広報活動を「メディアに出て会社や商品の認知度を高める活動」と誤解するケースが後を絶ちません。自社がメディアに取り上げてもらいたいのは、事業や商品、サービス、企業の持つ価値観などの本質的な情報です。広報の本来の意義や目的について、『小さな会社の広報大戦略』(松田純子、高橋ちさ著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。

ダメ広報の日常

S社長 「うちの会社も広報部を作って2年目だから、そろそろ全国紙に取材されたいな。競合会社のXX社はこの前入社式の様子がテレビのニュース番組で流れていたぞ。ウチの広報部は全然企画力がないからメディアに取材されないんだ。どうやったら新聞やテレビに出られるか企画の1000本ノックをしよう!」

広報担当Oさん 「はい、頑張ります」(ウチの社長は、とにかく有名メディアにたくさん出ろとうるさい。うちのような出来たてのスタートアップが、新聞や有名テレビ番組に取り上げてもらうのは至難の業なのに……。これだと、どうしても「メディアに出やすいネタ」を追求する活動になってしまう……)

~数カ月後~

Oさんの上司 「今期の評価なんだけど、今期は、朝のワイドショーでうちの『テレワーク運動会』の様子が大々的に取り上げられたから高くなっているよ」

広報担当Oさん 「ありがとうございます! あの、新サービスの方は……」

Oさんの上司 「業界紙に載ったやつ? あれは目立たなかったね」

広報担当Oさん (朝のワイドショーは、メディア的に引きのある話題をうまく企画できて良かった。先月、小さくだけど専門媒体で新サービスを取り上げてもらった件は、顧客への認知向上や売り上げにつながった部分もあったんじゃないのかな……? 記事が小さいからといってそこが評価されないのはおかしい……。うちの会社の広報って一体どこに向かっているんだろう?)

メディア露出至上主義の問題点

 会社が何の事前知識もなく急に広報活動を始めた場合、ステークホルダーと良好な関係を構築して企業成長につなげるという広報の意義をすっ飛ばして、無料の広告のような感覚で自社商品の宣伝目的で広報活動を進めてしまうケースがよくあります。

 「広報活動とは、メディアに出て会社や商品の認知度を高める活動」という認識はその典型です。もちろん、企業や特にBtoC商品が大手メディアに取り上げられることで、売り上げや採用活動などに大きな効果が出ることはあります。メディア露出を目指した広報活動をすること自体が問題なのではありません。自社にとって適切な広報活動の目的を踏まえずに、単純に広報活動の目的=メディア露出獲得で突き進むことが危険なのです。

 もしこの認識で広報活動を進めたら、そもそも広報活動で対象となるステークホルダーが「メディア」だけになってしまいます。また、小さな無名の会社がメディアに取材してもらうことはあまりにも難しく、広報活動が意図しない方向にゆがんでしまいます。

 本来、自社がメディアに取り上げてもらいたいのは、事業や商品、サービス、企業の持つ価値観などの本質的な情報です。しかし、有名企業でもない限り、こうした情報を大手メディアなどに取り上げてもらうことは非常にハードルが高いでしょう。そうしたなかで、メディア露出至上主義で突き進んでしまうと、どうしても「メディアが取り上げてくれそうな情報」を探して発信する活動に陥ってしまうのです。こうなると、広報活動が、ステークホルダーと良好な関係を構築してそれを企業成長につなげる活動からどんどん離れていってしまいます。

適切な広報活動の目的を踏まえずに、単純に広報活動の目的=メディア露出獲得で突き進むことは危険(写真:STOATPHOTO/stock.adobe.com)
適切な広報活動の目的を踏まえずに、単純に広報活動の目的=メディア露出獲得で突き進むことは危険(写真:STOATPHOTO/stock.adobe.com)
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メディア露出が難しい会社はどうするか

 特にBtoBの小さな無名の会社の広報活動のハードルの高さは想像以上です。広報活動を行う会社はどんなところでも、ステークホルダーと良好な関係を構築してそれを企業成長につなげるために、自社の経営戦略から逆算したそれぞれの会社の「広報活動の目的」を設定する必要があります。

 この目的を達成するために、「大手メディアで露出を獲得する」ことを手段の一つとして設定することは理にかなっています。実際、メディアとの関係構築や取材誘致は広報部の主要な活動です。だからこそ、事前知識のない会社がメディア取材獲得自体を広報活動の目的と勘違いしてしまうのです。

 しかし、単純にメディアに取り上げられやすい情報を追求した情報発信に陥ると、「ステークホルダーに何を伝えるのか」という自社の意思を踏まえた一貫した情報発信ができなくなります。伝えたいことが伝わらないことはもちろん、意思のない情報発信がいずれはブランド毀損につながったり、無用な誤解を招いたりすることも起こり得ます。

 特にメディア露出が難しい小さな会社にとっては、広報についての基礎知識を得たうえで、自社において適切な広報活動の目的を設定し、その目的を達成できる活動にフォーカスすることが、限りあるリソースをもとに最短で成果をあげる方法といえます。

経営層との意思疎通がうまくいってない

 B社は、トップが方針を決めて広報担当者が実務を行っている構図です。ただし、社長から広報に向けて「なぜ大手メディアに出ることが良いことなのか」「大手メディアに出ることが自社にとってどんなメリットになるのか」の説明はしていない様子です。そのため、広報担当者は「専門媒体で新サービスが取り上げられた件が評価されていないのはおかしい」とモヤモヤを抱えています。

 自社の広報活動の目的や成果の基準などについて、経営者と広報担当者が共通認識を持っていないとボールがどこに転がっていくか分かりません。広報担当者が会社の「何を」「誰に」向けて広報しているのか分からない状態では広報活動の成果が出ようがありません。

 これは広報活動に限らず基本的なことで、成果が出ていない会社では、経営層と広報担当者の意思疎通がうまくいっていないケースが多く見られます。

広報戦略、組織、業務、人材採用、評価方法を網羅的に解説

ダメな広報には特徴があります。活動目的が明確になっていない、持続可能な体制になっていない、広報活動そのものを広告だと思っている、プレスリリースを出すだけ……根底にあるのは、経営者の無関心あるいは行き当たりばったりの方針です。

松田純子、高橋ちさ著/日本経済新聞出版/2420円(税込み)