FFS理論を経営チームの編成・運営や企業文化を変えるために使っているレゾナック・ホールディングス(以下レゾナックHD)の最高人事責任者(CHRO)、今井のりさん。今回は『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを伸ばす部下、つぶす部下』の著者、古野俊幸・ヒューマンロジック研究所代表取締役を迎えて、組織変革について語り合っていただきます。(進行:編集Y)

レゾナックHDが昭和電工と日立化成の経営統合の際に、FFS理論を入れた経緯を今井さんから伺いました(前回参照)。
 統合報告書にも経営陣のFFS理論によるポジションマップを掲載しているという活用ぶりですが、そもそも、古野さんが今井さんを口説いて採用してもらった、という話ではなかったんですね。

古野 俊幸・ヒューマンロジック研究所代表取締役(以下、古野):ではないんです。

レゾナックのウェブサイトには、経営チームのFFS理論に基づくポジションマップが、理論の説明も合わせて掲載されている。レゾナックが変革志向のマネジメントを行うのに向いたチーム構成であることが分かる
レゾナックのウェブサイトには、経営チームのFFS理論に基づくポジションマップが、理論の説明も合わせて掲載されている。レゾナックが変革志向のマネジメントを行うのに向いたチーム構成であることが分かる
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『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる』シリーズでは、作者の小山宙哉さんの了解を得て『宇宙兄弟』のキャラクターをFFS理論で分析し、それぞれの考え方のクセ(=どの因子が高いと思われるか)をマッピングして収録している。登場人物たちが多彩な考え方を持っていることが分かり、小山さんのキャラクターのリアルさが伺える。(小山宙哉氏『宇宙兄弟』©Chuya Koyama/Kodansha)※書籍には自己診断シートが付いています
『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる』シリーズでは、作者の小山宙哉さんの了解を得て『宇宙兄弟』のキャラクターをFFS理論で分析し、それぞれの考え方のクセ(=どの因子が高いと思われるか)をマッピングして収録している。登場人物たちが多彩な考え方を持っていることが分かり、小山さんのキャラクターのリアルさが伺える。(小山宙哉氏『宇宙兄弟』©Chuya Koyama/Kodansha)※書籍には自己診断シートが付いています
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ということは、今井さんが古野さんと会ったのもわりと最近ですか。

今井のり・レゾナックHD常務CHRO(以下、今井):そうなんです。前回お話しした通り、人材関係のコンサルティング会社の方に、「オンボードミーティング(※)のセッションでお互いの内面が分かるものはないでしょうか」と聞いたところ、「それなら」と紹介していただいたのがFFS理論で。(※人材を職場に定着させ、戦力化させるためのミーティング)

今井 のり(いまい・のり)レゾナック・ホールディングス常務、最高人事責任者(CHRO)
今井 のり(いまい・のり)レゾナック・ホールディングス常務、最高人事責任者(CHRO)
1995年慶応義塾大学理工学部卒。旧日立化成に入社。経営企画、オープンイノベーション、海外営業(米国駐在)、複数事業の企画・事業統括を経て、2019年執行役(日立化成)に就任。昭和電工との統合では日立化成側の責任者として統合をリードした。(写真=大槻 純一)

 やってみたら、めちゃめちゃ面白かったので、これはもう全員やったほうがいいんじゃないかと。実際に役員全員にやってもらって、人事の人に診断の資格を取ってもらったりしていたら、古野さんから「一度お話をしたい」と連絡があって。たぶん「ちゃんと正しく使っているのかな、大丈夫かな」と、心配されたんだと思うんですけれど。

古野:大丈夫というか(笑)、そうですね。ちゃんと取り組んでいただけているかどうかというのは、正直、確認したいなということでお願いしました。

 FFS理論の目的は、人間一人ひとりの強み弱みはそれぞれ違うので、うまく組み合わせて組織の力を引き出しましょう、ということなんですけれども、単なる適性検査とか、性格診断だと誤解されがちなんです。診断するだけでもけっこう面白いからだと思うんですけどね(笑)。

こう言うと不謹慎ですけれど、FFS理論の診断は面白いです。自分だけでなく、つい、他人を言動から診断したくなってしまいます(『あなたを伸ばす部下、つぶす部下』には、人の言動を観察して診断するチェックシートを収録)。

FFS理論についての詳しい説明は、日経ビジネス電子版の
●「日本人の6割は『最初の一歩』が踏み出せない」(「保全性」と「拡散性」、どちらの傾向が強いかの診断へのリンクがあります)
「Five Factors and Stress (FFS)」とは何か
をご覧ください。

古野:そうなんですが、単に「面白い」だけで取り組んだのでは、やっぱり広がっていかないんですよね。ですから、導入の目的といいますか、「御社はFFS理論で、何を実現したいんですか」ということを確認させていただきたいなということで、一度お会いしたいとお願いしたんです。

古野 俊幸(ふるの・としゆき)ヒューマンロジック研究所代表取締役
古野 俊幸(ふるの・としゆき)ヒューマンロジック研究所代表取締役
新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約900 社以上の組織・人材の活性化支援を行っている。チームの分析と編成に携わった実績は65万人、約6.5万チームを数える、チームビルディング、チーム編成の第一人者。(写真=大槻 純一)

今井:それが去年、あれ? もうおととしですか。

古野:おととしです。

今井:1年半ぐらい前ですかね。

アンコンシャスバイアスは日本の大きな課題

そのときに今井さんは、FFS理論で何を目指したいと話したんですか。

今井:「チームで成果を最大化したいんです」と。そして「それを、データに基づいてやっていくのが夢なんです」と、端的にお話ししました。そのために、一人ひとりの個性をちゃんと見極めて発揮できる環境を整えたいと。前回と重複しますけれど、日本の会社にはアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み、偏見)がすごくある。「女性は」「営業は」とか。それなしに会話できる世界をつくりたい、みたいなお話をさせてもらいましたね。

古野:とても具体的で、まずは「本気だな」というのは感じましたよね。そして、FFS理論がリアルに実現できることが、今井さんが求めていることと重なっているので、ぜひサポートさせてください、という話になりました。

つまり、今井さんはレゾナックの統合以前から、アンコンシャスバイアスの問題を社内で感じていた、ということになるかと思うんですが、具体的にはどんなところに。

今井:いや、自分が所属する組織としての課題という以前に、日本の社会の課題として感じていました。

なるほど(笑)。確かに、発言者本人がどう考えているのかよりも先に「この人はどんなポジションなのかな」ということを、我々はつい考えてしまいます。

今井:でしょう?

はい、そしてたいていの方は自分のポジションを自覚して、その枠から出たお話をしようとしません。そうなるとインタビューしていてもあまり面白くないです。しかし、これって「社会の課題」なんですか。

今井:そうです(断言)。もうこれは日本全体の問題です。一人ひとりはすごく優秀なのに、役割意識だとか、周りと合わせなきゃいけないという同調圧力とかのために、自分の本来の姿を発揮できていない人がたくさんいる。ずっとそう思っていました。それを変えるのが私の役割。レゾナックは、その社会変革のための手段の一つでしかないので。

古野:素晴らしい。

(広報担当者に)念のために聞きますがこのお話、続けていいですか。

広報担当Aさん:大丈夫です。

今井:これは日本の社会のためにやりたいんです。

「僕がやることはお茶を入れるくらいなんです」

古野:すごくうれしいお話ですね、実は、ヒューマンロジック研究所という会社をつくったときの、最初の代表は女性なんですよ。同級生なんですね。

今井:そうなんですか。

古野:そうなんです。彼女はバランス型(受容性、弁別性、拡散性、保全性の拮抗)で、社外取締役になってくれた人もそう(凝縮性、保全性の拮抗)。僕は「凝縮性」と「拡散性」が高いんですが、FFS理論を開発した小林惠智博士から「このチームには拡散性が高いメンバーが必要だから、お前、入れ」と。

なるほど。

古野:当時は彼女も僕も30代で、もう1人、副社長としてすごく受容性が高い、当時60歳の、もう一度も働いたことがないという超富裕層の方に入ってもらったんです。それで3人で営業に行くじゃないですか。ほぼすべての会社の人が、最初に名刺交換しようとやって来るのはその副社長。次に僕のところに来て「いやいや、社長は彼女なので」「あ、すみません」となるわけです。

今井:そうですね、見た目でその方のところに行きますよね。

古野:副社長がほほ笑みつつ「僕はお茶を入れることくらいしかやらないんです」と。それで向こうは驚く。

一番この仕事をやりたい人は彼女なのに。

古野:当時の日本の組織が抱えていたアンコンシャスバイアスは、今も健在です。「女性の管理職を増やしましょう」という話がよく出ますが、僕から見たらナンセンスで、これまたアンコンシャスバイアスですよ。「こういう個性の人をもっと引っ張り上げましょう」というほうが適切だと思います。

今井:そうなんですよね。

しかし、なぜそれで日本はバブル崩壊までは成長を続けることができたのでしょうか。

今井:人口が増えていく高度成長期は、日本人に多い「受容性」「保全性」が高いタイプが得意な、しっかりとみんなで協力して回していくやり方がぴったりだったと思います。でも今はVUCA(ブーカ ※)な時代になっちゃって、次に何が起こるか分からないときには、多様性が必要です。

(※Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=多義性の頭文字)

 多様性、というのもすごく便利に使われる言葉ですけれど、今、必要な多様性を「ジェンダー」「国籍」「年齢」みたいに考えるのは、古野さんが言った通り、まさにバイアスです。必要なのは、考え方、思考パターンのダイバーシティー。

FFS理論の精度はどのくらい?

それが見えないから、ポジションで代替しているわけですよね?

今井:そう。だけど、FFS理論を使うことで個人の思考パターンを知ることができて、そして、個人が組み合わさった「チーム」の思考パターンまでちゃんと分析できるという。

古野さんの前で聞きづらいんですけど、実際に業務にFFS理論を使われている方に忖度(そんたく)なしにお答え頂きたいと思います。その精度はどれぐらいのものだと感じていますか?

今井:理論の検証ではなくて、そもそも使った実感値として、自分を含めてやってみた人はみんな、「めちゃめちゃ当たっているよね」って言いますね。今回、対談させていただくので、『あなたを伸ばす部下、つぶす部下』や、前々作の『あなたの知らないあなたの強み』を読ませていただいたのですが、読めば読むほど深いです。最初に使うときに簡単に考え方を聞いてはいたのですが、深く内容を知れば知るほど当たっているという、怖いぐらいです。

古野:恐縮です。

今回の本では社会的課題というより、「部下を扱いかねている上司」や「上司にへきえきしている部下」という“あるある”の悩みの原因が、実はアンコンシャスバイアスにあるんじゃないか、それを解決するためにこんな理論があるよ、ということで、FFS理論を紹介しているんですが。

今井:いや、アンコンシャスバイアスの問題は、個人の小さな悩みのようでいて、企業文化、ひいては社会の改革につながると思います。企業文化を変える最初の一歩は、目の前の相手と自分の考え方の違いを認識して乗り越えることだ、と理解しています。

(次回に続きます)

日経ビジネス電子版 2025年2月6日付の記事を転載]

この本が紹介している「FFS理論」は、すでにレゾナック、マネーフォワード、ポーラ・オルビスホールディングスなど日本の多くの企業に採用され現場で活用されています(チーム分析・編成の活用事例約900社、65万人)。部下の指導に悩む上司の方、そして理解のない上司に悩む部下の方どちらにとっても活用できる「楽しく働き結果を出す」ための本です。

古野 俊幸(著)/日経BP/1980円(税込み)