「平均を踏まえて決めたのに失敗した」。そのような経験は誰しも一度はあるのではないだろうか。実際、「平均」だけを見ていると、見逃してしまう事実がある。外資系トップコンサルファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)ではあえて「脱平均化」という視点を取り入れ、個別事情に合わせて対処している。『BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」』(井上潤吾著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

平均化で見逃される事実に目を向ける

 「脱平均化」とは、ビジネスや経済において、単純な平均値に基づいた意思決定を避け、より詳細な分析を行うことで、個別の要素やセグメントごとの違いを考慮する手法のことを指す。従来、多くの企業や経済分析では平均値を基にした判断がなされてきた。しかし、単純な平均値だけに頼ると、以下のように様々な問題が生じることがある。

・顧客個人の顔が見えなくなる
 例えば、顧客データの平均値だけを見ていると、一部の高額商品購入者と低価格商品購入者の違いを見落とす。

・市場や戦略の最適化ができなくなる
 例えば、売り上げの平均成長率が一定でも、実際には特定の地域では急成長し、他の地域では停滞している可能性を見落とす。

・意思決定を間違える
 例えば、平均利益率だけを見てコスト削減策を考えると、実は特定の顧客層には高い利益が出ていたことに気づけず、誤った削減策をとってしまう。

 こうした問題を防ぐために、顧客セグメントの分析ではすべての顧客を「平均顧客」として扱わず、年齢・地域・購買履歴などで細分化して異なる戦略を立てる。また、地域別の売上分析では、全国平均の売上増減を見るのではなく、地域ごとの成長率を分析し、それぞれの市場に合った戦略を立てる。

 商品別の収益分析では、単なる売上平均ではなく、商品ごとの利益率を分析し、収益性の高い商品に投資を集中させる。そして、従業員パフォーマンスの評価では、部署ごとの平均ではなく、個々の成果を可視化し、それぞれに適した評価制度を設計する。これが脱平均化の考え方である。

陥りやすい5つのわな

 脱平均化は細かい分析を可能にする一方で、誤った使い方をすると逆に意思決定を歪(ゆが)めたり、非効率を生んだりする可能性がある。以下にその例を示す。

(1)過度に細分化する
 データを細かく分けすぎると、全体の傾向を見失い、偶然の変動に過剰に反応してしまうことがある。特に、小規模なデータセットでは、ランダムなノイズを重要なパターンと誤認するリスクがある。

 例えば、顧客セグメントを極端に細かくすると、それぞれのセグメントで統計的に有意な傾向が見られなくなるし、地域ごとに広告戦略を変えすぎると、データ量が不足し最適な施策を判断できなくなる。対策は、適切なサンプルサイズを確保し、細分化のレベルを慎重に決め、統計的に有意な差があるか検証することである。

「脱平均化」には年齢・地域・購買履歴などで細分化することが重要(写真はイメージ)(写真:Hyejin Kang/stock.adobe.com)
「脱平均化」には年齢・地域・購買履歴などで細分化することが重要(写真はイメージ)(写真:Hyejin Kang/stock.adobe.com)

(2)過度な分析を行う
 分析の粒度を細かくしすぎると、判断材料が増えすぎてしまい、迅速な意思決定が難しくなる。特に、企業の経営判断においては、スピードが重要な場合が多いため、過度な分析は逆効果になることがある。

 例えば、全顧客の購買履歴を細かく分析しすぎた結果、個別対応が増えすぎてマーケティング施策が実行できなくなる、部門ごとのパフォーマンスを詳細に分析しすぎることで全体の意思決定が遅くなる、といったことがある。対策は、必要十分なレベルの細分化にとどめることと、意思決定に影響を与える主要なKPI(重要業績評価指標)を明確化し、それに集中することである。

(3)重要な全体傾向を見落とす
 脱平均化に集中するあまり、大局的なトレンドやマクロな影響を見落としてしまうことがある。例えば、全体として売り上げが減少しているのに、一部の好調なセグメントに注目しすぎて対策が遅れる、顧客層ごとの満足度を個別に分析しすぎて、ブランド全体の評価が低下していることに気づかない、といったことだ。対策は、個別のデータだけでなく、全体のトレンドとのバランスを取ることと、細分化した分析とマクロの視点の両方を組み合わせて判断することだ。

(4)コストとリソースを過剰に消費する
 細かく分析すること自体に時間とコストをかけすぎると、実際の施策やアクションにリソースを割けなくなる。例えば、顧客ごとにカスタマイズした広告を作ることに時間をかけすぎて広告の配信が遅れる、各支店の業績を細かく分析しすぎて管理コストが増え、全体のパフォーマンスが悪化する、といったことがある。対策は、分析のROI(投資対効果)を常に意識し、最も影響の大きい部分にリソースを集中させること、及び自動化ツールやAI(人工知能)を活用し、過度な手作業を減らすことである。

(5)データを恣意的に解釈する
 データを細かく見すぎると、特定の視点やバイアスを助長してしまう危険性がある。特に、分析者の意図に合ったデータを選びがちになる確証バイアスや、部分的なデータだけを見てしまう選択バイアスが発生しやすくなる。

 例えば「特定の地域では売り上げが伸びている」というデータだけを取り上げ全体の売上低下を無視する、顧客満足度の高いセグメントだけを重視し不満層の離脱リスクを見落とす、といったことである。対策としては、複数の視点からデータを分析して全体像を意識する、意図的に異なる仮説を検証しデータの偏りをチェックする、などがある。

 上記を整理したものを図表1に示す。

図表1 脱平均化を検討する際の陥りやすいわなと対策
出所:ボストン コンサルティング グループ
出所:ボストン コンサルティング グループ
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井上潤吾著/日本経済新聞出版/2860円(税込み)