投資の世界は、予定調和とは無縁の切った張ったの経済ドラマが繰り広げられる。そんな世界だからこそ、ビジネスパーソンが投資をすれば、経済への理解が進み、得た知識やセンスは、仕事に大きく役に立つ──。X(旧Twitter)フォロワー63万人を誇る元日経新聞記者の後藤達也氏は言います。本記事は、後藤氏の新刊『 転換の時代を生き抜く投資の教科書 』から抜粋して紹介します。
(前回から読む)投資をすることで、リアルタイムの荒々しい経済の世界が分かる
株式市場は「世界中の英知とマネーが綱引きする舞台」だと思います。株式市場には実にさまざまな人々が参加しています。少額の個人投資家もいれば、巨額の資金を運用する年金もありますし、プログラムを使った超高速取引をする業者もいます。そして誰もが、利益を得たいと考えています。
この世界は、何十年も前からある理論が通用し続けるような悠長な場所ではありません。常識が覆る瞬間があり、そしてマネーは瞬時に動きます。株価にしても為替にしても、示される数値は世界中の投資家が血みどろになりながら、切った張ったを繰り広げた結果です。
本書『転換の時代を生き抜く投資の教科書』でも詳しくお伝えしますが、例えば「景気が良くなったことで株価が下がる」なんてことも起こり得ます。戦争が始まって株価が上がることもあります。昨日まで通用していた理屈がまったく通用しないことも日常茶飯事です。
投資の世界は、予定調和とは無縁の経済ドラマが繰り広げられる場です。机で学ぶ経済学の理論とは異なり、日々の生々しい出来事をどう解釈し、おカネを動かすか。世界中の投資家がしのぎを削る、荒々しい世界が広がっています。
これはビジネスパーソンにとって、とても有用な体験の場になります。というのも、読者の多くの方が身を置いている実業の世界はそうした「本音」の世界だからです。
企業はさまざまな不確実な条件のなかで、利益を上げようと必死に努力しています。楽して確実にもうけられるビジネスモデルなんてそうそうありません。顧客の動向やルールが突然変わることもあります。
非常に厳しい世界ですが、それが現実です。そして、それは株式市場も同じです。建前のないガチンコの世界で、株価は日々動いています。その動きを見て、ときにおカネを投じることで、経済のダイナミズムの理解が急速に進みます。そしてそこで得た知識やセンスは、ビジネスパーソンとして日々働く際にも大いに役に立つはずです。
投資はビジネスパーソンの「リスキリング」
投資は「経営の疑似体験」であり、「ガチンコの世界」です。こう話すと「私は別に経営者を目指しているわけじゃないし、疑似体験しなくていい」と思うかもしれません。しかし、いろいろなリスクに向き合いながら、チャンスを結実すべく判断を重ねていくことは、あらゆるビジネスパーソンに必要なマインドセットといえます。
仕事をしていると、さまざまなタスクが与えられます。漫然と指示に従うこともあるかもしれませんが、新たな提案を求められることもあります。小さな改善策を自ら試すこともあるでしょう。
さらには別の部署や地域への異動を申し出て、新しい経験を重ねようとすることもあります。転職や独立を考えることもあるでしょう。
こうした判断は、大企業の経営と比べれば小さなことかもしれません。それでも、リスクに向き合いながら、判断を重ねていくというのは大企業の経営も自身のキャリアアップも本質的に同じことだといえます。そう考えると、大企業の経営を疑似体験できることの意義は大きいと思えるのではないでしょうか。
例えば大学生であっても、貯金の一部でAppleの株主にも、トヨタの株主にもなれます。iPhoneやレクサスで企業が稼いできたおカネは配当などで分配されます。投資先の収益が落ち込めば株価は下がるかもしれません。ガチンコの世界では、冷徹な現実も突きつけられます。
しかし「失敗は成功のもと」ともいわれます。いいと思った投資がうまくいかなかった場合には教訓や反省があり、次の判断にも生かされていきます。投資は資産形成や知識の広がりというだけでなく、ビジネスパーソンとしてのマインドセットを磨く手軽な「リスキリング(学び直し)」ともいえます。
(次回に続く)
後藤達也著、日経BP、1760円(税込み)

