「ものの値段は売り手が決めるもの」と思い込んでいませんか? 実は、買い手に損をさせたり不当に値段をつり上げたりせずに、売り手の「できるだけ高く売りたい」をかなえる「BDMオークション」の仕組みは、その常識を覆すものだと政策研究大学院大学の安田洋祐教授は指摘します。なぜこの仕組みは、いわゆる「入札」は行われていないように見えるにもかかわらず、「オークション」という名前がついているのか、その謎解きを通して、「値段のつけ方」の本質に迫ります。慶應義塾大学教授の星野崇宏氏との連載「インフレ時代の値段のつけ方・考え方」12回目です。

第12回も政策研究大学院大学の安田洋祐教授が解説(写真:尾関祐治)
第12回も政策研究大学院大学の安田洋祐教授が解説(写真:尾関祐治)

本当にオークション? どの点でノーベル賞を受賞したの? BDMの謎を追う

 3回(10回目11回目)にわたってお届けしてきたBDMオークションに関する記事も、いよいよ最終回です。今回は、この仕組みがいったいなぜ「オークション」と呼ばれているのか、その名称の謎を解き明かしていきたいと思います。この名称の謎を理解することは実は、この仕組みがどのような点でノーベル賞受賞の研究と結びつくのかの理解にもつながります。

 それではまずは、BDMオークションのルールをおさらいしておきましょう。

ステップ① 消費者が商品のWTPを表明する

ステップ② 商品の価格が抽選で選ばれる

ステップ③ 状況に応じて次のどちらかの結果が実現する
結果A ①のWTPが②の抽選価格以上 → 消費者が抽選価格を支払って商品を購入する
結果B ①のWTPが②の抽選価格未満 → 何も起こらない(金銭や商品の移転はなし)

 重要な注意点についても振り返っておくと、実はステップ②では必ずしも抽選を用いる必要はありません。なぜなら、次の2つの条件さえ満たせば、他のやり方でも消費者から本音のWTP(支払意思額)を聞き出すことができるからです。

条件① 消費者が価格を事前に予想することができない
条件② 価格が自分の表明するWTPとは無関係に決まる

 この条件を活用し、出版社から自身の作品に対するWTPを探ろうとしたのが世界的な文豪(ぶんごう)ゲーテでした。彼がBDMオークションと実質的に同じ“封筒”交渉術を生み出したのは前回お伝えしたとおりです。

カギは「売り手でも買い手でもない人が、価格を決める」こと?

 ところで、BDMオークションとゲーテの交渉術の共通点はなんでしょうか? それは、価格を決定するのが、WTPを表明している人(消費者。ゲーテの場合は出版社)ではなく売り手であることです。具体的な価格の決め方については、抽選によってランダムに選ばれるのか、それとも封筒の中に書いておくのかという違いはありますが、どちらも売り手が価格を決めている点は同じです。

 では、条件①と②を満たすために、価格を決めるのは常に売り手でなければいけないのでしょうか。実は、そうとは限らないのがミソなのです。WTPを表明している消費者(=Aさん)とは異なる第三者であれば、売り手以外の誰かがステップ②の価格を決めても構いません。

 ということは、他の消費者(=Bさん)を第三者としても問題はないはずです。すぐには思い浮かばないかもしれませんが、まさにこの「消費者が直面する価格を別の消費者が決める」という発想によって、BDMオークションは入札とつながってくるのです。以下でじっくりこの点を確認していきましょう。

BDMの構造を、消費者視点からとらえ直す

 いま、AさんとBさんという2人の消費者から、ある商品に対するWTPを聞き出したいとします。ここで、次のような入札型の選好表明ルールを考えてみましょう。

入札型の選好表明ルール(※1)

ステップ① 消費者AとBがそれぞれ商品のWTPを表明する

ステップ② 状況に応じて次のいずれかの結果が実現する
結果A AのWTP > BのWTP → 消費者Aが「BのWTP」を支払って商品を購入する
結果B AのWTP < BのWTP → 消費者Bが「AのWTP」を支払って商品を購入する

 この仕組みは、一見するとBDMオークションとはだいぶ異なります。しかし、次のように消費者側の視点からとらえ直すと、両者が同じ構造をしていることがわかります。ポイントは、売り手ではなく別の買い手という第三者が“価格”を決めている点です。

「入札型の選好表明ルール」を消費者視点で見てみると……

ステップ① ある消費者が商品のWTPを表明する

ステップ② 商品の“価格”が別の消費者のWTPによって決まる

ステップ③ 状況に応じて次のどちらかの結果が実現する
結果A ①のWTP > ②の“価格”(=相手のWTP) → 消費者が“価格”を支払って商品を購入する
結果B ①のWTP < ②の“価格”(=相手のWTP) → 何も起こらない(金銭や商品の移転はなし)

 ここでさらに、商品を(オークションに出品されている)“アイテム”、WTPの表明を“入札”、消費者を入札への“参加者”と読みかえるとどうなるでしょうか。上の入札型選好表明は、少し見方を変えるだけで、次のようなオークションとして解釈し直すことができるのです。

・各参加者がアイテムに対する入札額をそれぞれ入力する
・最も高い金額を入札した参加者が勝者(落札者)となる
・全体で2番目に高い入札額を支払い、アイテムを落札する

 通常のオークションでは、価格(=落札額)が最も高い入札額に一致するのに対して、このルールのもとでは全体で2番目の入札額が価格となります。そのため、二位価格オークションと呼ばれています(セカンドプライスオークションや第二価格オークションとも呼ばれます)。1番ではなく2番目の金額とすることで、落札者自身の入札額とは無関係に落札額が決まる、というのがポイントです(※2)。

※1 ここでは、2人が表明したWTPが偶然一致した場合に何が起こるかについて記述していませんでした。その場合は、「AとBのどちらか1人が(共通の)WTPを支払って商品を購入する」という性質を満たすどのようなルールを採用しても構いません。例えば、コインを投げて表が出たらA、裏が出たらBというふうにランダムに購入者を選ぶのも1つの決め方ですし、WTPが一致したときは常にAが購入する、という形でタイの場合の勝者をあらかじめ決めておいても大丈夫です。上の性質を満たすどんなルールを採用しても、以下の議論には影響を与えません。

※2 前述のシナリオでは、説明をわかりやすくするために参加者が2人だと想定していましたが、一般の二位価格オークションは参加者が2人以上であれば、何人いても構いません。また、これ以降の議論も、参加者の人数には依存しない(=参加者が何人であっても成立する)ものですのでご安心ください。

結局、どちらの仕組みでも正直な価格が最適な戦略になる

 ここまで述べてきたように、二位価格オークションとBDMオークションは実質的には同じ仕組みです。この類似性こそが、BDMの仕組みが「オークション」と呼ばれる理由、つまり名称の謎の答えになります。

 そして、二位価格オークションでは、各参加者はアイテムのWTPをそのまま正直に入札する、つまり「入札額=WTP」とするのが最適な入札戦略となるのです。前回と同じく、この点について数直線を用いながらざっと確認しておきましょう。

図1 相手の入札額と個人のWTPの比較
図1 相手の入札額と個人のWTPの比較
(図制作=キャップス)

 いま、アイテムに対する真のWTPが1,000円だとしましょう。ここで、参加者が正直に1,000円と入力する「正直入札」と、割り引いて800円とする「過小入札」という2つの入札戦略を比較したのが、図1になります。

 相手の入札額は事前にはわからないため、ここでは「x円」と記号で表現して、数直線上のどこかの点として実現すると考えます。さらに、この入札額が実現する領域を3つに分けて、ケース①~③と呼ぶことにします。

 ケース①と③では2つの入札戦略に差はなく、相手の入札額が800円から1,000円の間となるケース②のときだけ違いが生じます。このとき、正直入札のもとでは「x円で落札」が実現して「1,000円 - x円」分の利益(=その分だけ得をする)が生まれるのに対して、過小入札の場合には何も起こりません。

 以上を総合すると、正直入札のほうが過小入札よりも優れた戦略であることがわかります。また、ここでは割愛しますが、正直入札のほうが過大入札よりも優れた戦略であることも、同様の議論から示せます。二位価格オークションでは正直入札が最適な入札戦略なのです。

嘘をつかせない設計が社会的にも望ましい結果につながる

 二位価格オークションは、参加者が正直に入札するインセンティブを持つ非常に優れたオークションの仕組みです。経済学では、財の価格や配分などを決定する仕組み(「メカニズム」とも呼びます)に参加する当事者が、本人しか知らない情報を正直に表明するインセンティブを持つとき、その仕組みを「インセンティブ(誘因)整合的である」と表現します。参加者に正直な情報開示を促したり、意図的に嘘をつくのを防いだり、戦略的にあれこれ悩む負担をなくすために、インセンティブ整合性は欠かせない性質なのです(※3)。

 また、二位価格オークションのもとで各参加者が正直入札を行うと、結果として全員の中から最もWTPの高い参加者がアイテムを落札することになります。これは、オークションを通じた財の配分が社会的に生み出す価値を最大化していることを意味し、経済学ではこのように無駄なく効率的な配分を実現する仕組みを「(パレート)効率的である」と表現します。

 二位価格オークションは、インセンティブ整合性とパレート効率性という、制度設計において最も重要といっても過言ではない2つの性質を同時に満たす、スペシャルな仕組みなのです(※4)。

※3 BDMオークションや二位価格オークションはインセンティブ整合的であるのに対して、BDM1回目の記事で紹介した仮想評価法(CVM)、価格感度測定(PSM)、コンジョイント分析といった代表的な選好表明法はインセンティブ整合性を満たさない仕組みです。記事の中でも別の表現で少し解説を加えましたが、このインセンティブ整合性の欠如こそが、多くの経済学者が選好表明法を信用していない大きな理由なのです。

※4 インセンティブ整合性に関する性質にはいくつかのバリエーションがあるのですが、その中で最も強い(=要求水準が高い)ものが「耐戦略性」(strategy-proofness)と呼ばれる性質です。ざっくり説明すると、これは各参加者にとって「他の参加者がどんな情報を表明したとしても、自分が真実とは異なる虚偽表明をしても絶対に得できない」というものです。二位価格オークションは、耐戦略性と効率性を同時に満たす(実質的に)唯一のオークションであることが明らかにされています。つまり、二位価格オークションの他に、耐戦略性と効率性を満たすような入札制度は存在しないのです。

学問とビジネス 実は近接する両者の課題意識

 ところで、実は二位価格オークションに関する研究はBDMオークションよりも古く(といっても、BDMによる論文出版のわずか2年前ですが……)、ウィリアム・ヴィックリーという経済学者が1961年に研究成果を出版しています(※5)。彼の論文は、二位価格オークションという不思議な仕組みを提案・分析して、それが持つインセンティブ整合性や効率性を明らかにし、オークションに関する理論研究の端緒となる記念碑的な研究でした。その貢献が評価され、なんとヴィックリーは1996年にノーベル経済学賞を受賞しています。

 BDMオークションは、いわばノーベル賞のアイデアを活用した選好表明法であることがわかります。前々回の記事で触れたように、私が共同創業したエコノミクスデザイン社では、BDMオークションを活用したプライシング・サービスをすでに開始しています。

 消費者の本音をどう引き出すか。一見すると地味なこの問いの背後には、経済学やオークション理論の豊かな知見が隠れています。学知に裏打ちされたこうした仕組みが、現実のビジネスにおいて当たり前に活用される時代がくることを期待しています。

※5 Vickrey, W. (1961). Counterspeculation, Auctions, and Competitive Sealed Tenders. The Journal of Finance, 16(1), 8-37. ちなみに、ヴィックリーの後にも、オークション研究に関するノーベル賞は続いており、2007年にロジャー・マイヤーソン、2020年にポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンがそれぞれ受賞しています。

オークションへの理解が深まるおすすめの書籍

 オークションについては、日本語でも優れた教科書や解説書がたくさん書かれています。ここでは、難易度や用途が異なるおすすめの3冊をご紹介します。

① ティモシー・P・ハバード、ハリー・J・パーシュ(2017)『 入門 オークション:市場をデザインする経済学

② 坂井豊貴、オークションラボ(2020)『 メカニズムデザインで勝つ ミクロ経済学のビジネス活用

③ 栗野盛光、佐野隆司(2025)『 オークション理論

 ①はオークションの理論と実証について幅広く扱っている入門書です。数式をほとんど使っていないのが特徴で、さまざまなオークションの実例も紹介しています。②は制度設計(メカニズムデザイン)の視点から、オークション理論のビジネス活用について触れている、世界的に見ても希少な一冊です。③は、オークション研究の第一人者による学部中級~大学院レベルの教科書です。最近の話題までカバーされていて記述も丁寧なのがうれしいです。

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