株式投資をする時に大きなポイントになるのは配当金でしょう。しかし、配当が多い会社は株価自体を考える時に、果たしていい会社なのでしょうか。本記事は、『転換の時代を生き抜く投資の教科書』から抜粋して紹介します。

純利益こそが株主のモノ

 会社の利益で、大切なものに「純利益」があります。本業の利益は営業利益ですが、本業以外にもうけたり、かかったりするお金には、利益を左右するものがあります。

 例えば、たくさん借金している場合、利払い費がかさみますよね。これは営業活動と直接関係のないコストなので、営業利益を計算する際には考慮されません。ほかにも、例えば火災事故が起きて大きな損失が出た場合や、投資先の企業が倒産し、株が紙くずとなってしまった場合は「特別損失」として計上されます。

 2023年6月には日本郵政が、過去に出資した楽天グループの株価が下落したことで850億円の特別損失を計上したことはニュースで聞いたことがあるかもしれません。逆に出資先が予想以上に成長し、「特別利益」が生じることもあります。

 こうした損益をすべて計算し、さらに納税額も差し引いた最後に残る利益が純利益です。純利益は営業利益と比べ、振れが大きくなりやすい点に注意が必要です。上記の例のような特別損失や特別利益はその年限りの出来事の可能性が高そうですよね。

 本業の実力とはあまり関係がないこともあります。何年かの期間で企業の実力がどう変化しているかを見るならば営業利益のほうが使いやすい場合が多いといえます。

 ではなぜ純利益が大事なのでしょうか。それは純利益こそが株主のモノだからです。純利益の一部は配当として株主に支払われます。

 ただ、多くの企業は純利益の半分以上は会社の資本として内部留保し、将来の事業投資やM&Aの原資として蓄えます。株主からすると、「配当」で純利益の全額をもらえなくとも、会社に蓄えられる「資本」も株主のモノです。

 つまり1年間の純利益はその企業が株主に対して生み出せた果実です。この果実は来年も再来年もあるはずですし、どんどん成長するかもしれません。そうした将来の果実も株主のものとなります。

 株式の価値はざっくりいうと、この純利益という果実の積み重ねです。数年後の果実がどれほどなのかは誰にも見通せませんが、それがどうなるか思い巡らし、投資家は株を買ったり、売ったりします。

利益のうち、いくら配当に回すのか

 会社は稼いだ純利益を「配当」として現金を株主に分配することができます。純利益のうち何%を配当に回すかの比率を配当性向といいます。例えば100億円の純利益のうち30億円を配当として株主に分配するなら配当性向は30%です。

 日本の大企業では30〜50%程度にすることが多いのですが、まったく配当しない企業もあれば、純利益のほとんどすべてを配当する企業もあります。例えば、武田薬品工業は88%、花王は81%、任天堂は50%、キーエンスは20%、ソニーグループは8%とさまざまです(2023年3月期決算)。

 配当性向は何%が妥当なのかは業種にもよりますし、会社の成長ステージにもよります。創業して間もない企業の多くは無配です。創業当初で資金繰りが安定していなければ、株主に配当として資金を出している余裕がありません。そんなことをしたら倒産にも陥りかねず、株主にとっても困ります。

 資金繰りが安定してきても、多くの企業は無配を続けるのが一般的です。というのも、事業をこれから大きくしていくというステージでは、人件費や事業投資などおカネがかかります。株主も経営者も企業の成長を期待しているわけですから、この段階では利益を株主に渡すよりも、成長に向けた投資に使うほうが合理的です。

 ものすごく大きい企業になっても無配を続ける代表格がAmazonです。オンライン通販が黒字になっても、Amazonは一向に配当を始めませんでした。配当に回すよりも、稼いだ利益を新たなビジネスの投資に回していくほうが、長い目で見た企業の収益力や規模、ブランドの向上に寄与すると判断したからです。このように、配当がなくても、会社の価値を上げるほうが結果的に株価が上がるという考え方もあります。

 この判断ができたのは創業者であるジェフ・ベゾス氏が大株主だったことも大きいでしょう。目先の利益や配当よりも10年20年のスパンでの成長を考え、クラウドサービスなどさまざまな大型投資や企業買収を進めてきました。

 逆に配当性向が高い企業はどんな企業でしょうか。それは、一般に成熟企業の可能性が高いです。日本の主要企業で配当性向が50%を超える企業をならべてみました。

『転換の時代を生き抜く投資の教科書』101ページより抜粋
『転換の時代を生き抜く投資の教科書』101ページより抜粋
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 企業が成長ステージから成熟ステージになると、新たな投資をしなくても安定的に収益を稼げるようになります。株主からは、無理にリスクをとって規模拡大を追求するよりも、利益を配当に回す要望も強くなります。

 配当性向をどこまで高めるかは、どれだけ成長に向けた投資が必要かという判断の裏返しでもあるわけですね。だからこそ、何%がベストという正解は存在しません。同時に、その企業の経営者自身が考えている成長ステージもにじみでてくるわけです。

 ところで、稼いだ一部を「配当」で株主に渡すというのはイメージしやすいと思いますが、会社に蓄えられる「資本」になるというのは少し想像しづらくないでしょうか。ここを理解するうえで大切なのが、バランスシート(貸借対照表)です。

 とっつきにくい概念ですが、バランスシートを理解することで、企業経営の理解が一気に高まりますし、投資先の銘柄選びの重要なモノサシにもなります。そして、2023年から急に話題になったPBRもバランスシートを知らずして理解できません。『 転換の時代を生き抜く投資の教科書 』では、「レストラン経営」という分かりやすい例でバランスシートの基本も説明していますので、興味のある方はぜひ本書でザックリ理解してもらえればと思います。

投資先を選ぶ時は、どのような視点で見るといいのか(写真:Kiattisak/stock.adobe.com)
投資先を選ぶ時は、どのような視点で見るといいのか(写真:Kiattisak/stock.adobe.com)
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■変更履歴
掲載当初、本文中で「例えば10億円の純利益のうち30億円を配当として」としていましたが、正しくは「例えば100億円の純利益のうち30億円を配当として」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2024/08/20 13:00]
新NISA、株高、円安、インフレ、人生100年時代……今、お金をとりまく環境は、大きな転換点にきています。今まで投資をしていなかった人も、投資をすべき時代になりました。投資を通じて得られるのはお金だけではありません。株価は景気や企業だけでなく、世界情勢や金融政策、テクノロジー、あるいは社会の変化などさまざまな要素を映し出す鏡です。本書では、X(旧Twitter)フォロワー64万人を誇る元日経新聞記者の後藤達也さんが、現代のビジネスパーソンが備えておくべき株式市場や経済の仕組みの最新知識をベースに、「投資の世界」を分かりやすく解説します。

後藤達也著、日経BP、1760円(税込み)