内容紹介

いわずと知れた「源氏物語」作者の一代記。王朝文学の優雅さと政治的な陰謀劇が結び付いた独特の世界観を創出した異色の小説!

おすすめポイント

あなたは使い捨てられてはなりませぬ。私のように――
栄華をきわめつつある主の藤原道長から、物語の女房を命じられ、華麗な「源氏物語」を書き継いできたが……
宮中に渦巻く陰謀に、物語が切り結ぶとき。

第11回日経小説大賞受賞! (選考委員:辻原登・髙樹のぶ子・伊集院静)


『源氏物語』を書いた紫式部の一代記。「紫式部日記」が実在の作品であるだけに、あえて「新」とタイトルにつけフィクションを紡ぎ上げたところに、作者の周到な企みがうかがえる。
本作には最新の源氏物語研究の成果が活かされている。紫式部の生涯や、『源氏物語』誕生秘話を描いた著作は、専門家によるとそれほど珍しくはない。しかし、本作は、平安時代においては、物語を書く行為そのものが政治性をおびていたことを明らかにするところが新しい。
「日記文学の傑作、しかも『源氏物語』の作者の日記に新たな日記を捏ち上げ、ぶつけるという、これほどの大胆不敵はない。パロディならともかく、真正面からオーソドックスに、とはハードルが高過ぎる。
しかし、作者は鮮やかにそのハードルを跳び越え、極上の宮廷物語を物した。『源氏』を構成の中心に据え、それを下支えする本物の「紫式部日記」、それに被せるように架空の「日記」、そしてもう一つの物語『伊勢物語』を、有機的に、歯車のように嚙み合わせ、重層的な展開が可能になった。『源氏物語』そのものが、一層の輝きを放って読者に迫って来るという功徳も齎された」(辻原登氏選評より)著者の夏山かほるさんに受賞作への想いをつづっていただきました――

平安物で小説新人賞を受賞するのは難しいと言われ続けながら、八年あまり努力を続けました。試行錯誤の末、日本文学史のスーパースター紫式部の力を借りて本作でデビューさせていただきました。改めて、源氏物語とその時代に対する関心の高さを実感しています。

本作の主人公紫式部は、漢籍を好む文学少女でしたが、権力者道長に見いだされ物語の女房として宮中に上ります。紫式部は文学の才能で身を立てた日本初の職業婦人です。自らの役割と理想の間で苦悩し成長する紫式部の姿を感じ取っていただければと思います。千年前の源氏物語の時代はうつくしい言葉に人の気持ちがこめられた時代でもありました。本作によって平安のかがやきをみなさまに知っていただくきっかけになれば光栄です。

(2020.2.21)