かつて米国は、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの「天才」の出現によって激変した。「それと同じことがこれから日本に起こる」と投資家でファンドマネージャーの藤野英人氏は断言する。その根拠とは? チャンスを活かして「おいしいニッポン」を味わうには? 藤野氏の著書『 おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス 』(日本経済新聞出版)から一部抜粋してお届けする。

5年後は読めないが20年後は見通せる

 かつて、ある経営者は「5年後の予測はもっともズレやすい」と語りました。

 私たちが、現在のデータや実際に起きていることに基づいて予測できるのは、半年ほど先までではないかと思います。3年後を予測するとなればほとんど暗中模索といってよく、5年後のことなどまったくわからないと考えたほうがいいでしょう。

 しかし10年後、20年後の予測となると、また話が変わります。

 世界はさまざまな要因によって常に揺れ動いています。紛争が起きることもあれば、疫病が蔓延したり災害が起きたりすることもありますから、3年、5年といった短期的な視点では世の中がどう変化するのかを正確に言い当てることはできません。

 一方で、たとえ天変地異が起きたとしても、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んで私たちの生活が大きく変化していくことは間違いないでしょう。そのようなメガトレンドを追えば、10年後、20年後の世の中がどうなっているのかを描き出すことは可能です。

過去20年、日米の最大の差とは?

 私のファンドマネージャーとしての投資歴は30年以上になります。この間、8000人以上の企業トップと対話し、企業訪問も重ねてきました。

 また、私は個人投資家としてベンチャー企業に投資することもあります。起業家としては、2003年に創業したレオス・キャピタルワークスを経営しており、2020年に時価総額1000億円超えを達成したプレミアムウォーターホールディングス、HOYAから2021年に分社独立したViXion(ヴィクシオン)の創業メンバーでもあります。

 このほか、私には教育者としての顔もあります。2021年まで20年ほど明治大学商学部兼任講師としてベンチャーファイナンス論を担当し、現在は東京理科大学MOT(経営学研究科技術経営専攻)特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授として多くの学生に講義を行っています。

 このような立場から、私は国内外の株式市場や起業家の動向、若者たちの意識の変化などを見つめ続けてきました。

 今から20年ほど前、私は日本に対して絶望的な気持ちを抱いていたものです。

 その頃の私は外資系運用会社で働いていたため、欧州やアメリカを行き来する機会が多く、ベンチャーブームに沸くアメリカの様子を目の当たりにしていました。

 2000年前後は、インターネットの普及と共にグーグルやネットフリックス、フェイスブックといった企業が誕生し、アップルやマイクロソフトなどIT業界の老舗企業が再生していった時代です。

 当時のアメリカでは、ハーバード大学やスタンフォード大学、コロンビア大学などを卒業した優秀な学生のトップ層が自分で起業したりベンチャー企業に入ったりするようになっており、その次の層がコンサルティング会社や投資銀行に行き、次の層が中堅企業に行き、大企業を選ぶのはさらにその次の層でした。

 そして、成功した起業家たちが後に続く起業家を支援することで、多様な新興企業が続々と誕生していくことになりました。

 一方、当時の日本では最優秀層は官庁か大企業に就職するのが当たり前でした。日本が変化のない社会を選択していることは明らかであり、急激に変化していくアメリカの状況と比較すれば、日本の明るい未来を思い描くことは難しかったのです。

 実際、その後の20年間の日米の違いは時価総額上位銘柄の顔ぶれに現れています。

 まず、日本を見てみましょう。

『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』(日本経済新聞出版)8ページより
『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』(日本経済新聞出版)8ページより

 2000年12月末時点と2020年12月末時点のTOPIX時価総額上位ランキングを見ると、いずれも通信会社、自動車メーカー、電機メーカー、メガバンクなど、いわゆる「一流大手企業」がずらりと並んでいることがわかります。

 2000年末の上位5社はNTTドコモ、トヨタ自動車、日本電信電話(NTT)、ソニー、みずほホールディングス。2020年末時点はトヨタ自動車、ソフトバンクグループ、キーエンス、ソニー、日本電信電話(NTT)でした。

 では、アメリカはどうでしょうか? 

『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』(日本経済新聞出版)10ページより
『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』(日本経済新聞出版)10ページより

 2000年の上位5社はゼネラル・エレクトリック(GE)、エクソンモービル、ファイザー、シスコシステムズ、シティグループでした。

 これが2020年には、アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、フェイスブック(現Meta)へと入れ替わっているのです。

さらば悲観論! 明るい見通しを持つ理由

 2000年当時に私が持っていた日本に対する非常に暗い見通しは、残念ながら的中してしまったといえます。

 しかし今、私は日本の未来について明るい見通しを持っています。

 それは、2000年頃にアメリカで起きた変化と似たような動きが日本でも見られ始めているからです。

 近年は日本でもベンチャー企業が上場し、起業家が社会的にも経済的にも成功するケースを目にすることが増えています。また超優秀層の中で、大企業や官庁には目もくれず起業にチャレンジする人も目立ってきました。

 もちろん大企業神話や官庁神話が消え失せたわけではありません。しかし、かつてのように起業家であるというだけで「怪しい得体のしれない人」扱いされることはなくなり、起業は「まともな大人」の選択肢のひとつになったといえます。

 経済産業省がスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup」を推進するなど国を挙げてベンチャー企業を支えようという機運が高まっているほか、ユニークなベンチャーキャピタルの存在感も増してきており、起業家を支える社会的なエコシステムができあがりつつあるのです。

 起業家が世に出るには少し時間がかかるので、まだ広く一般に知られていない人たちがたくさんいます。これからは、この世代の若手経営者がどんどん注目を集めていくことになるでしょう。

ジョブズ、ベゾスに匹敵する天才が誕生

 もちろん、大学で学生たちを教えていると「日本の若者たちは全般に保守化が進んでいる」と感じることが多いのも確かです。

 2000年頃には、隕石が落ちてきてもその場を動きそうにない「何もしないのが一番よいと考えるタイプ」が40%ほどを占める印象でしたが、2020年の今は「何もしないタイプ」が60%ほどにまで増えたように思います。「最近の子は保守的で何事もやる気がない」という声も、今の社会を捉えた表現として間違っているわけではないと思います。

 しかしその一方、「何があっても挑戦し続けるタイプ」の学生は増えています。

 「挑戦するタイプ」は2000年頃には私が接する学生全体の0.5%ほどでしたが、近年はこれが3%くらいになっている印象があります。

 つまり、一騎当千の若者が100人中3人はいるわけです。

 実際の人数でいえば、やる気とチャレンジ精神にあふれる若者はこの20年ほどの間に驚くほど増加しています。そしてその中には、大谷翔平選手のように、世界を舞台に勝負していくであろう起業家がいるのです。

 かつてアメリカは、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの「天才」の出現によって激変しました。

 私は、それと同じことがこれから日本に起こると思っています。

 今からおよそ20年後となる2040年には、日本の時価総額上位銘柄はガラリと入れ替わり、上位には今はまだ名を知られていないベンチャー企業が名を連ねることでしょう。

居場所次第で天国と地獄に分かれる

 これからの10~20年間で、日本社会が激変することは間違いありません。

 そして、「変化を見据えて動く人」と「変化に備えることなく動こうとしない人」、言い換えれば「未来志向で生きる人」と「そうではない人」との間で、大きな格差が生じるでしょう。

 小さなベンチャー企業が20年かけて日本を代表するトップ10企業に成長していくことを想像してみてください。

 その現場に居合わせる人たちにとって、これからの20年は非常に楽しく、面白く、ワクワクする人生になるでしょう。もちろん、資産も大きく増やせるはずです。

 一方、今、時価総額上位の「一流大手企業」で働いている人にとって、未来はあまり楽しいものにはならない可能性があります。

 ランキングから滑り落ちて衰退していく会社にしがみつき続ければ、それは辛く厳しい20年間になるかもしれません。

 これからの20年を楽しく幸せに生きるか、辛く厳しい時間にするのか、決めるのは自分自身です。居場所次第で、20年後は天国と地獄に分かれるでしょう。

おいしいニッポンを味わうために

 今すべきことは、まず自分がいる場所を確認することです。

 もしも「自分の居場所は今後、衰退していく可能性が高い」と思うのであれば、ものの見方や考え方、行動などを変える努力が必要でしょう。

 それはたとえば転職することかもしれませんし、自分で起業することかもしれません。もちろん、成長が期待できる企業に投資することも選択肢になるでしょう。

 いまだに“昭和のオジさん”が経営する旧態依然とした日本企業を見ていると「日本は本当にダメな国だ」と思わざるを得ませんが、きわめてアナログな国で課題が山積しているからこそ、おいしいチャンスがゴロゴロ転がっているのです。

 チャンスを活かして「おいしいニッポン」を味わうのか、それともみすみすチャンスを逃すのか、選ぶのは皆さん自身です。

(写真:PopTika/shutterstock.com)
(写真:PopTika/shutterstock.com)
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日経ビジネス電子版 2022年1月6日付の記事を転載]

問題山積だからこそ、
日本にはチャンスがいっぱい。


さらば悲観論!
20年後に明るい未来を迎えるための必読書。

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藤野英人(著)、日本経済新聞出版、1650円(税込み)