「もっと自分らしく生きたいのに」と望む人も多いだろう。だが、突き詰めれば「自分らしく生きる」なんて誰にもできないし、転職など環境を変えたところで、結局はまた似たような問題に直面する。それならば……。仏教の原点を伝えるテーラワーダ仏教の長老が、ブッダの実学を用いて、日々の悩みにまっすぐ答える。日経ビジネス人文庫『つまずかない 生き方のヒント49』(アルボムッレ・スマナサーラ著)から抜粋・再構成してお届けする。

「自分らしく生きる」より大事なこと

 世間ではよく「自分らしく生きよう」「自分らしく生きることが大切だ」といわれます。
 自分のやりたいことや希望する生活を実現できていない人が「私は自分らしく生きられていない」「もっと自分らしく生きたいのに」と望むことも多いでしょう

 しかし、そもそも「自分らしく生きる」とはどんな状態のことでしょうか。
 単純に考えれば、その人が一番のんびりとリラックスして、ストレスを感じずにいる状態。それが「自分らしい」といえるのかもしれません。

 一方、それは勝手気まま、わがままに生きることでもあります。
 どんな人にも社会や環境に適応するために自分の意に染まない選択、生き方をしなければならないことはあります。それが社会というものです。

 突き詰めれば「自分らしく生きる」なんて誰にもできないのです
 もし誰もが自分らしく勝手気ままに生きていたら、社会はとんでもないことになってしまいます。

 たとえば、あなたが誰かにバカにされたとします。
 その瞬間「なんだコノヤロー」と怒りを爆発させ、相手を殴ったり、大ケガをさせてしまったりしたらどうでしょう。

 きっとあなたは「私はそんなことはしない」と反論するでしょうが、「それが自分らしい生き方だ」「これが自分にとってもっとも自然な反応だ」という人だって出てくるはずです。

 そんな「自分らしい生き方」を肯定できるでしょうか。

環境を変えても課題は降りかかる

 もう少し現実的な例を挙げましょう。
 あなたは今ひどい上司の下で働いていて、いつも大変な仕事を押しつけられ、自分のやりたいことなどまったくできない状況にあります。
 当然、あなたは「自分らしい生き方ができていない」と感じるでしょう。

 そこであなたは会社を辞め、職場を替えようと考えます。職場が替わることで「自分らしい生き方」ができるかもしれないと考えたからです。

 しかし、それが本当に目指すべき生き方でしょうか。
 全員がそんな生き方をすることが本当に素晴らしい世の中でしょうか。
 少なくとも私はそうは思いません。

 「自分らしい生き方ができない」との理由で環境を変えたところで、結局はまた似たような問題に直面するに決まっています。
 そのときにまた「自分らしい生き方ができる場所ってどこだろう」とベストな環境を探し続けるのでしょうか。

 じつにナンセンスな生き方です。

 「あなたが自分らしく生きる」ために用意された完璧な環境など、どこを探したって見つかるはずはないからです。

「自分を戒める生き方」を目指そう

 大事なのは「自分らしく生きたい」という気持ちをいだくのではなく「与えられた環境で精いっぱいがんばり、精いっぱい適応しよう」と考えること。

 仏教的な言葉でいうなら「自分を戒める生き方」です。

 「戒める」と表現すると「我慢する」「堪え忍ぶ」といったイメージを抱く人がいますが、ここでいう「戒める」とは「状況を受け止め、理解し、自分の成長の材料にする」というニュアンスです。

 この世の中で目指すべきは「自分らしい生き方」ではありません。
 さまざまな出来事、体験を通して、自分の人格を成長させていく生き方、すなわち「自分を戒める生き方」です。

 あなたの生活にもきっと辛いこと、苦しいことがあるでしょう。
 他人にバカにされることもあれば、ひどい上司の下で働かなければならない場面もあるでしょう。
 仕事で失敗することもあれば、家族、友人などの人間関係に悩むこともあるでしょう。

 あるいは、充実した人生を送っている友人や同僚を見て「なぜ私はあんな人生を送れていないのだろう」「自分の人生はつまらない」と妬ましい気持ちになることもあるはずです。

 でも、そんなときこそ「自分らしく生きたい」と願うのではなく「それらの経験をどのように自分の成長につなげていくか」を考えられる人になってください。

すべては自分の受け止め方次第

 それは決して「こらえる」や「我慢する」ではありません。
 与えられた環境を、自分を戒めて成長させる材料、つまり宝物にしてほしいのです。
 人から悪口をいわれたって、それを自分を成長させる材料にすることはできます。

 もちろん相手はそんなつもりでいったわけではないでしょうが、「そうか、自分にはそんな悪い点があるのか」と謙虚に反省する材料にすることもできますし、「せめて、自分は他人の悪口をいうような人間にはならないようにしよう」と反面教師にすることもできます。

 すべてはあなたの「受け止め方」次第です。

ストレスを感じないで生きるなんて誰にもできない(写真 NOBU/stock.adobe.com)
ストレスを感じないで生きるなんて誰にもできない(写真 NOBU/stock.adobe.com)
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日経ビジネス人文庫『 つまずかない 生き方のヒント49
ベストセラー『怒らないこと』の著者、最新刊

ベストセラー『怒らないこと』の著者で、仏教の原点を伝えるテーラワーダ仏教の長老がブッダの実学をまっすぐ示す。「降りかかってくる問題」に目を向けるのではなく「受け止め方」に目を向ける、悩んだり苦しんだりすることは損……など、心がラクになるヒントを教える。

アルボムッレ・スマナサーラ著/日本経済新聞出版/880円(税込)