前回、今井さん(レゾナック・ホールディングス最高人事責任者=レゾナックHD CHRO)から、「企業文化、ひいては社会の改革は、お互いの考え方の違いを認識して乗り越えることから始まる」という発言がありました。

今井のり・レゾナックHD常務CHRO(以下、今井):アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の問題を解消しないと、企業にも社会にも本当の多様性は生まれないと思います。

今井 のり(いまい・のり)レゾナック・ホールディングス常務、最高人事責任者(CHRO)
今井 のり(いまい・のり)レゾナック・ホールディングス常務、最高人事責任者(CHRO)
1995年慶応義塾大学理工学部卒。旧日立化成に入社。経営企画、オープンイノベーション、海外営業(米国駐在)、複数事業の企画・事業統括を経て、2019年執行役(日立化成)に就任。昭和電工との統合では日立化成側の責任者として統合をリードした。(写真=大槻 純一、以下同)

この場合のアンコンシャスバイアスは、その人の性差や役職、部署などの先入観にとらわれて発言を解釈すること、でしたね。「あの人は営業だからこう言うんだ」「女性だからこんな意見を出すんだ」とか。

20巻#196「頼むぜお月さん」
20巻#196「頼むぜお月さん」
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「宇宙飛行士は経験が豊かなほど信頼できる」という、もっともらしいが穴もあるアンコンシャスバイアスで、南波六太(ムッタ)たちの「ジョーカーズ」チームはミッションから外されかける。 21巻#205「失敗覚悟で」
「宇宙飛行士は経験が豊かなほど信頼できる」という、もっともらしいが穴もあるアンコンシャスバイアスで、南波六太(ムッタ)たちの「ジョーカーズ」チームはミッションから外されかける。 21巻#205「失敗覚悟で」
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今井:そう、VUCA(※)の時代になって、「多様性が大事」といわれるようになりましたが、ポジションに縛られた発言しかできない、あるいは発言をポジションに基づいた先入観でしか受けとめられない組織では、どんなにメンバーの性別や国籍、経験が多様でも意味がないと思います。
(※Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=多義性の頭文字)

古野 俊幸・ヒューマンロジック研究所代表取締役(以下、古野):右肩上がりの時って、ある程度みんな同じ方向を向いていたほうがいいんですよね。「作れば売れる」時代ならば、ある程度型にはまっても問題ないし、その精度を上げていくことで数字も伸びた。でも今は誰でも分かるような「正解」がない。そうなったら、議論しないとだめだ、ということになるんです。だから「多様性」が言われるわけですが、議論が実のあるものになるには、参加者のポジションよりも、考え方が違う人がたくさんいることが大事になります。

古野 俊幸(ふるの・としゆき)ヒューマンロジック研究所代表取締役
古野 俊幸(ふるの・としゆき)ヒューマンロジック研究所代表取締役
新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994 年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約900 社以上の組織・人材の活性化支援を行っている。チームの分析と編成に携わった実績は65万人、約6.5万チームを数える、チームビルディング、チーム編成の第一人者。

今井:そうですね。「考え方」の多様性。

なるほど。

FFS理論についての詳しい説明は、日経ビジネス電子版の
●「日本人の6割は『最初の一歩』が踏み出せない」(「保全性」と「拡散性」、どちらの傾向が強いかの診断へのリンクがあります)
「Five Factors and Stress (FFS)」とは何か
をご覧ください。

「変な人」が苦手で「同質」のわなにはまる

古野:というのは、議論する時に、同質の人だけでやっていると話がどんどん丸まっていくんです。「それ、いいね、やっぱりそうだよね」と、みんなが「わかる、わかる」で合わせにいくので、とんがったところがなくなる。

今井:あるあるです。

兄、ムッタより一足先に月に到着した南波日々人(ヒビト)らのクルー。着陸地点から月基地へ移動するため「ビートル1号」に乗り込むが、そこで「本当にこの中に遠隔操作で空気が送り込まれているのか?」と、小規模なパニックが発生する。 7巻#66「月夜の晩にパグとハグ」
兄、ムッタより一足先に月に到着した南波日々人(ヒビト)らのクルー。着陸地点から月基地へ移動するため「ビートル1号」に乗り込むが、そこで「本当にこの中に遠隔操作で空気が送り込まれているのか?」と、小規模なパニックが発生する。 7巻#66「月夜の晩にパグとハグ」
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古野:そこに必要なのは「ちょっと変じゃないの?」と周りから思われているような、空気が読めない人です。別の言い方をすれば、混沌をもたらす人。新しい価値は混沌の中から生まれるし、それには、違う考え方の人がいるということが絶対条件で。

今井:その混沌をもたらすのは、どうかすると普段は存在価値を認められていないというか、むしろ迷惑がられているような、FFS理論で言うと「拡散性」が高い人ですよね。

状況を疑い出せばキリがない中、慎重に、慎重にとやや暴走気味のクルーの中で、すぱっと踏み込むのが「拡散性」の高いヒビトらしさ。 7巻#66「月夜の晩にパグとハグ」
状況を疑い出せばキリがない中、慎重に、慎重にとやや暴走気味のクルーの中で、すぱっと踏み込むのが「拡散性」の高いヒビトらしさ。 7巻#66「月夜の晩にパグとハグ」
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いわば組織の真ん中からはみ出しかけている人。

今井:そうなんです。

古野:今もある会社で、組織を変えていくためのヒアリングをさせていただいているんですけれども、やっぱり「拡散性」が高いと、この人は扱いづらい、と思われがちなんです。でも、難しい相手だからと放置するんじゃなくて、ちょっと引っ張り出そうとすることで、本人も組織も可能性が広がりますね。そこは慣れてほしいとお伝えしています。

今井:うちも今、あえて混沌、カオスを受け入れながら成長していこう、と言っています。

古野:扱いづらいと思われがちな「拡散性」の人が、組織の中でどうすれば自分の力を生かせるか、あるいは、組織の人が「へんな人」――たいてい本当に変人なんですが、そのへんな人をどう扱えば力が引き出せるかについては、『あなたを伸ばす部下、つぶす部下』は、きっと参考になると思います。

「拡散性上司」×「保全性部下」など、5つの因子についてそれぞれ上司、部下の組み合わせで、お互いに陥りがちな「アンコンシャスバイアス」と、その回避方法に触れていただきました。

今井:読ませていただきましたが、すごく分かりやすかったですね。「あ、こう言えば伝わるんだな」と思うところが多々あって、即効性があると思います。ここはというところはもう付箋を貼って人に渡そうと思っているんです。マンガもたくさん載っているのでイメージとしてつかみやすい。

今井さんは、『宇宙兄弟』は?

今井:読んだことがなかったんですが、人間の描写が精細ですごく面白いんですね。知らない私でも楽しめましたが、改めて本編も読みたくなります。

『宇宙兄弟』の第1話。弟ヒビトがNASAの宇宙飛行士として月に向かうニュースが報じられる中、自分は会社をクビになり、再就職もままならず凹みまくっている兄ムッタ。だが、持ち前の細心かつ小心さで、そんな中でもこぼれたフライドポテトが気になるのだった。1巻#1「弟ヒビトと兄ムッタ」
『宇宙兄弟』の第1話。弟ヒビトがNASAの宇宙飛行士として月に向かうニュースが報じられる中、自分は会社をクビになり、再就職もままならず凹みまくっている兄ムッタ。だが、持ち前の細心かつ小心さで、そんな中でもこぼれたフライドポテトが気になるのだった。1巻#1「弟ヒビトと兄ムッタ」
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今井:このシリーズ(『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる……』)で特にいいなと思ったのは、読むとみんなが「私は私でいいんだ」と思えるところですね。違うタイプを見て憧れる必要はないんだよ、という。

古野:例えば、「拡散性」の高い人が好む混沌状態は、日本人に多い「受容性」「保全性」が高い人たちは不安に感じるんですが、実は恐れる必要はないんです。

今井:受容、保全だけのチームだと、普段は穏やかに着実に物事が進められてすごくいいんです。けれども、問題が起こった時、まさに混沌が発生した際には新しいアイデアが生まれにくくて対応が難しい。

 でも、そこにリーダーの右腕として、「弁別性」とか「拡散性」の高い人がいれば組織としては危機突破の行動ができる。そして、受容、保全の方のリーダーシップは、違った因子を持っている人をうまく使うことに向いている。

古野:今回の本に詳しく書きましたけれど、問題解決の新しいアイデアを持つ人を受け入れたり、そのアイデアを体系化したりすることで、企業の中に手法として標準化する、企画を利益として刈り取る、といった仕事は、受容性上司や保全性上司の得意なところです。

今井:ですので、日本人の大半の方が受容や保全の因子が高いというのは、実はとてもポテンシャルがある。そう思っています。

「新しいことができる人」を、うまく使えるじゃないか、と。

今井:だからこれからの時代に、リーダーになれる可能のある方々が日本にはたくさんいるんですよ、実は。

異質と出会って成長、同質の居心地に逃げない

古野:一つ付け加えますと、受容・保全(性が高い)の人がリーダーになって、自分と異質の人間と働いていくには、自分が部下のうちから、異質な上司、例えば「拡散性」、あるいは数はいませんが「凝縮性」「弁別性」などが高い、非常にとがった人の下で、「えっ、こんなことをやっていいのか」と思うような経験をしておくことが大事です。

「受容性」「保全性」が高いムッタは、リズムも価値観も自分とまったく合わない教官(「弁別性」が高いビンセント・ボールド)にNASAの訓練でしごきまくられる。 10巻#94「心にいつも万歩計を」
「受容性」「保全性」が高いムッタは、リズムも価値観も自分とまったく合わない教官(「弁別性」が高いビンセント・ボールド)にNASAの訓練でしごきまくられる。 10巻#94「心にいつも万歩計を」
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 そういう経験をした受容・保全の人は、やっぱり鍛えられるんですね。視野も広がるし、発想の幅も「ああ、そう考えてもいいんだ」と自然に広がっていくので。

今井:その学びがある人は、上司になった際に、部下に異質な人がいても、アンコンシャスバイアスの問題から逃れて、その人が言いたいことが分かるわけですね。

古野:「彼の良さはこういうところで、自分の言う通りには動いてくれないんだけど、何かあった時に新しいものを生み出してくれる」と信じることができる。いい関係性ができて、上司も部下もお互いに伸びることになる。自分は混沌が不安だけれども、その中で喜々として方向性を出してくれる部下を信じて支援し、成果を出していこう、となるわけです。

今井:部下は上司で伸びるし、「上司を伸ばす部下」にもなると。

古野:逆もあります。本ではあえて「つぶす」というきつい言葉を使いましたが、お互いの不信が増幅し合うような組み合わせになると、悪意はないのに思考のクセが、欠点を見つけさせてしまうんですね。

今井:例えば?

ひよっこ「保全性」上司には至難の部下

古野:例えば「凝縮性」が高い部下には、キャリアの浅い「保全性」が高い上司は向きません。経験豊かな保全性上司ならば、凝縮性部下が大事にする「人としての筋」と、自分が重視する「組織の安寧」は対立するものじゃない、と説いて聞かせることもできるでしょうけれど、経験で鍛えられていないと部下の正論にたじろぐ一方になります。それが部下の不信感を増幅するし、上司はますます自信をなくします。

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いろいろ勘違いしてリーダー風に振る舞おうとしたムッタだが、クセの強い同僚に一蹴されてしまう。だがこの後、成長したムッタは自分らしいやり方でリーダーシップを発揮するようになっていく。 18巻#176「安心と興奮」
いろいろ勘違いしてリーダー風に振る舞おうとしたムッタだが、クセの強い同僚に一蹴されてしまう。だがこの後、成長したムッタは自分らしいやり方でリーダーシップを発揮するようになっていく。 18巻#176「安心と興奮」
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ただ、先ほど古野さんも言われましたけれど、どの因子が高い人も、同じ思考パターンの人の中にいるほうが居心地がいいし、楽ですよね。やっぱり保全性上司は、保全性部下を好むのが自然で。

古野:それはその通りなんです。今回の本は、どちらかというとマネジャー、上司向けに書いたんですけれども、それは評価する側の人がこの、同質のわなに陥ってほしくないから。そうなると組織の力は間違いなく損なわれてしまう。

 もちろん上司は自分がやりやすい人、マネジメントしやすい人をそばに置きたいわけですよ。そうするとどうしても自分と似ている人になる。そうすれば上司も、そして部下も楽だけれど、自分と異質な発想や刺激がないので、上司も部下も成長できない。となると、その部署から新しいものは生まれてこない。

今井:それが長く続くと組織全体が倦怠(けんたい)期に入るわけですよね。我々の会社の言葉で言えば、「日々の小さなイノベーション」が起こりにくくなってしまう。前にお話しした通り(「トップダウンの戦略を真面目に聞く人じゃダメ」)、これは競争力に直結するんです。「共創型人材」も生まれにくくなるでしょう。異質な人と、わざと出会って混沌を期待する、くらいの心構えが本当はいいのかもしれません。

古野:いや、本当にそういうことですよ。「扱いづらいやつがうちの部下に来たな、まずいな、できるだけ遠ざけよう」というのが普通の人間の感覚ですから、放っておけばどんどん同質化します。

異質な相手とチームを組んでいくためのツール

古野:これは人事評価にも影響を与える。実はいろいろな会社でデータを取っているんですけれども、自分に似た人に対する評価と、異質な人に対する評価は、最大で50%ぐらい差が出てきます。

自分と似た人にはゲタを履かせちゃうわけですね。

古野:そうすると会社全体の評価も同質化しますから、似た人ばかりがどんどん上に上がっていき、異質な人は評価されずにマネジメント・経営層に行くチャンスを閉ざされてしまう。つまり上層部の同質化が加速していく。人間の組織はこういうメカニズムを潜在的に持っていますから、かなり意識していないと、あっという間に同じ考え方の人ばかりになります。

個人の成長や、組織のVUCA対応にはマイナスに。

今井:やっぱり皆さん経験されている通り、本当の意味での多様性、つまり、考え方の違う人が一緒にいる状態って、最初は居心地が悪いんですよね。

古野:悪いんですよ。

今井:たいてい意見が一致しないので、「こうだよね」と言うと「え?」って返ってくる(笑)。私たちはそれに慣れてないから「何を言っても反論される。自分は嫌われている」と、好き嫌いに置き換えてしまう。

古野:そう、それが最悪なんです。考え方の違いが好悪と結びついて捉えられてしまうのが。

今井:本当は、その「え?」を繰り返していくうちにだんだん議論の面白さが出てくるし、そこに気付けば、みんなが遠慮なく意見を言って誰も傷つかなくなるのに、という。

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JAXAの閉鎖環境試験で「宇宙開発に反対の立場をとる塩川キャスターへの抗議文を書く」という課題が出た。ムッタは「2次元に生きている人に3次元の話をしても伝わらない」と考え、抗議文は送らずまったく違う解決策を提案。その大胆さに、議論は紛糾しつつも盛り上がる。 3巻#26「3次元アリ」
JAXAの閉鎖環境試験で「宇宙開発に反対の立場をとる塩川キャスターへの抗議文を書く」という課題が出た。ムッタは「2次元に生きている人に3次元の話をしても伝わらない」と考え、抗議文は送らずまったく違う解決策を提案。その大胆さに、議論は紛糾しつつも盛り上がる。 3巻#26「3次元アリ」
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古野:早めにいい意味で人のシャッフルをして、異質との触れ合いを経験してもらうのが、すごく重要です。

今井:だけど今まではそういった人事が難しかった。人の考え方が見える化できないからですね。FFS理論で見える化することで、「じゃあ、この人とこの人がチームを組むといいのでは?」という仮説を立てて「検証してみようよ」ということができるようになる。FFS理論というロジックがあるということが、人事政策にとってすごく大事だと思います。

古野:いやいや、うれしいです。

(次回に続きます)

日経ビジネス電子版 2025年2月13日付の記事を転載]

この本が紹介している「FFS理論」は、すでにレゾナック、マネーフォワード、ポーラ・オルビスホールディングスなど日本の多くの企業に採用され現場で活用されています(チーム分析・編成の活用事例約900社、65万人)。部下の指導に悩む上司の方、そして理解のない上司に悩む部下の方どちらにとっても活用できる「楽しく働き結果を出す」ための本です。

古野 俊幸(著)/日経BP/1980円(税込み)