リーダーとして組織をどうつくるか、どんな人と付き合うか、どのタイミングでどう判断するのか。経営は、いろいろな角度、尺度でその都度、大小さまざまな決断を迫られます。しかも、シンプルな方程式ですべてがうまくいくとは限りません。

 簡単に結果を出すことが難しいからこそ、経営者としての心構えや姿勢、思考の深さが問われることも多いでしょう。

 経営に関する本はあまたありますが、私がいつも経営者や経営層に贈りたいと思う(実際に贈ることもあります)ビジネス書を5冊選びました。

 「経営者に贈りたい本」というテーマで選びましたが、どの本も読みやすい名著で、現場で活躍しているビジネスパーソンにもぜひ読んでほしいと思います。さまざまな事例や著名な経営者の言葉からは、その視座の高さやビジネスを成功に導く感覚を学ぶことができます。紹介した順番に読むと、それぞれの本のメッセージがより深く理解できると思います。

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柳井正氏が「経営の教科書」として愛読

1. 『プロフェッショナルマネジャー』 ハロルド・ジェニーン著、プレジデント社

アルヴィン・モスコー共著、田中融二訳、柳井正解説

『プロフェッショナルマネジャー』 ハロルド・ジェニーン著、アルヴィン・モスコー共著、田中融二訳、柳井正解説、プレジデント社/画像クリックでAmazonページへ 
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 米国の巨大コングロマリットITTの社長兼CEOとして、58四半期連続増益を達成したハロルド・ジェニーンの経営論です。ファーストリテイリング会長兼CEOの柳井正さんが「経営の教科書」にしていることでも知られ、本書では、自ら解説文も書いています。

 この本は、僕が自分の書評メルマガ「ビジネスブックマラソン」の1回目で取り上げた思い出深い1冊です。本書では「本を読む時は、始めから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとは逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをする」と説いています。これは、経営者だけではなく、すべてのビジネスパーソンに必要な考え方です。

 また、人はつい金銭に目が行きがちですが、「金銭」と「経験」なら「経験を取るべきだ」と忠告します。金銭ばかりを優先していると、いずれ経験という資源が枯渇してしまう。しかし、経験があれば、その経験をもとに永続的な経営が可能となります。企業に置き換えてみると、研究開発費の予算を削るとその場しのぎにはなるものの、いずれ困窮していく…という状況が思い浮かびますよね。企業の事例やマネジャーとしての心構えも具体的に書かれており、実践の場でも役立ちます。

世界的ロングセラーになる理由は読めば分かる

2. 『ビジョナリー・カンパニーZERO』 ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著、日経BP

土方奈美訳

『ビジョナリー・カンパニーZERO』 ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著、土方奈美訳、日経BP/画像クリックでAmazonページへ
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 世界で1000万部超のロングセラーとなっている「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの原点ともいえる本。四半世紀以上にわたり、企業研究を行ったジム・コリンズが、リーダーシップや人材育成、企業のビジョンについて解説しています。

 僕は「ビジョナリー・カンパニー」シリーズでは『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』を薦めることが多いのですが、こちらのZEROもかなりおすすめなんです 。

 この本の前半では、コリンズが自分のメンターであったビル・ラジアーとのエピソードについて書いています。その中で印象的なのが、「自らの成功をお金で測ると、必ず敗者になる」というビル・ラジアーの言葉。「人生における成功の評価基準は、どれだけ有意義な人間関係を築くことができるか」と語っていて、ビジネスで最も大事な心構えが分かります。

 また、ビジネスで成功するには「決定的なタイミングで飛び込むこと」「特大ホームランをかっ飛ばすこと」も必要。ただ、このときに「重要なのは運に恵まれることではない。恵まれた運をどう生かすか」とも。結局、どう判断してどう動けるか、なんですよね。考えさせられます。逆に「優先順位を決めない」「勤務中に執務室に閉じこもる」など、経営者の失敗例についても具体的に書かれていて、勉強になります。自発的な組織をつくるには、経営者がどういったリーダーシップを取るべきかが学べる1冊です。

企業として優位に立つ方法は、1つの策では得られない

3. 『ストーリーとしての競争戦略』 楠木建著、東洋経済新報社

『ストーリーとしての競争戦略』 楠木建著、東洋経済新報社/画像クリックでAmazonページへ
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 著者は一橋ビジネススクール特任教授で、経営学者の楠木建さん。語り口調なので読みやすく、「大きな成功を収め、その成功を持続している企業には『ストーリー』がある」という持論に納得させられます。多くの企業の事例を挙げながら、その競争戦略や競争優位性について解説しています。

 僕は以前、アマゾンで働いていましたが、この本に書かれている「戦略ストーリーを回しているうちに競争力が高まり、他社が追いつけなくなる」という状況を実感することができました。

 例えば、今から頑張ったとしても「メルカリに追いつこう」と考えて同じ事業内容で追随する企業は少ないですよね。人間は、どうしても「この手さえ打っておけば安心だ」と思いたくなるものですが、何か1つ手を打てば安泰ということは決してない。努力や改善を続けていくうちに競争力がつき、他社の参入障壁が高まるものなのです。

 結局、「優れた戦略と活動を続けていくことでしか、真の競争優位性は獲得できない」と教えてくれる本です。

多くの経営者に影響を与えている文字通りの教科書

4. 『経営の教科書』 新将命著、ダイヤモンド社

『経営の教科書』 新将命著、ダイヤモンド社/画像クリックでAmazonページへ
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 ジョンソン・エンド・ジョンソンなど、グローバル企業6社で四十数年にわたって勤務し、うち3社で社長を務めた新将命(あたらし・まさみ)さんの本。ジャパネットたかたの髙田明さんがこの本を読んで引退を決めたともいわれています。「社長が押さえておくべき30の基礎科目」というサブタイトル通り、経営者に必要な心構えが分かります。

 この本では「社長は、後継者を育てるところまで視野に入れて経営をするべきだ」と語られます。これには納得感がありますよね。確かに後継者がいないと短期的な経営はうまくいっても、永続的な経営ができません。

 他にも「経営とは『いまどこだ』『どうなりたい』『どうやる』『どうなった』かを行うこと」「経営で大事なのは多長根(多は多面的な視点、長は長期的な見通し、根は枝葉末節ではなく根本に目を向けること)」という言葉も印象的です。組織を安定させ、企業として成長させるには何が最も大事なのかを考えさせられるのです。

 奇をてらったことは書かれていないのですが、シンプルなだけに奥が深い。経営者だけではなく、ビジネスパーソンが読んでも経営に必要な感覚が身に付けられると思います。

松下幸之助が教えてくれる、リーダーに必要な「厳しさ」

5. 『新装版 指導者の条件』 松下幸之助著、PHP研究所

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 松下電器の創業者である松下幸之助さんが、経営者としての経験をもとに指導者に必要な条件を語った1冊です。古今東西の事例を交えながら、組織を率いる者としてのあるべき姿を説いています。

 僕の中では松下幸之助さんは「やんわり、いいことを言う人」というイメージなのですが、この本は指導者に向けた内容だからか、「指導者は自ら省みてやましいところなきを期さなくてはならない」などと厳しい。おそらく著書の中で一番厳しいことを言っていると思います。

 歴史上のリーダーたちの事例なども多く紹介されていて、明治維新のときの長州の大村益次郎のエピソードが印象的です。薩摩藩の隊長が大村に増兵を頼んだところ断られ、隊長は「あなたは、薩摩軍に全員死ねとおっしゃるのですか」と言うと大村は「もちろん、その通りだ」と答えたそうです。それを伝え聞いた薩摩軍は「それならば」と全員決死の覚悟で獅子奮迅の働きをしたそうです。

 もし、このときに「死ねとは言っていない」と言っていたら歴史が変わっていたかもしれません。つまり、指導者は言うべきときには厳しいことを言わねばならない。今の日本ではこうしたことを教えてくれる指導者は少なく、この先、日本が危機的な状況に陥る可能性もゼロではありません。有事や危機に備えるという意味でも読んでおきたい本です。

文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 編集協力/山崎綾