7月25日に沖縄で開業する注目の新テーマパーク「ジャングリア」。プロジェクトをけん引してきたのは、再生の旗手、希代のマーケターとして知られる森岡毅氏だ。30代後半で転じたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、旧態依然だった組織で変革の必要性を説いた。そして沖縄に観光地としての大きな可能性があることを10年以上前に見出し、貫いてきた。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。
嵐が来たようだった――。
2001年の開業時からUSJにいたある社員は、森岡が転職してきたときのことをこう振り返る。森岡はこの頃、37歳。若さも相まって、今以上にエネルギーに満ちあふれていた。
あまりに元気が良すぎた。これでは周りの社員との摩擦が大き過ぎて、森岡の良さを引き出せない。調整役の財務担当者を新たに採用しようと入社してきたのが、現刀CFO(最高財務責任者)の立見信之だ。
「事前に聞いた森岡の評判はネガティブだったから、とんでもない人なんだろうと思っていた。しかし、彼と会ったとき、いきなり『僕はモンハン(モンスターハンター)のイベントがやりたい』と勢いよく話し出して。面白いなと思ったのが最初の出会い」
チャレンジする大切さ
「ユニバーサル」という外資の看板を掲げたユー・エス・ジェイは、外からのイメージとは裏腹に、実態は旧態依然とした伝統的な日本企業のようだった。森岡は結果にこだわらず、チャレンジすることを推奨する表彰制度を設け、変化を望まない社員に、失敗を恐れずバットを振ることの大切さを伝えた。
共にチャレンジをして、それが結果として表れ、社員の自信へと変わっていく。「できる」と分かると社員は次第に自ら動くようになっていった。それまでは成長する術すべを知らなかっただけ。どんな企業も正しいマーケティングを身に付ければ変われる。のちの刀のコンサルティング事業の原型はここにある。

森岡は、これだと思えば一直線に向かって目標にまい進していく。その姿勢は、USJでも際立っていた。
「あなたたちは地元経済の発展を本当に願って事業をやっているんですか」
誘客対策で協力を求めにいった地元の大手インフラ企業で、前向きな態度を示さない相手にこう言い放ったこともある。USJの式典で事前に出席の約束を取り付けていた関係省庁の幹部が態度を翻意すると、庁舎まで乗り込んだ末に出入り禁止を食らったことも。ときに失敗もあったが、それ以上に果実は大きかった。
「ルーモス!」
14年春、450億円の巨額を投資した「ハリー・ポッター」エリアの開業前の記念式典。そこには当時首相の安倍晋三と駐日米大使だったキャロライン・ケネディの姿があった。これ以上ない大物ゲストを呼び、新エリア開業のニュースは全国を駆け巡った。
関西中心だったUSJの客層は全国に広がり、インバウンドも呼び寄せた。USJを映画専門でなく、アニメや漫画も含む多様なコンテンツを用いたテーマパークへと変える過程では、IP(知的財産)を保有する企業や作家に自ら打診。自ら車を運転するなどして、身一つで頼みにいった。「日本のコンテンツは世界でもっと評価されるべきです」。森岡の強い思いに共感した任天堂やカプコンなどが快諾した。
「沖縄は将来、日本の観光の中心になる。ここには大きな可能性がある」
25年に「ジャングリア」の開業を控え、マスコミの前で沖縄の可能性についてよく言及する姿を見る読者も多いだろう。だが、USJ時代から森岡を知る刀の同僚たちは「森岡の言葉はUSJが沖縄パーク構想を持ち始めた11年ごろから変わらない」と口をそろえる。
「沖縄のポテンシャルがなくなったわけではありません」
USJで沖縄パーク計画が中止になった際、その理由を記者らに問われた森岡は、これは会社として正しい判断だと答えた。しかし、内面は悔しさでいっぱいだった。あふれそうになる思いを懸命に隠し、国や沖縄の地元関係者に謝罪に行った先でこう伝えた。
「会社の方針は変わりましたが、決して、沖縄の魅力が薄れたり、ポテンシャルがなくなったりしたわけではありません。沖縄には大きな可能性があります」
17年に仲間ら数人と刀を立ち上げ、森岡らは再び沖縄パークへと動き出した。資金集めは、新型コロナウイルス感染症の拡大やウクライナ危機で困難を極めた。それでも、創業から5年もたたないスタートアップは、22年夏、約700億円の事業資金にメドを付けた。

23年2月上旬、沖縄県名護市のパーク予定地でジャングリアの起工式が開かれた。森岡は、オリオンビールなど地元企業の社長や沖縄県知事など100人以上を前にこうあいさつした。
「この事業はゼロから始まったんです。これまで助けってくださったみなさま、本当にありがとうございます。僕たちの力だけではここまで来られなかった。今日やっと、鍬が入ったんです。本当にここに来るまで長かった」
感極まった森岡は自らを律するように続けた。
「しかし、まだパークは建ってさえいません。僕たちはまだ何も達成していない。ここから先はもっと大変でしょう。パーク完成後もこの物語は続いていくんです」
ようやく開業間近になったジャングリアだが、森岡に達成感を感じる暇は一切ない。水面下では次の複数の事業に向けて動き出している。
(つづく)
[日経ビジネス電子版 2024年12月24日付の記事を転載]
中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)
