X(旧Twitter)フォロワー63万人を誇る元日経新聞記者、後藤達也氏の新刊『 転換の時代を生き抜く投資の教科書 』では、投資を始めるにあたって改めて知っておきたい「経済のしくみ」についても、基本から分かりやすく解説しています。本記事では「株式会社のしくみ」とはどういうものか、後藤氏の会社設立を題材に、書籍から抜粋して紹介します。
(前回から読む)2022年、株式会社をつくりました
私は2022年3月に日本経済新聞社を退職し、フリーランスとして活動を始めました。当初は「個人事業主」として活動しました。この時点では法人ではありません。
その後いろいろな方に話を聞いたりするなかで、noteなどの収入も伸び始めましたので、株式会社をつくろうと考えました。個人として情報発信する分にはやることに大差はないのですが、会社をつくったほうが事業運営の面でメリットが多いと感じたからです。
資本金は100万円。一部は親族にも株主になってもらいましたが、私ひとりで過半を持っています。知人やベンチャーキャピタルなどからは出資を仰いでいません。その上で小さな会社ではありますが、会社法に沿って私が「代表取締役」に就きました。
私の業務はX(旧Twitter)やnoteなどでの情報発信やメディア出演などです。家賃や原材料費、人件費などはほとんどかかりません。このため、初期費用も目先の運転資金もほとんどかからず、日本政策金融公庫や民間銀行から借り入れることもありませんでした。
実態としては小さな個人企業ですが、私自身は「株主」として議決権や将来の配当をもらえる権利がある「オーナー」です。同時に「代表取締役」という「経営者」でもあり、会社からは役員報酬を毎月受け取っています。さらにいうと、情報発信や経費精算まで実際に日々の業務を回す「プレーヤー」でもあります。今のところまとまった資金が必要とは考えていません。このため、銀行からの借り入れに頼ることはなさそうですし、仮に「出資するよ」という知人がいたとしても、現時点では受け入れる予定はありません。
出資を受け入れると、新たな株主に議決権や利益請求権が生まれます。その時々の経営判断や事業運営について、新たな株主への説明責任も生じます。これは健全な緊張関係かもしれませんが、自分自身の会社としては窮屈さも生まれます。
例えば、「目先の利益に貢献しないし、長期的にもよく分からないけれどやってみたい」というプロジェクトがあれば、今ならほかの株主の意向を探ったり、説明したりせずに即決できます。
当たり前のことを大げさに話しているようですが、株式会社の本質的な面を映しているともいえます。では、知人やベンチャーキャピタルから出資を受け入れるとすると、どういう変化が起こっていくのでしょうか。以下で見ていきます。
売り上げが立っていなくても、成長ストーリーで資本を集める
私の会社はこぢんまりとしたものですが、もっと事業を大きくしたい場合にはおカネがいります。起業する時には設備など初期コストがかかるほか、原材料費、人件費、家賃などなどランニングコストも大きくなります。
その会社が手掛ける仕事が有望なものであったとしても、起業して間もない頃は売り上げが立ちにくいことも多く、運転資金を借金でまかなうことも多くなります。借金は利払いの負担も生じます。できるなら借金ではなく「資本」で集めたい。そう考える人も多いでしょう。
会社が将来成長するという期待を資本家に納得させることができれば、「借金」ではなく「資本」を集められます。それには、会社は新たに株を発行し、資本家はおカネを渡し、株を受け取ります。
小さな会社なら、親族や友人に少しずつ出資してもらう場合があるでしょう。ビジネスの実績があり、アイデアやスキルが魅力的ならば、立ち上げ早々に外部から数億円の資本を調達することもあります。
もちろん、会社側としては議決権や将来の利益を分配する権利の一部を資本家に譲ることにはなります。それでも、まだ売り上げが立っていない段階で資本家がリスク覚悟でまとまったおカネを投じてくれるわけです。
売り上げが十分になくとも、人を雇ったり、事業拡大に向けた先行投資におカネを振り向けたりできます。
出資を受けるとプレッシャーと窮屈さも生まれる
おカネを投じる側の立場でも考えましょう。出資先の企業が、もし日本を代表する企業に成長すれば、巨額の配当を得ることができます。株は誰かに転売することも可能です。
例えば当初、100株を100万円で買った後にその企業がどんどん成長した場合、ほかの人に「100株を1000万円でもいいから欲しい」と言われれば、差額の900万円が利益になります。また、株を持っている最中は議決権もあります。保有比率にもよりますが、経営陣に対して注文をつけることもできます。
しかし、投資した企業がうまくいかず、倒産してしまった場合は株の価値はゼロになります。
創業から間もない企業に投資する組織のことを、ベンチャーキャピタル(VC)と呼びます。数多くの企業に投資し、いくつかの企業は倒産したり、経営不振が長く続いたりする場合もありますが、一部の企業でも大きく成長すれば全体として十分に収益を上げられるといわれます。
VCなどから資本を受け入れると、経営陣には一定のプレッシャーがかかります。VCはリスクを取っておカネを出してくれたわけですから、会社はそのおカネを有効に活用して、期待に応えねばなりません。
おカネを出してもらうために訴えてきた成長ストーリーを比較的短期間で軌道に乗せ、収益も成長していく可能性を高めることが求められます。会社の成長に関係のないコストは切り詰めねばなりません。こうなると、社長自身の給料もむやみに高くはできません。
(次回に続く)
後藤達也著、日経BP、1760円(税込み)

