内容紹介

「一気に街が更新されるチャンスなんて、そうそうないんだよ」建築に携わるぼくを焚きつける芸術家の兄。五輪を間近に控えたざわめきの中で、ぼくは――

おすすめポイント

「一気に街が更新されるチャンスなんて、そうそうないんだよ」
建築に携わるぼくを焚きつける芸術家の兄。
五輪を間近に控えた首都のざわめきの中で、ぼくは自分の仕事に対する確信を持った。

第11回日経小説大賞受賞! (選考委員:辻原登・髙樹のぶ子・伊集院静)


TOKYO2020、と書かれたまっしろな紙を目にして、かあっと頭に血がのぼった人と、そうでない人がいる。ぼくはともかく、業界的にぼくの勤めている会社は圧倒的に前者でできている。関東大震災からほぼ100年、表皮の入れ替わり続ける街でぼくは何をすべきなのか――
第11回日経小説大賞を受賞した本作は、五輪を目前に控えて新たな施設の建設・再開発ラッシュに湧く東京で、地道に建築設計に携わる若者が、陶芸作品が現代アートとして海外で高く評価されている破天荒な芸術家の兄に振り回されながら、自身のアイデンティティを見いだしていくタイムリーなお仕事小説。
「日本はまだ普請中」。兄の創作活動に欠かせないパートナーの女性との奇妙な関係もあいまって、登場人物のスリリングな会話が読む者の胸にグサグサ刺さってきます。テンポ良く、しかしどこに転がっていくのかわからない会話の端々には、現在の東京、日本へのかわいたまなざしが、最新トレンドと現代風俗を絶妙にからませながら顔をのぞかせます。五輪を目前にした今こそ読んで欲しい、知的エンターテイメント小説です。著者の湊ナオさんに受賞作への想いをつづっていただきました――

会社員のころ「家を建てたから彼は転勤になった」だの「アイツは気張って二世帯にしちゃったから、ほら、普請をすると寿命が縮まるって言うし」などと飲み会で上司が囁き合うのを、またまたぁ、ぐらいの軽い気持ちで聞いていました。

で、現在の東京五輪前のあれこれ。どうやら普請とやら、痛みなしには進まないよう。
百年以上前、森鷗外が「日本はまだ普請中だ。」と書いたように、私は現在の東京を、組織の中で設計に携わる郁人と、自由人の兄英明の目を通し、書きたいと思いました。
東京はまだ普請中です。

でもさ、東京ずるくない? でっかいビル、ポップなアート。ただ歩いているだけで圧倒的に楽しい。郁人が仕事漬けのウツっぽさから持ち直すのも、都市から享受できるものがやっぱり素晴らしいから。

『東京普請日和』にて、そんな今の景色をどうぞ。

(2020.2.21)