内容紹介

米国で、資本主義や経済社会システムのゆがみを是正しようと「社会主義」に傾倒する若者が急増し、力を発揮しつつあることを紹介。

おすすめポイント

■米国の資本主義や経済社会システムのひずみやゆがみを是正しようと近年、「社会主義」に傾倒する若者が急増している。背景には、2001年の米同時テロ、08年のリーマン危機を経験し、米経済社会の閉塞感を強く感じるようになった事情がある。
全国民に医療保険を提供する「国民皆保険」(メディケア・フォー・オール)、最低賃金の引き上げ、大学の一部無償化、再生可能エネルギーを普及させるため巨額の投資を通じて大量の雇用を生み出す「グリーン・ニューディール」――。こうした政策を支持する若者らは2016年に民主党の大統領候補指名争いで一世を風靡したバーニー・サンダース上院議員を後押しするとともに、20年の米大統領選挙でジョー・バイデン氏を当選させた隠れた立役者となった。

■米国のミレニアル世代やZ世代にはどんな特徴があるのか。なぜ多くの若者が社会主義にひかれるのか。それが米国政治や社会にどんなインパクトを与えようとしているのか。そして日本や国際社会はどのような点に注視すべきなのか、本書では探っていく。
米国の若者の社会主義者は「民主社会主義者」を自任している。彼ら彼女らのいう社会主義とは民主主義を前提としたもので、一党独裁による中国や北朝鮮、キューバの社会主義とは一線を画す。米国では長い間、「社会主義」は「ダーティー・ワード」といわれてきた。「禁句」「口にしてはいけない言葉」といった意味だろう。「自由の国、米国で社会主義?」と聞いて驚く人も多いかもしれない。しかし、米国の若者らの主張は「大きな政府」による積極的な財政出動や所得再分配、社会保障制度の充実などが主眼であり、その理想は欧州流の福祉国家とほとんど変わらない。米国は主要7カ国(G7)の中で国民皆保険制度を持たない唯一の国といっていい。その国で社会主義を支持する若者が増えているのは米国の経済社会の大きな地殻変動をも予感させる。

■ドナルド・トランプ前大統領の下では、白人の保守層を中心とするトランプ支持者と、これに反発する都市部のリベラル層との間で「分断」「二極化」が進んだ。米国のミレニアル世代やZ世代の社会主義者の多くは、リベラル層の中でもっとも急進的な立場として二極化する米政治の最左派に位置する。ニューヨーク州選出の下院議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス(通称AOC)はその代表格である。大学卒業後、実家の苦しい家計を助けるため、ニューヨーク市内でバーテンダーとして働いていた。転機は2018年の中間選挙に先立つ民主党予備選挙。当時、下院民主党の重鎮で知名度、資金力で群を抜いていたジョー・クローリー氏を破り、草の根の選挙運動による「数十年に一度の番狂わせ」と全米中で話題を集めた。

■今や急進左派の顔のような存在となったオカシオコルテス氏やサンダース氏は、中道派のバイデン大統領の下でも一定の影響力を持ち始めた。彼女らの躍進を支えた個人や団体を紹介しながら、米国の社会主義者の実像の一端にも本書では触れる。
米国のミレニアル世代やZ世代は今後数十年にわたり米国の中核層となる。本書では、そのかなりの割合の個人が社会主義に親近感を抱いている現状に光を当てる。米国の経済社会や政治の今と未来を考える手がかりとし、日本における米国理解の一助としてもらいたい。