内容紹介

アジア経済研究所の研究者たちが、コロナ危機、国際協調が弱体化するなかでの新興国経済の状況を分析し、日本がとるべき道を探る。

おすすめポイント

■コロナ危機が襲い、国際協調が弱体化するなかでの新興国経済の状況を分析し、日本がとるべき道を探る。コロナ危機が明らかにした格差,世界経済の行方,国際関係の再構築といった課題に対し,貿易,国際金融,技術,格差,多国籍企業,国際秩序・協調などの地域横断的なテーマ視点からの分析と,中国,韓国,インド,ブラジル,南アフリカなど個別地域に焦点を当てた分析の両方から立体的なアプローチを試みる。

■本書は三部構成からなり、第I部(第1~6章)は、貿易、国際金融、デジタル技術、格差、海外ビジネス、後開発国の農業といった横断的なテーマからコロナ禍の影響やポスト・コロナの展望を明らかにする。経済のグローバル化とデジタル技術は、現代社会の富と成長の源泉だが、コロナ禍でその重要性は一段と増した。また、コロナ危機への対応では、官民を問わずデジタル技術をどれだけ活用できるかが結果を左右することも理解されるようになった。この2つはポスト・コロナの世界経済を牽引するうえでも重要な役割を担う。また、国際資本取引の観点から新興国・途上国の脆弱性について検討する。格差については、コロナがもたらす健康被害、経済・人的資本への悪影響が、社会経済階層によって異なることを明らかにしている。世界的にみれば食糧生産への打撃は当初懸念されたほどではなかったが、脆弱な低所得国の農業サプライチェーンの寸断が生じていた。
続く第II部(第7~11章)では、アジアの近隣諸国や新興国を個別に取り上げ、コロナ危機への対応で明らかになった政治、経済、社会などの課題を論じている。取り上げたのは、日本の近隣国である中国と韓国、新興国のインド、ブラジル、南アフリカである。それぞれコロナ対応の巧拙においても、政策課題においても異なっている。なかでも中国は感染症の抑え込みにいち早く成功し、国際社会における存在感を一段と高めている点で異質といってよい。未知の感染症への対応においては、各国の政治、経済、社会の力量が如実に反映された。また、そこで明らかにされた課題は、程度の差こそあれ日本に共通するものがある。それらは、科学的な知見と政治判断、公衆衛生のシステム設計、官民におけるデジタル技術の利用、貧困やセーフティネットの欠如である。
第III部(第12~14章)は、「国際社会」の視点から、国際サプライチェーンを通じて問われる企業の社会的責任、国際秩序の変化、公衆衛生や貿易における国際協調の課題などを論じている。国際社会が協調して取り組まなければならない重要課題が山積している。未知の感染症への備えが不十分だったことは誰の目にも明らかになった。今後の復興を考えれば、地球規模の環境問題、国際サプライチェーンの機能、デジタル貿易の国際ルールも重要だろう。市場経済を支える制度や仕組みも今後いっそうグローバルな市場の文脈で考える必要がある。他方、中国の台頭、アメリカや欧州の指導的立場の相対的な弱体化などの背景に、国家主権のせめぎ合いもいっそう鮮明になるだろう。
最終章では、本書を通じて得られる、日本の抱える課題とその解決へのヒントを提示する。