「分析を任されたが、アウトプットを出せない」「現状と課題を把握したい」。こうした悩みは適切な思考ツールを身につけることで対応できる。複雑な問題を論理的に扱えるようにし、意思決定のスピードを向上させるのが「構造化」だ。外資系トップコンサルファームであるボストン コンサルティング グループ(BCG)のコンサルタントはまず「構造化」の思考ツールを習得する。『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』(井上潤吾著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

アウトプットの質を上げる「構造化」

 構造化とは、物事の全体像とその中にある構成要素、そして構成要素同士の関係をわかりやすく可視化することである。構造化の目的は単に整理整頓することではなく、複雑な問題を論理的に扱える形に変換し、解決や意思決定のスピードを上げることにある。この構造化はコンサルタントの基本技であり、戦略を考える上で欠かせないツールである。構造化のメリットを以下に示す。

(1)全体像を把握できる
 複雑であいまいな課題が俯瞰(ふかん)的に見えるようになる。またどの部分が重要で、どこに抜けがありそうかを把握できる。例えば、売上減少の要因を「数量×単価」に分けると、何を分析すべきかがすぐに見える。

(2)論点が明確になる
 「何が問題か」「どこを深掘りすべきか」を明確化できる。同時に、議論が漠然と広がるのを防ぎ、重要な論点に集中できる。例えば、利益減少を「売り上げの減少」か「コストの増加」かに切り分けることで、議論の方向性が定まる。

(3)抜け漏れが防げる
 MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:漏れなく・ダブりなく)な枠組みを作ることで、原因や打ち手を網羅的に洗い出せるのもメリットだ。さらに、特定の観点だけに偏ることを防ぎ意思決定の質が上がる。

(4)チームでの共通認識を形成できる
 複雑な課題を図や表に整理することで、チーム全員が同じ対象を見ながら議論でき、方向性や認識のずれを防げる。

(5)実行可能なアクションを具体化できる
 実際に手を打てる単位まで課題を分解するための出発点となり、その後の施策の具体化につながる。

 この構造化は「要素分解」の後、「ピラミッド構造」にして行う。

論理的かつ網羅的に分解するためのコツ

 要素分解とは、経営課題の原因を特定するために、課題を構成要素に分解、分析することである。このとき、論理的かつ網羅的、すなわち筋道が立っていて矛盾がなく、大きな要素の見落としもないようにすることが大切だ。

 そして、分解する要素は一意とは限らないということも重要である。例えば、利益が減少しているという経営課題を分析するとしよう。要素分解の1つとして、「利益=売り上げ-コスト」が考えられる。この場合、売り上げが減少しているか、コストが増加しているか、と検討していくことになる。

論理的かつ網羅的、矛盾がなく、大きな要素の見落としもないようにすることが大切(写真はイメージ)(写真:takasu/stock.adobe.com)
論理的かつ網羅的、矛盾がなく、大きな要素の見落としもないようにすることが大切(写真はイメージ)(写真:takasu/stock.adobe.com)

 しかし、利益の要素分解は他にも考えられ、「利益=事業別利益の合計-本部コスト」というものもある。この場合は、利益が減少している事業部はどこか、本部コストは増加していないかを検討することになる。これが「一意とは限らない」という意味である。

 さらにこの要素分解は、階層的なのも特徴だ。上記の例で言うと、「利益=売り上げ-コスト」を「売り上げ=顧客数×顧客単価」「コスト=原価+販管費+その他」と分解し、さらに「顧客数=新規顧客獲得数+既存顧客数-解約した既存顧客数」と分解する。このように階層化することで具体的な原因を特定し、課題解決の施策を検討する。

まず既存の枠組みの活用を試みる

 要素分解の手法としては、まず、既存の枠組み(フレームワーク)の活用を考えるのがよい。なぜなら、ゼロから考えずにすんで短い時間で質の高い議論ができる、別の場面でも応用可能で再現性がある、などのメリットがあるからだ。

 代表的なフレームワーク例を以下に示す。

  • 市場環境を分析するための3C:Customer(顧客・市場)、Company(自社)、Competitor(競合)
  • 企業の内部外部環境を分析するためのSWOT:Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4象限
  • マーケティング戦略を立案するための4P:Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)
  • 業界の競争環境を分析するためのファイブフォース(5Force)分析:業界内の競争、新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力
  • 商品やサービスが顧客に届くまでの事業活動を「価値の連鎖」と捉えて各工程で生み出される付加価値やコストを明らかにするためのバリューチェーン分析:製造、流通、マーケティング、販売、サービスなど
  • 情報整理・伝達・問題解決に用いる5W2H分析:When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)、How much/many/long(どれくらい)

フレームワークがない場合は自分で考察する

 フレームワークが使えない場合は、自分で考案することになる。その場合は、(1)自分が属する組織や業界でよく使われる要素分解、(2)経営指標を数式で表す要素分解、(3)自分で過去に熟考した要素分解を使うことをおすすめする。それぞれの例を挙げる。

 (1)の例で言えば、人事制度のメンバーシップ型、ジョブ型、スキル型の分類がよく知られている。業界ルール(規格)は、スタンダード(標準)とレギュレーション(規制)に分けて考えられる。

 コンサルティング業界では、経営診断や経営アジェンダの議論をよく行う。経営診断では、市場の概況や顧客ニーズ、業務プロセス、データ、ICTインフラ、組織と人材、という要素分解を用いる。経営アジェンダでは、1つの軸を攻めと守りに、もう1つの軸を地域別、事業別、経営インフラに分解し、2×3のマトリクスを作り、それぞれの象限に経営課題を列挙する、という要素分解を使っている。

 (2)の例では、売り上げを廉価商品と高付加価値商品の売り上げの和で示したり、利益を家庭用商品と業務用商品の利益の和で示したりする。

 (3)の例では、筆者は「戦略の骨子」や「検討すべき論点の設定」については自分の型を持っている。戦略の骨子には、ビジョンや目指す姿、市場動向、経営のコミットメント、外部連携、実行する組織と人材、考えられるリスクと軽減案などの要素がある。検討すべき論点の設定には、目的と検討範囲、組織/プロセス、人材などの要素がある。

ピラミッド構造でわかりやすく可視化する

 要素分解は階層的であり、ピラミッド構造(ロジックツリーとも呼ばれる)にして見せるとわかりやすい。筆者をはじめ、コンサルタントは会議の際にピラミッド構造の図をホワイトボードに書き、それを見ながら侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をするのが常である。

 ピラミッド構造は、上層の主張やメッセージに対し、その下層に根拠や理由を複数展開する。その下層の各項目の下にも、裏付けとなる要素を複数展開して最上層の仮説や説明を支え、図式化すると大きな三角形(ピラミッド)となり、一見してわかりやすくなる。

 どの階層においても、すぐ上の層とすぐ下の層との関係性は一律で、上の層に「なぜ?」を投げかけたときの答えが、下層に展開される。つまり、上層のメッセージは、下層全体を要約したものともいえる。逆に、下層のグループのすべてを統合するとき「だから?」の答えが上層に来る。下層は、上層のメッセージを根拠で支える。

 図表1で例を示す。「X事業から撤退すべきか」という経営課題に対し、3Cのフレームワークを用いてCustomer(顧客・市場)、Competitor(競合)、Company(自社)で分解し、領域ごとの結論を出している。さらにその結論に対して、要素分解して各要素の検討結果を出している。例えば、市場の見通しは市場規模、成長性、収益性に分解しており、競争優位性はコストと価格の視点で、自社の強みは販売と製品に焦点を当てて分析している。

図表1 構造化をピラミッド構造で示した例
出所:ボストン コンサルティング グループ
出所:ボストン コンサルティング グループ
画像のクリックで拡大表示

 市場の見通しを市場規模、成長性、収益性に要素分解するのは、前述したフレームワークがない場合の(1)の例(業界でよく用いられる)に属し、競争優位性と自社の強みの要素分解は、バリューチェーン分析のフレームワークを用いている。なお、この例では、市場の見通しは網羅的に要素分解した結果を示しているが、競争優位性と自社の強みは、そうした後でインパクトが大きい要素だけ抽出していることに留意してほしい。

場数を踏んで使いこなす訓練を行う

 構造化という概念を知っている読者は多いと思うが、これを自由自在に使いこなすには、数多く経験を積む必要がある。コンサルタントは入社後3年を目途(めど)に構造化ができるように日々鍛錬する。

 鍛錬の仕方は、まず経営学の教科書や社内研修資料で、フレームワークとその使い方を覚える。次に、実際のプロジェクトで、フレームワークが活用できないか、できない場合は先輩たちがどのように要素分解しているか、数式で経営インパクトを示せないか、を考える。それもできない場合は、自分の頭で考察することになる。こうして、既知の枠組みに自家製の枠組みを加えた、いわば「拡張版フレームワーク」を頭の中に入れておき、いつでも引き出せるようにしておく。

 強調したいのは、同じ分析対象でも要素分解は複数存在しうるため、選択肢の中でどれが目的に最適かを考えるのが重要だということだ。要素分解したら結果を確認し、うまくいかなければ別の方法を試す、という試行錯誤が必要である。

現状分析、戦略・施策立案、成果の創出・維持を促すための思考法を、20のツールとして縮約。20の思考ツールを自由自在に使いこなすことで、ほぼすべての経営課題に対応できる。実践を想定したケーススタディでは、思考ツールの応用方法を学べる。

井上潤吾著/日本経済新聞出版/2860円(税込み)