うまくいかなくて人生に疲れたとき、大きな決断を迫られたとき、自信がなくなったとき、人生の岐路に立ったとき…どんなときでも自分の背中を押してくれる哲学書があります。

 本のカリスマ・土井英司さんが「何度読んでも、毎回気づきを与えてくれる」哲学の名著を5冊紹介してくれました。

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自分にとって「生きることの歓び」とは何なのか

1. 『かもめのジョナサン 完成版』リチャード・バック著、五木寛之訳、新潮文庫

『かもめのジョナサン 完成版』リチャード・バック著、五木寛之訳、新潮文庫
『かもめのジョナサン 完成版』リチャード・バック著、五木寛之訳、新潮文庫

 この本は、「生きる歓びとは何か」を教えてくれ、人生の本質に立ち返らせてくれる1冊です。他のかもめたちがエサを食べることにしか興味がないなか、かもめのジョナサン・リヴィングストンは、「飛ぶ」という行為に魅せられます。ジョナサンは飛ぶという行為そのものに価値を見いだし、最終的には時速342キロの速さに達します。

 この「何かを探求する」という姿勢は、生きるうえで大事なことですよね。人はどうしても「お金のため」「食べるため」に仕事をしがちですが、本来は何かを探求するおまけとしてお金が入ってくるのが望ましいのです。「我々は無知から抜け出して自己を向上させることもできる」というかもめの長老の言葉、「かもめの一生があんなに短いのは退屈と恐怖と怒りのせいだ」とジョナサンが気づくくだりは、何度読んでも考えさせられます。

 また、かもめの長老が「完全なるスピードとは時速1000キロで飛ぶことでも光の速さで飛ぶことでもない。どんなに数字が大きくなってもそこには限りがある。完全なるスピードはすなわち、即そこにあるということ」と話す言葉も深い。

 今の資本主義の世の中なら「より多く」「より大きく」稼ぐことに目が行きがちですが、「自分のありたい姿」を思い描き、その境地に至ることが必要だと教えてくれます。

簡単そうなのにできない、人生で大切にしたいこと

2. 『道をひらく』松下幸之助著、PHP研究所

『道をひらく』松下幸之助著、PHP研究所
『道をひらく』松下幸之助著、PHP研究所

 きっと誰もが一度は見たことがある表紙だと思います。昭和43年の発刊以来、読み続けられているロングセラー。松下幸之助が、自分の体験と人生を基につづった短編随想集です。目新しいことは何も書いてありませんが、人が簡単にはできないこと、人生で大切にしたい指針が書かれています。

 僕は若い頃にこの本を読んだとき、正直「何が言いたいのか、よく分からないな」と思いました。でも、今読み返すと「人がなかなかできないことが書いてあるから、読まれ続けているんだ」と分かります。

 例えば、「素直」については「素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境はうぬぼれを生む」と書かれています。他にも「違うことを嘆くよりも、その違うことの中に無限の妙味を感じたい。無限の豊かさを感じたい」「自己を捨てることによって、まず相手が生きる」などと書かれていて、わが身を振り返るきっかけになります。

 今の社会では、自分と他者が「違うこと」に怒り、「他人より自分」を優先してしまう人が多いのではないでしょうか。この本は、含蓄のある言葉が数多く紹介され、これから人生の岐路に立ったときに救ってくれる1冊だと思います。

自信がすり減ったときに読むといい

3. 『マルクス・アウレーリウス 自省録』神谷美恵子訳、岩波文庫

『マルクス・アウレーリウス 自省録』神谷美恵子訳、岩波文庫
『マルクス・アウレーリウス 自省録』神谷美恵子訳、岩波文庫

 著者のマルクス・アウレーリウスはローマの五賢帝の1人で、「哲人王」といわれた人物です。皇帝としてだけではなく、哲学者として生き方を模索した彼の言葉が収められています。

 教訓や自己への戒めが淡々と書かれており、これを読むと自分の中に1本芯ができるように感じます。僕はこの本が大好きで、この岩波文庫版、講談社学術文庫版の 『マルクス・アウレリウス「自省録」 』 、エッセンシャル版の 『超訳 自省録 よりよく生きる エッセンシャル版』(ディスカヴァークラシック文庫シリーズ) を持っています。読み比べてみるのも面白いかもしれません。

 この本にはアウレーリウスの自己との対話による言葉が収められています。

「これ以上理性を奴隷の状態におくな。利己的な衝動にあやつられるがままにしておくな」
「魂のうごきを注意深く見守っていない人は必ず不幸になる」
「めいめいの一生は短い。君の人生はもうほとんど終わりに近づいているのに、君は自己にたいして尊敬をはらわず、君の幸福を他人の魂の中におくようなことをしているのだ」

 自分と対峙して戒める言葉はどれも深いものばかり。特に「君の肉体がこの人生にへこたれないのに、魂のほうが先にへこたれるとは恥ずかしいことだ」という言葉には、誰もが思い当たる経験や思いがあるのではないでしょうか。

 自信が持てないときに読むと、進むべき道が見えてくる。あの名君でもこんなことで悩んでいたのかと勇気が湧き、鼓舞してくれる1冊です。

「忙しいと哲学できない」その理由が分かる

4. 『知性について 他四篇』ショーペンハウエル著、細谷貞雄訳、岩波文庫

『知性について 他四篇』ショーペンハウエル著、細谷貞雄訳、岩波文庫
『知性について 他四篇』ショーペンハウエル著、細谷貞雄訳、岩波文庫

 ドイツの哲学者、アルトゥール・ショーペンハウエルが知性について書いた哲学書です。知的な思考回路とはどういうことかについて教えてくれます。「フィロソフィー(哲学)」は、ギリシャ語の「フィロ(愛)」+「ソフィア(知)」が合わさった言葉ですが、まさに「知を愛することが哲学」なのだと分かる1冊です。

 この本には、哲学をするための心構えが書かれています。1つ目は「いかなる問いをも率直に取り出す勇気を持つこと」。2つ目は「自明の理と思われるすべてのことを改めて意識し、それを問題としてつかみ直すこと」。そのうえで「本格的に哲学をするためには精神が本当の閑暇を持っていなくてはならない」と。

 現代人はまず、精神の閑暇を持つことから始めないといけませんね。興味深いのは、人と対話をする際の教え。例えば、「さまざまな見解の相違を浮き上がらせよ」「双方に発言させよ」「知的な狙いがない場合には対話形式も不要」といったことをショーペンハウエルは言っているのですが、これは、現代のSNSのマナーにも通じると思います。

「なぜ不幸になるのか」から読み解く、本当の幸福

5. 『ラッセル 幸福論』安藤貞雄訳、岩波文庫

『ラッセル 幸福論』安藤貞雄訳、岩波文庫
『ラッセル 幸福論』安藤貞雄訳、岩波文庫

 バートランド・ラッセルは英国の哲学者であり、ノーベル文学賞の受賞者です。「幸福論」は他にもアラン、カール・ヒルティが書いたものもありますが、今の時代には、現代人が陥りがちな問題点を指摘したラッセルの本が心に響くかもしれません。

 この本の前半では「何が人々を不幸にさせるのか」について書かれています。例えば、「富める者が不幸であるなら、誰も彼もを物持ちにさせることは役に立たない」と言い、ラッセル自身は「どんなことをしても獲得できないものは上手に捨ててしまった」と説きます。今の世の中は、多くの物を持とうとし、絶対に手に入らないものを欲しいと思ってしまうから不幸になるのだと気づかされますよね。

 他にも「何もかもうまくいかないと感じると気晴らしと忘却を求める」など、現代人が読むと心に響く言葉ばかりです。また、「人間は疲れれば疲れるほど外部への興味が薄れていく」という言葉は、人生と仕事についても考えさせてくれます。

文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)編集協力/山崎綾