新しくマネジャーになった方も多い季節ですし、今回はチーム会議のやり方をテーマにしましょう。
古野俊幸・ヒューマンロジック研究所代表取締役(以下、古野):いいですね。
今井のり・レゾナック・ホールディングス常務CHRO(最高人事責任者・以下、今井):どうせやるなら、楽しくやりたいですよね。

今井さんはFFS理論で言うと「拡散性」「受容性」が、古野さんは「拡散性」「凝縮性」が高いと伺っています。日本人に多いのは「受容性」と、「拡散性」と対照的で補完関係にある「保全性」が高い人。ということで、最終回の今回はお二人に「会議の空気を読まないで発言しまくる『拡散性』の高い人の扱い方」をぶっちゃけて教えていただく、ということでいかがでしょう。
古野:いや、「拡散性」の高い人は場の空気は読まないですが、しょっちゅうしゃべっているわけじゃないですよ。刺激を待っているので、案外、黙っていたりするんです。
今井:そうですね。興味がないとぼーっとしているんですよ。
古野:黙っていても、聞いてないんですよね。
会議で、聞いてないって(笑)。
今井:アンテナは立っているんですよ。
古野:そう、聞いていないけれどアンテナは立っている。
「拡散性」が高い人については日経ビジネス電子版「『興味ないんで』と言い放つ部下をどうしよう」を
ぼーっとしている「拡散性」は放っておこう
何となく「何か面白い要素はないかな」というぐらいには眺めていると。
古野:例えば、会議中に「拡散性」の高い部下が「こいつ、聞いてないな」と思ったら、「それでも、何か探しているんだろうな」くらいに考えて放っておいてあげたほうがいい。そこに「君、大丈夫かね」と言うと、アンテナが折れてしまうので。
今井:そうそう。発想が遮断される。
でも、普通は「お前もちゃんと参加しろ」と言われるでしょうね。
今井:本当はそのほうがいいでしょうね。だけど、みんなそれぞれの持ち味で、気になるところが違うから、ある程度ほったらかしてちょうどいい、みたいな考え方もあると思うんです。これは新人マネジャーさんにぜひ知っておいてほしい。
でもそんな雰囲気のいい会議、出たことないです(笑)。
異質か同質か、知っているだけで大きく変わる
古野:自分と同質か、異質かがFFS理論であらかじめ分かっていると、出席者の態度を別の角度から見ることができるので、本当に会議が変わりますよ。多少のプラセボ効果もありますからね。「こういう多様な人がチームにいますから」と説明されていると、お互いにリスペクトが生まれます。

そして何より、この対談でずっと話していることですが、誰かの予想外の発言、みんなが見えてないところからぽーんと飛んできた意見に対して、「これは、何か自分が気付いていない意味があるな」「あえてとんでもないところから投げ込んできてくれたぞ」と、「聞く耳」を持つことができるんですよね。
「何言っているんだ、お前」とはならないと。
古野:ならないです。
今井:そうなんですよね。
そんなところにパスを出してどうするの? みたいな発想というのは、今井さんがおっしゃってた「日々の小さなイノベーション」にもつながるのでしょうか(連載第2回「FFS理論×レゾナック=『トップダウンの戦略を真面目に聞く人じゃダメ』」)。
今井:そうですね。やっぱり予想外の、意外なところからの視点というのはとても大事です。それがないと議論が広がっていかないので。
「箱」から出るための技術
古野:よく言うんですけど、技術は可能性でもあるけれど「これは技術的にできません」と言えてしまう、制約条件でもあるんです。「いや、それでもこれをやりたいんだ」というときに、「じゃあ、この技術ではできないんだったら、できそうな技術を考えよう」という発想の転換が必要になります。
でも、「できない技術」を持っている人から見たら、「いや、そんなの無理です」となるんですね。技術者の人たちって、どうしても自分の今の技術をよりどころとしようとするので。そこで「でも、それをさらに超えるための技術って何なんだろうね」という問い掛けに答える気にさせるためには、やっぱりぶっ飛んだアイデアを1回出しておかないといけないです。
「どう見ても手持ちのカードじゃだめだ」と思わせないといかんと。
古野:そうそう。
今井:そうですね。私はもう自分では研究開発をしていないですけど、そういうことだと思います。だからアウトサイドボックス、“箱から出て”考えられる人が必要。そして、そこへの道筋を手持ちの技術の積み上げでどう作るかを考える人、この両方がいることで、初めて「えーっ?!」というイノベーションになるという。
おっしゃっていた「共創」ですね。
今井:そうです。共に創る。私たちみたいな機能性材料メーカーは、お客様のニーズを聞きながら新しい機能を出していくので、現場の一人一人が発想していく必要があるんです。トップダウンで戦略を考えるわけじゃないんですね。
さらに言うと、イノベーションって違うものの混ぜ合わせから生まれるので、そうすると違う思考の人たちがいろいろな技術を持ち寄って、「あれできるんじゃない? これできるんじゃない?」という試行錯誤の中から出てくる。そして生まれたものを、ビジネスとして成り立つように仕立てていく。これがまさに私たちの「共に創る」共創ということだと思います。
発想する人も大事だし、収益として刈り取っていく人も大事だし。
今井:そう、拡散も保全もどちらもすごく大事。そして、テーマによってそのベストな組み合わせが違ってくると思うんですよね。
古野:例えば同じ新規開発でも、ある程度の既存の材料が使えそう、あるいは漸進的な改良が望ましい場合は、チームに積み上げ型の「保全性」の高いメンバーが多いほうがむしろ望ましい。一気にジャンプを目指すなら、「拡散性」。単純な例ですが、個性を把握していると、そういうこともできるわけです。
夢みたいですね、そんなことができたら。
今井:そうなんですよ。絶対、生産性が上がりますよ。
FFS理論で組織の生産性を上げよう
参加した人の満足度も高いでしょうね。自分自身の良さが出せることが、業績につながり、自分と組織がきちんとかみ合っている、という実感が得られる。
今井:そこが大事です。自分が自分の得意なことで、チームにちゃんと貢献していると感じられると思うんですよね。それぞれの役割として。
逆に言うと、苦手なこと、できないことを仕事として求められるほど苦しいことってないですよね。
今井:そうなんですよ。嫌いなことはできない(笑)。
古野:そこそこできても、嫌いだなと思っていれば当然、ミスも多いでしょう。それよりも、それを得意と思っている人に任せよう、そのほうが絶対いいよと。

今井:本当にそうなんですよ。髙橋(秀仁・レゾナック・ホールディングスCEO[最高経営責任者])と私はよく人事評価関連の事務的な仕事をするんですが、2人とも、これがもう苦手で苦手で、作業していると部屋にすごくぐったりした雰囲気が漂いますね。「ああ……もうやだ」みたいな。書類を整えるとか、事務作業を手堅くしっかりやるとかの業務は本当に向いてないですね。
でも、そういうことをしっかりやってくださる方がチームにいる。
今井:そうです。頼もしい人がいてくれる。
苦手な業務を任されたら、上司も嫌いになっちゃうかもしれませんよね。
古野:ありますよ、そういうことは。でも、事務作業が得意な人は今井さんの気持ちが分からない。逆もそうですね。発想が得意な人は、苦手な人の気持ちが分からない。部下の気持ちが分からない、という人は、自分をFFS理論で診断して、「自分が得意なことを、部下に当たり前と思って要求していないか」と、振り返ってみるといいと思います。
今井:それいいですね、ちょうど新年度で異動の季節ですから、気心が知れない部下との関係に悩む上司の人は多そうだし。
古野:特に、新しく管理職になった人にとっては悩みが多いと思います。悩める新人マネジャーの方には、FFS理論はいいツールになりますよ。
そんなテーマでまたお話ししていただいたら面白そうです。
古野:この連載で伺ってきた今井さんの目標、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の排除」と、正しい意味での「心理的安全性の獲得」で、伝統的日本企業のモードチェンジをぜひ達成してください。楽しみにしております。
今井:ありがとうございます(笑)。またぜひお話ししましょう。
【おわり】
[日経ビジネス電子版 2025年4月24日付の記事を転載]
古野 俊幸(著)/日経BP/1980円(税込み)
