春にこの連載で公開した記事 「新社会人が夏までに読んでおきたい 信用で差がつくビジネス書5冊」 の中では、まず信用を得られるようになる心構えを学べる5冊を紹介しました。
入社3年目までが、ビジネスパーソンとして周りから信用を得て「基礎力を蓄える時期」だとしたら、5年目は、その信用を武器に「蓄えた力を発揮するとき」といえるでしょう。仕事の流れや社内事情が分かってくる時期でもあり、その上で多少しくじったり、空気の読めないことを言ったりしてもまだ許されるのが5年目の立ち位置です。
この時期までに、社内の問題点に着目する習慣をつけておくと、仕事上でホームランを打てる可能性があります。とある人事担当者に聞いたところ、人事は3年目までの働きぶりで「出世するかどうかが分かる」そうです。そして、入社5年目の28歳ぐらいからキャリアの岐路が分かれ始め、30代に入ると早々にマネジャーになる人が出てきます。組織構造的に若手が多い組織なら、もっと早い段階で結果を求められる場合もあるでしょう。
入社10年、20年と組織にいる時間が長くなると、知らない間に社内政治につかって身動きが取りにくくなったり、意見しても「なんでもっと早く言わないんだ」と思われたりしかねません。着実なキャリアを築くために、20代のうちにどんな知識や思考を身につけておくといいのか。若手でもあり中堅でもある「入社5年目までに読んでおきたい」5冊の本を、おすすめの読む順番で紹介します。
管理職になる準備に役立つドラッカーの名著
1. 『経営者の条件』P.F.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社
ドラッカーの名著かつロングセラーの本書。セルフマネジメントの大原則を「8つの習慣」として紹介しています。原題は「The Effective Executive」。つまり、すべてのビジネスパーソンはエフェクティブであるべきだと説いています。マネジャー層になるための心構えを教えてくれる1冊です。
ドラッカーはこの本の中で、会議に時間を使いすぎているのは「組織の欠陥の明らかな証拠」であり、「成果を上げるためには自由に使える時間をひとまとめにする必要がある」と言っています。効率的に働くには、個人のタイムマネジメントだけではなく、組織全体の見直しが必要です。
他にも「いかに肩書や地位が高くとも、努力に焦点を合わせたり、下に向けての権限を重視するものは、ほかの人間の部下であるにすぎない」「機会を中心に人事を行うことこそ、成果を上げる組織を創造する道である」と言い、組織全体の業績に責任を持つことの大切さを教えてくれます。ちょうど仕事に慣れてきた頃に読むと、プレーヤーからマネジャーへと視座を高められる1冊です。
財務本のベスト3に入る、感動レベルの面白い本
2. 『決算分析の地図─財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』村上茂久著、ソシム
僕の中で「財務本のベスト3」に入るといってもいい1冊です。最初に読んだとき「よくぞ、世に出してくれた!」と感動しました。財務分析にビジネスモデル分析を掛け合わせた、ものすごく面白い本です。
この本の何が面白いかというと、同業種でもビジネスモデルが違えば財務3表の数字が変わってくると分かる点です。例えば、ホンダと日産は同業種ですが、財務3表の数字が全く違います。なぜなら、利益率が高い稼ぎの柱となる事業や資本の使い方が異なるからです。両社の経営統合は破談になりましたが、お互いのビジネスモデルを理解して「手を組んだらこうしたメリットがある」と合理的に説明できていたら、また違った結果だったかもしれません。
ビジネスモデルと財務3表のつながりが分かると、自社に対して画期的な提案ができるようになります。僕もこの本を読んで、「出版業界は行き詰まっていると思っていたけれど、ビジネスモデルを変えれば利益率が変わるんだな」と活路を見いだしました。ビジネス書の歴史に残る名著だと思います。
「生産性が確実に上がる」7つのムダを考える視点
3. 『トヨタ生産方式』大野耐一著、ダイヤモンド社
1978年の発刊以来、読まれ続けているロングセラー。世界的に有名となった「トヨタ生産方式」を確立した大野耐一さんによる本です。この本に書かれている「7つのムダ」について考えるだけでも、自分の仕事の生産性は上がります。
トヨタ生産方式で「7つのムダ」とされているのは「加工」「在庫」「造りすぎ」「手待ち」「動作」「運搬」「不良・手直し」です。この本を読むと、自分の会社はどこに構造的なムダがあり、どう改善していけばいいかという視点が持てると思います。
今はリモートワークをしている人も多いと思いますが、在宅で仕事をする際は、「手待ち」「動作」「運搬」のムダが同時多発的に起きていないか確認すると、生産性が上がりますよ。
自社のムダは、外の視点を持った社外取締役や転職してきた人が気づきやすいものですが、いきなり指摘すると反感を買いやすく、受け入れられないことが多々あります。なぜなら、社員たちもムダがあると分かっているものの、それまで築き上げてそれなりの合理性が担保されている仕組みだったりするものだからです。そういう意味では、社内の事情を分かっている入社5年目ぐらいの社員が指摘して改善していくべきですし、意見を受け入れてもらえるように5年目までに職場の信頼を勝ち得ておくべきだと思います。
論点が見えたら、出せる成果が大きく変わる
4. 『イシューからはじめよ[改訂版]』安宅和人著、英治出版
データサイエンティストの安宅和人さんが「やみくもに問題に取り組むのではなく、まずは論点を見極めることが大事だ」と説いた、ビジネス書の名著。改訂版では新たに「課題解決の2つの型」「なぜ今『イシューからはじめよ』なのか」といった内容が追加されています。
この本でいうイシューとは「2つ以上の集団の間で決着のついていない問題」であり「根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題」の両方の条件を満たすもの。そして、何か問題が起きたときは「解の質」を上げるよりも「イシューの質」を上げることが大事だと説いています。
入社5年目くらいになると、会社の問題点が見えてきますから、みんなが「気合いと根性で手当たり次第に始める犬の道」など間違った方向に進んでいるとき、「それは違うのでは?」と意見できるようになります。その意見が言えたらきっと、これまでとは異なる成果を出せるようになりますよね。効率的に問題を発見し、解決策を導き出すためにどんなプロセスが必要なのか。ビジネスパーソンとしての賢さを身につけるために、読んでおきたい1冊です。
論点を変えたらヒットやホームランが生まれる
5. 『論点思考』内田和成著、東洋経済新報社
著者はボストンコンサルティンググループの日本代表を務めた内田和成さん。内田さんの『仮説思考』もベストセラーですが、『論点思考』では「問題設定 → 解決策の立案・提示 → 実行 → 問題解決」という論点思考のプロセスについて教えてくれます。
この本では「最初に論点設定を間違えると、間違った問題に取り組むことになる」と書かれていて、先に紹介した『イシューからはじめよ』に通じる部分があります。「ベテランは本当の論点は何かを考え、初心者はインプットと構造化を繰り返す」ため、最初に論点を絞り込むのが肝心です。
また、仕事では「経営者があまり問題意識を持っていない分野に着目する」のが大事だというのも示唆に富んでいます。例えば、経営者はそもそも経営に関心があるので経営分野の課題に対しては十分な対策がなされていることが多いのですが、関心を持っていない研究開発や広報の分野は手薄になって施策が行われていない、ということがあります。でも、そこにはトラブルの種や宝の山が潜んでいる可能性があるのです。そこに気づき、うまく指摘できるようになると、組織の中でヒットやホームランを打てる可能性が高まります。
画期的な改善は論点を変えることで生まれますし、ある程度の経験を積んだ入社5年目の人にはぜひ読んでほしい1冊です。
文/三浦香代子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集) 編集協力/山崎綾




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