「日本テレビがスタジオジブリを子会社化」というニュースが世間をにぎわせました。ジブリの価値はいくらなのでしょうか? 本記事は、『転換の時代を生き抜く投資の教科書』から抜粋して紹介します。
スタジオジブリの価値を考えてみよう
2023年9月、「日本テレビがスタジオジブリを子会社化」というニュースが世間をにぎわせました。日テレがジブリの株を42.3%取得しました。過半ではありませんが、ジブリ社長には日テレの福田博之氏が就き、実質支配基準で子会社化するというものです。
発表時に株の取得額は公表されず、ジブリの価値はいくらなのか、話題にもなりました。そこで多くの国民になじみのあるジブリを題材に「企業価値」について、やわらかく考えてみましょう。
ジブリは上場しておらず、詳細な財務諸表や株主構成は公開されていません。手掛かりとなるのは決算公告。次の表は2023年3月時点のざっくりとしたバランスシートです。
あなたなら、ジブリをいくらで買いますか?
まずイメージしやすいのは下から2番目の「当期純利益」です。2022年4月~2023年3月の1年間の純利益(税金などを引いた最終の利益)は34.3億円でした。
アニメ業界では、企業価値は1年間の純利益の30倍程度が一般的です。なお、この比率はPERと呼ばれるものです。決算公告の純利益から単純計算すれば、ジブリの企業価値は約1000億円(34.3億円×約30倍)となります。
一方、株主資本は281億円です。株主資本は、過去に株主が出資したおカネや、企業が稼ぎ、社内に資本としてためてきたおカネです。帳簿上の企業の価値といえます。帳簿通りならジブリの価値は281億円となります。
一般的に考えると、ものすごく知名度や人気があれば、今の資本以上の値段でその企業を買いたい人も出てくるはずです。株主資本の2倍でも払うという人が出てくれば、562億円になりますね。この比率がPBR(株価純資産倍率)と呼ばれます。PER30倍で見た時の1000億円と比べ、少し安くなります。
日テレはジブリ株を取得するにあたって、利益や資本を踏まえ、さまざまなモノサシで企業価値を測っているはずです。仮にジブリの価値が1000億円ということで日テレとジブリ株主の折り合いがついたならば、日テレの取得額は423億円(42.3%取得なので)となります。
日テレは2023年3月期~2025年3月期に計1000億円の戦略的投資を実施する方針です。ジブリ買収にはこの枠が充てられるとみられます。さきほどの仮の試算である423億円とも目線はそれほど離れていませんね。
2022年、鈴木敏夫プロデューサーが日テレの杉山美邦会長に、ある温泉宿で株式取得を打診したといいます。1000億円の投資枠の柱に「IP(知的財産)の開発」「コンテンツ制作体制の強化」があります。鈴木プロデューサーの打診を受け、日テレ内で一気に検討が進んだ様子がうかがえますね。
もういちどバランスシートです。今度は資産を見てみましょう。総資産は311億円です。うち流動資産(現金化しやすい資産)は221億円、固定資産(土地、建物、設備など)は90億円ですから、流動資産の比率が高いですね。
アニメ制作会社は自動車メーカーのような重厚な工場や設備はいりません。比較的身軽な業態といえます。言い換えれば、バランスシートにのらない「資産」があります。
例えば、製作スタッフは会社の所有物ではないのでバランスシートの資産に計上されません。しかし「人的資産」「人的資本」といわれるように、重要な価値です。何より、「宮崎駿」という価値はバランスシートにのっていないわけですね。
宮崎駿作品でなくとも「ジブリ作品」というブランドで、集客力も見込めるわけですが、この「ジブリ」という無形資産も基本的にバランスシートにのりません。日本の代表的な上場企業でいえば、任天堂と近いところもありそうですね。
日本を代表するコンテンツ企業ですが、任天堂は工場を持っておらず、「マリオ」をはじめとしたブランド、宮本茂さんを筆頭とした優秀なクリエイターが企業価値の源泉となっています。
ちなみに任天堂の企業価値は帳簿上の株主資本の約3倍と高く評価されています。ジブリもPBRを3倍とすれば時価総額は843億円。PERで見た企業価値に近づきますね。
なお、ジブリに債務はほとんどありません。コンテンツは人的資本によって生み出されている面が多く、大きな設備や原材料費がかかりません。この点も任天堂と重なる点がありますね。財務体質の健全性は非常に高いといえます。
財務諸表に表れるデータに比べて、人的資本やブランドの価値を算出するのは簡単ではありません。例えば宮崎駿さんが引退すれば、今後のコンテンツ力は大きく弱まる可能性があります。
一方で、『風の谷のナウシカ』は映画公開からまもなく40年となりますが、毎年テレビ放送され、累計の放送回数は20回になり、Blu-rayやグッズも息の長い収入があります。世代を超えた支持があり、宮崎駿さんが引退しても、収益の持続性を十分に保てるとの期待もあります。
こうした「ブランド価値」をもとにジブリの企業価値を探るのは本当に難しいですよね。誰もが納得する金額はありませんし、日テレの取得額も究極の正解とは限りません。あなたならジブリの企業価値はいくらだと考えますか? どれくらいのPER、PBRだと、株を買いたくなりますか? 少し考えてみるとおもしろいかもしれません。
後藤達也著、日経BP、1760円(税込み)


