人間はあいまいな状況が苦手です。しかし私たちの日常には、「情報過多」「どっちつかず」「初めての経験」など、あいまいで不確実なシーンが数多く訪れます。では、どうすればあいまいな状況でも冷静に判断し、よりよい未来に近づくことができるのでしょうか? 今回は、「そもそもなぜあいまいな状態が不快なのか」について。『「答えを急がない」ほうがうまくいく』(三浦麻子著/日経BP)から抜粋・再構成してお届けします。

あいまいな状態は「危険」?

 私たちは、答えが見えないあいまいな状態が苦手である。
 この世界はあいまいさで満ちているにもかかわらず、いや、だからこそ、あいまいな状態ではいたくないのである。なぜなら、答えが分からないあいまいな状態の中にいると、自分の身が危険にさらされても対処することができないからだ。

 あいまいな状態が危険だと言われても、ピンと来ないかもしれない。
 そこで、あいまいな世界の危険さを実感するために、知らない無人島に連れていかれて、そこにひとりで取り残されたらどうするかを想像してみてほしい。

無人島での判断基準

(写真:gi0572/stock.adobe.com)
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 あなたはきっと頭をフル回転させて、さまざまな判断を下そうとするだろう。
 安全な場所はどこか、食料になるものはないか、襲ってくる動物はいないか、島から助けを呼ぶにはどうすればいいか。これまで直面したことがない未知の状況の中、判断すべきことは無数にある。
 毎日起床して仕事場に行って帰ってくる慣れた生活とは全然違う。これまでのやり方が通用しない。体力にも限りがあるから、むやみやたらと歩きまわったりはしないだろう。優先順位をつけて行動するはずだ。

 まずは、安全。
 そして食料の確保。
 同様に、何を判断すべきかも優先順位をつけて考える必要がある。ピクニックに来たのなら島の植生をじっくり観察するかもしれないが、生き残るためには、植物の些細(ささい)な違いに構っている場合ではない。危険がありそうかどうか、食べられそうかどうかが問題となる。ほかにも、どうやったら食料を手に入れられるかを考えなくてはならない。不審な音がしたら、深く考える前に早く逃げる必要がある。
 解像度は低くてもいい。素早く判断し行動する。
 そうすることが生存確率を上げるだろう。

不確実な世界にも「法則」はある

 現在の私たちは、スマートフォンを見ながら歩いていても即座に死ぬことはほとんどない安全な世界に生きている。
 だが、私たちの祖先が住んでいた世界は危険に満ちていた。自分を狙う敵がどこからやってくるか分からない。現代人はお金を持っていれば、ほぼ確実にお店で食料を購入することができるが、狩猟採集の暮らしでは、そういうわけにはいかない。
 自然の状況は移ろいやすい。今日うまくいっても明日はうまくいくかどうか分からない。祖先たちが生きていた世界は、今よりもずっと不確実性に満ちた世界だった。

 だからといって、不確実な世界の中にも、それなりに法則はある。
 大きな獣がこちらを見たら飛びかかってくる可能性が高いし、以前、沼で大きな怪我(けが)をしたのなら、今後は沼には近づかないほうが生き延びる可能性が高くなる。雨が降った後は獲物の足跡を見つけやすいし、何度も狩りをしているうちに獲物がどういうパターンで逃げるかも見えてくる。

 積み重ねた経験をもとに法則を見つけ出し、次に何が起こるのかを予測することができれば、未来の行動は成功しやすくなる。

私たちは経験から学習し、「予測」を立てて生き延びている

 ちなみに私は、ハワイ旅行中に夫とふたりで海岸の岩場を散歩していたら、突然頭をはるかに超える大波が来て、それにのまれて危うく死にかけた経験がある。顔面含むいろいろなところに怪我をして、ひどい目に遭った。

(写真:Dudarev Mikhail/stock.adobe.com)
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 それ以来、ハワイでもどこでも、海には決して入らなくなっただけでなく、波打ち際を歩くこともしなくなった。
 「海岸を歩いていたら波にのまれる」という可能性がゼロではないと分かって、たとえその可能性がかなり低くても、起きたときのデメリットを考えると、海で遊ぶ楽しさというメリットを捨てても惜しくないからだ。

 このように、不確実な世界で生き残るために、私たちは過去の経験を学習し、それに基づいて未来の予測を立ててきた。狩猟採集の生活なら、その事前予測に基づいて獲物がいそうな場所に向かうし、敵がいそうな場所には近づかない。
 現代の人間も同じだ。
 ありとあらゆる場面で複雑な事前予測をしながら生きている。事前予測なしに行動するというのは、すなわち無謀ということだ。
 だから、私たちは事前予測を立てるために多くのエネルギーを注いでいる。

「経験が活かせない」という不安

 では、事前予測を立てづらい場面では、人はどう感じるのだろうか。
 まず、不安が湧き起こる。意識しているかいないかにかかわらず、できれば一刻も早くその状態を脱したいという気持ちも起こってくる。個人差はあるだろうが、不確実な状況に放り込まれるといい気持ちになるという人は少数派だろう。

 未知の無人島に連れていかれた人の気持ちを、もう一度想像してみてほしい。
 これまでの経験が活かせない。
 事前予測を立てるのが難しいし、立てたところで、外れてしまう。
 どうしたらいいのか、分からない。
 不安になり、早くその状態から抜け出したいと願う。なぜなら、不確実な状況で事前予測をうまく立てられないままでいると、自分をうまく守れないし、場合によっては死につながるからだ。

 無人島に取り残されなくても、もっと身近な例がある。
 新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行が始まった頃を思い出してほしい。不安な気持ちになったり、落ち着かない状態になったりしなかっただろうか。
 ウイルスの性質もまだ不明だ。どうやったら感染しないのかも不明である。ウイルスは目に見えないので、どこに存在しているのかも分からない。もしかしたら今もう身近に迫っているのかもしれない。感染を防ぎたいが、確実に防ぐ方法はない。みなが口々に違うことを言う。誰に聞いてもはっきりとした答えは返ってこない。

(写真:paru/stock.adobe.com)
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「答えを急ぐ」のは生物として自然な性質だからこそ

 そんなコロナ禍では多くの人が早く不確実な状態から脱出したいと願ったことだろう。人々は、情報を集めたり、強く断言してくれる人の言葉を信じたり、少しでも安全だと思えるものに飛びついたりした。
 その結果、感染対策に有効な行動につながった人もいれば、逆に自身の願いに反して感染のリスクを高める行動につながった人もいた。

 あいまいな状態から一刻も早く抜け出したいと感じることは、生物として自然な性質である。野生の状況下では、あいまいで不確実な状態には危険が潜んでいることが多いから、一刻も早く抜け出そうとするのは生き延びるための合理的な行動だっただろう。

 ただし、あいまいな状態を無理やり単純化し、安直に答えを出すことは、かえってリスクを高めることにもなり得る。一定の安全性が確保された現代においては、あえて「答えを急がない」ほうがうまくいくことも多い。それを意識することもまた、生き残るための方法の一つとなる。

(写真:adomon/stock.adobe.com)
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人間はあいまいな状況に、不安を感じます。しかし私たちの日常には、不確実なシーンが数多く訪れます。すると人間は答えを急いで、あいまいな状況から抜け出して不快を回避しようとしますが、それが「よりよい判断」につながるとは限りません。では、どうすれば冷静に判断し、よりよい未来に近づけるのでしょうか。本書は社会心理学の観点からこの疑問に答えます。知識を深めながら、考え方や行動を見直すきっかけになる1冊です。

三浦麻子著/日経BP/2090円(税込み)