樹のぶ子氏)。

おすすめポイント

◆第10回 日経小説大賞受賞作!

第10回日経小説大賞(選考委員:辻原登・高樹のぶ子・伊集院静)を受賞したのは、古典的とも見える血をめぐる復讐劇を、仮想通貨交換会社というある意味で現在を象徴する場所を舞台に選び、人間が欲望にとりつかれ正気を失っていく様を描き出した本作。人間誰しも自制心で抑えている欲望が何かのきっかけで堰を切ってあふれだした時、必ず犯してはならない禁忌にふれる。そして、禁忌ゆえの抗いようのない魅力にとりつかれ人は墜ちていく。不正な会計操作、結ばれてはならない男女がおぼれていく恋とセックス、余計者を闇に葬る排他的なムラ社会……。

選考会で評価されたのは、作品、そして文章そのものが持つ強烈な身体感覚だった。"肉食系女子"という言葉があるが、ねっとりと濃密な文章は"肉食系"そのもの。「文学から身体感覚が失われて久しいが、その意味でも受賞者は希有な存在だ」(高樹のぶ子氏選評より)九州・福岡の土着性もうまく取り入れ、暗く陰鬱になりそうな題材であるにもかかわらず、カラフルなパッションが加味された力強い作品に仕上がっている。

物語の前半は、ある意味“よくある”女がほれた男のために身を落とす話が展開されていく。タイトルの「狂歌」は「戯れ歌、こっけいな歌、ひわいな歌」という意味。この“よくある”話にふさわしいが、それが初めから仕組まれたものだったとしたら――後半はまさに人間が欲望にとりつかれ「狂」う話に変貌する。作品は日本経済新聞出版社ホームページで紹介済みですので、まずはホームページの書影写真にご注目ください。なまめかしいピンク主体のバックに、黒い文字で妖しく浮かびあがるタイトルと著者名。ぜひ店頭で手に取ってご覧いただきたいのですが、決して説明的にならないで作品のエッセンスをまさに体現したルックスの本を、デザイナーの坂野公一さんにつくってもらいました。

この作品はひと言で言えばサスペンスですが、一面では、古典的な血をめぐる復讐劇であり、結ばれてはならない禁断の恋の物語であり、仮想通貨取引を戯画化した経済小説であり……と、とてもひと言では言い表せない作品です。

読者にページをめくらせていくのは、時に暴走気味になるほど身体感覚にあふれた、もっと露骨に言えば肉感的な文章。舞台の九州・福岡の土着性をうまく取り入れていることもあって、作品には温度も湿度も高い南国の風が吹いています。その「感じ」をまさに体現しているのがこの本のルックス。書影写真を見てピンと来た方、ぜひ読んでください。気に入るはずです。損はさせません。